004 ノエルとレナーテ(ノエル視点)
神獣様ご所望のオリーブ畑へ来た。神獣様は手頃なオリーブを見つけると、オレから飛び立ちご機嫌な様子で啄み始めた。
オレは、先程群衆へ向けて言った神獣様の言葉の意味を尋ねることにした。
「帰るべき場所に帰るのは当然だ。とは、未だ見つからぬ本物の巫女へ向けて仰ったのですか?」
「キュピ?」
それが何? と、ご機嫌から一転、冷たくあしらわれた。
「はぐらかさないでください。巫女を異世界に帰してはなりません。また、神獣様の身に危険が及ぶかもしれません」
「キュピピ」
「案ずるでない。じゃないですから」
「キュピィピ」
「それは、あいつだったらそうかもしれませんが……」
神獣様は、私が選んだ巫女だ。とだけ話されると、オリーブの実を嘴にくわえ屋根の上へ飛んでいってしまった。
最近、神獣様の成長が著しい。反抗期だか思春期だか、よく分からないが、以前より距離を置かれているような、遠い存在になった気がする。
小鳥と歓談する神獣様を眺めていたら、背後から嫌な気配を感じて振り返ると、やっぱりレナーテが立っていた。
「ごきげんよう。そんな目で見ないでくださる?」
「おい。お前、オレを騙したな?」
「ええ。ヴェルディエの使者の話は嘘ですわ」
「お前っ!」
悪びれもせず堂々としたその態度に反吐が出そうだ。
神獣様の炎を食らわせて邪念が全部吹き飛ばせればいいだが。
「でも嘘はそれだけですわ。お姉様がヴェルディエの第二王子と懇意にされていることは本当です」
「あんな嘘くさい手紙作りやがって」
俺の苦言に、レナーテは口角を上げ不気味な笑みを作り言葉を発した。
「全てお姉様の反応を知るためですわ。お姉様は自白剤で何と仰ったのですか?」
「あれは毒だったんだろ? 飲ませてないって分かってるくせに聞くなよ」
「まぁ。飲ませてないのですか? 本当に役立たずですのね。あの嘘の手紙で、貴方が更にお姉様を追及してくだされば、ヴェルディエの計画が分かり神獣様もネージュ様も守れると思ったのに」
わざとらしく煽るレナーテに苛々が爆発するのを抑え込んで、こいつがオレにどう行動して欲しいのか、逆に探ってやることにした。
「……ヴェルディエの計画? 何の話だ?」
「私だって、ヴェルディエの考えは分かりません。ネージュ様と競うように本物の巫女を探し始めたことぐらいしか。もしかしたら、神獣様を奪おうとしているのかも。だからお姉様から聞き出そうとしたのに。――ヴェルディエに、ネージュ様を害されてもよいのですか?」
「兄者の名を気安く口にするな。オレはお前の口車には乗らない。オレは……」
「お姉様に付くと決めた。……ですか?」
「ああ。そうだ」
オレの心を見透かし馬鹿にしたように微笑むレナーテに即答すると、少しだけ動揺の色が見えたが、レナーテはすぐにオレに睨みを利かせた。
「貴方は必ず後悔しますわ。国民から蔑まれた目で見られる王女に、何を期待しているの?」
「あいつらも何れ分かる。今の王女がどんな人間か」
「そうですか。それなら、もう話はおしまいですわ。私は私なりにネージュ様をお守りする為に動きますから。私の邪魔だけはしないでくださいね」
「お前の方こそ。巫女を害することは許さないからな」
「ふん。城では何も出来ませんわ。出来るのであれば、神獣召喚の後にお姉様が寝込んでいる時にいくらでもやりようがありましたから。では、失礼しますわ」
レナーテは踵を返すと、城内へとを戻っていった。
掴みどころの無い女だ。姉に薬を盛ろうとしたことも認めず、兄者と神獣様の為だと正義を掲げようとする。
もう少し様子を見ることとしよう。レナーテの真の目的が分からないし、誰かと組んでいるかもしれないからな。
それに、寝首をかかれることはないだろう。ああ言って隙きを突いてくるつもりかもしれないが、夜はオレも神獣様も一緒だし、昼間はゼクスとダンテさんがいるから心配はない。
いや。ダンテさんは夜も見張ってそうだな。
だからあいつは……。
「な、なんであんなやつの心配してんだよ。オレは神獣様を守れればそれで」
「キュピピ?」
「なっ……」
素直になれば。って言われても……。
ゼクスと友好の証で結ばれてから、神獣様は精神的にも大分成長された。
それは喜ばしいことだが、少々気を張ってしまう。
紫の尾羽が増えてから、神獣様の魔力が格段と上がったから。自分を含め五人との友好関係が築けた場合、一体どれほどの魔力を有する存在となるのだろうか。




