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016 晴れた空(別視点あり)

 朝陽に心惹かれ、城のバルコニーへと飛び出した。

 こんなトルシュの空を見たのは初めてだった。

 王子としてこの国に生まれた時から、森は厚い雲に覆われ、黒い雲はあるのが当たり前で。


 それが普通だったのに。昨日、火山の噴火のような火柱が上がり、それは黒い空を切り裂いた。


 街のあちこちに火の玉が降り注ぎ、先日のコリーヌ山の噴火を彷彿させる災害を懸念したが、それは侵食された紫の植物だけを焼き尽くし、白煙と焦げ跡だけを残した。

 奇跡的に街の建物も、健全な植物も全て無事で、日を跨ぐと煙が晴れ、空が青を取り戻していた。


「ダンテ。あれは姉様がやったのだな」

「恐らく。森に火山はありません。神獣様とクラルテ様、そしてノエル様の功績でしょう。しかし、侵食された植物は全て焼き尽くされた模様です。森のほとんどは失われました」

「森など元々無かったようなもの。国民を呼び戻そう。森に木を植え、街を立て直そう」

「御意に」

「さて、忙しくなるぞ」


 アレクは開けた空を臨み、自身の声が空へ響く感覚に心地よさを得た。


 それを階下で聞いていたレナーテは苛立ちを隠せずにいた。


「ノエル。全く使い物にならなかったわね。あんなヒヨッ子じゃ駄目だったんだわ。でも、私が必ずお姉様の本性を暴いてみせるわ」


 レナーテはノエルに渡した小瓶と同じ薬の瓶を全て処分することにした。

 もし、ノエルがただ何もできなかっただけでなく、姉についた場合はこちらが不利になる可能性もある。疑われないように、証拠の品は処分するべきだと考えた。


「ロベール王子は何をしているのかしら。あれだけ手伝って差し上げたのに、なんの連絡もしてこないのですから。こちらから連絡を取るしかありませんわね」


 レナーテは羽ペンを取り、ヴェルディエへ向け文を書き始めた。


 ◇◇◇◇


 早朝、私は清々しく目を覚ました。

 こんなに目覚めの良い朝は久しぶりだ。

 多分朝日が眩しかったから。

 テントを出ると晴れた空に笑みが溢れる。


 ここへきてからずっと東の空は黒い雲で覆われていたけれど、もうそんな雲はどこにもない。

 空気も美味しくって風も爽やかだ。


「おはようございます」

「お、おはようございます」 

 

 テントの横で私と同じように両手を広げて体を伸ばすゼクスに声をかけられた。

 清々しい朝にピッタリの好青年。

 そして、宿屋の屋根の上では小鳥たちと戯れる神獣様のお姿が。

 朝日を浴びたその御身は、まさに神。

 昨日、急成長された冠羽が、風に靡いて美しい。


「クラルテ様。私は、晴れた空を初めて見ました」


 私と同じ方向に視線を伸ばし、ゼクスは空を見据えてそう言った。


「空を……初めて……?」

「はい。生まれた時から、空は黒くありました。本来の空は、クラルテ様の瞳と同じ美しい蒼をしているのですね」


 天然の女たらしなのかと思わせるほど、ゼクスの言葉とイケメンオーラがダイレクトに胸に突き刺さる。『トルシュの灯』のゼロフィルドは、思ったことを真っ直ぐに言葉にする純粋で優しい感じの甘いキャラで、画面越しだと優しすぎてあんまり響かなかったんだけど、直にされると凄い力を秘めていた。


「わ、私と比べないでください」

「失礼いたしました。クラルテ様」


 ゼクスは私の名前を呼ぶと、真っ直ぐにこちらを見据えたまま私の前に立ち、ふわりと微笑み跪いた。


「改めまして、私は貴女に忠誠を誓います。この身のすべてを、王女とトルシュの為に捧げます。この蒼き空に誓わせてください」


 私は差し出された彼の手に吸い込まれるようにして右手を添えた。俯いていたゼクスはハッと顔を上げ、また優しく微笑んだ。


「キュピピ~」

「し、神獣様っ」


 神獣様は、ゼクスの誓いを受け入れるが如く、私とゼクスの周りを一廻りすると、指輪と友好の証が同時に輝きを放った。


 昨日、指輪に顕現されたばかりのタンザナイトは、より深みのあるパープルブルーへと変わり、その内から絶え間なく静かな紫の光を溢れさせ、ゼクスの首から下げた銀色の友好の証は、羽先にかけてパープルブルーのグラデーションが色付いた。これは、好感度マックスを表しているに違いない。


 ゼクスは友好の証を手に取り立ち上がると、神獣様と見つめ合った。


「神獣様は、私を認めてくださったのですね」

「キュピピィ~」


 ゼクスの肩に乗り神獣様は高らかに鳴いた。

 神獣様の尾羽根にはパープルブルーの羽が一枚増えていた。



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