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006 妹の策略

 恋文にドン引きしノエルは尻尾をはピンと張り身震いすると、口元に笑みを浮かべて意地悪く尋ねた。


「お前、ヴェルディエの?」

「ないないないない。絶対にないわ! 神獣様のことが書かれているから、最近書いたものって事でしょう? 私、こんなもの書いてないから」

「…………」

「そこで黙らないでよ」

「昨日、お前の妹から色々聞いた。――」


 ノエルは昨夜のレナーテの話をしてくれた。

 どうやら、レナーテは私に薬を盛ろうとしていたようだ。

 神獣様曰く、あのシチューには死を招く毒が含まれていたそうで、ノエルは自白剤だと騙されていたらしい。

 ここへ来て初日の夜を思い出した。やっぱりあれはレナーテだったのだ。流石、悪役王女の妹。やることがえげつないわ。


「だが、オレはお前を信用したわけじゃないからな」

「えっ? じゃあ、どうして話してくれたの?」

「別に。お前の反応が面白そうだから話しただけだ。手紙の内容からして、ヴェルディエの使者の話も嘘だろうからな」

「反応って……。でも、そうね。ヴェルディエの使者の話は、きっと嘘だわ」


 ホッと安心できたような。不安の種が増えたような。複雑な気持ちに悶々としていると、ノエルが真剣な顔で私を見ていた。


「……森の調査が終わるまで」

「え?」

「それまで、お前が不審な動きを一切しなければ、オレは、お前を信用する」

「本当に?」

「ち、違うっ。そうじゃなくて、妹よりお前の方の味方につくってだけで」


 私が喜んでしまったからか、ノエルは頬を赤くして否定した。でも恥ずかしがっていて可愛いのでついからかってしまいたくなった。


「そっか。味方になってくれるのね」

「そうじゃなくて……。し、神獣様が、お前を庇うから。だから、ただそれだけだ」

「分かった。ありがとう。ノエル」


 ホッと笑みをこぼした時、私のお腹が豪快に鳴ってノエルにドン引きされた。

 本当に誰得設定なのよ。この食いしん坊王女は。


「安心したらお腹空いちゃった」

「王女の癖に、はしたない奴だな」

「王女の記憶なんて、これっぽっちもないのだから、仕方ないでしょう?」

「はいはい。記憶がないことも信じてないからな」

「はいはい。好きなだけ疑っていいわ。私はちゃんと伝えたのだし、王女らしくしなくてもいいし好きに振る舞えて楽だわ」

「はぁっ? 元々、お前の言動は全て王女っぽくないぞ? 本当に変な奴だな」


 そう言ってノエルは鼻で笑い宿へと足を向け、私も神獣様と一緒に後をついて行った。


◇◇


 宿屋のベッドはカビ臭くて寝られそうになかったので、外にテントを張って寝袋で休むことになった。

 ノエルは木の上で寝ると行って森の中に消え、私は神獣様と使い魔の仔猫さんとテントを共にしている。

 呪いの領域に入ってから、神獣様はいつもより大人しい。

 多分、私達を呪いから守ってくれているから、体力を消耗しているのだろう。持参したいつもの赤いクッションの上で静かに眠っている。

 明日も早く起きて、なるべく素早く調査を終えなくては。


 仔猫はテントの隅で丸くなり、こちらをじっと見つめていた。今日は目が合っても逸らされない。ノエルと一緒だ。

 この子はノエルそのものに見えてしまう。



「仔猫さん。おやすみなさい」

「…………」


 瞳を閉じると、外から木々の擦れ合う音がした。

 風のない不気味な森から聞こえた音に、閉じたばかりの瞳をハッと見開くと、仔猫も同じ様に立ち上がっていた。


「あ、そっか。ノエルが外にいるのよね。風がない森だからビックリしたけれど、多分ノエルよね?」

「…………」


 仔猫は無言のままブルッと身を震わすと、私の枕の下にギュッと頭から突っ込んできた。ノエルに似て怖がりみたい。


「大丈夫よ。私達には神獣様が付いてるんだから。それに、ノエルも」


 枕に潜り込んだ仔猫をそっと引き抜き胸に抱いた。仔猫は怯えているのか、身体が強張り緊張している様子だ。そっと撫でると、少しだけ体の力を緩めてくれた。

 ノエルもこんな風に、私にデレ部分を見せてくれたら可愛いのに。


 二人の事を思い浮かべたら何だか安心して眠気が襲ってきた。でもこういう時って、誰かが寝ずの番とかするものかな。

 まぁ、いいか。ここは呪われた街。

 命あるものは、誰も入れない場所なのだから。






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