010 ノエルと第二王女(ノエル視点)
「ねぇ。昨日の仔猫はいないのかしら?」
オリーブ畑で巫女がオレに尋ねた。神獣様が新鮮なオリーブをご所望とのことでここへ来たのだが、面倒な奴がついてきてしまった。神獣様と戯れ合う巫女にオレは適当に言葉を返した。
「あー。あれは夜だけだ」
「じゃあ。夜になったら会えるのね。私、猫と住んでいたことがあって、好きなのよ。しかも昨日のあの子は仔猫で可愛くて、毛もフワフワで――」
「あっそ。そんな話に興味はない」
「あら。使い魔は大切にしなさいね」
使い魔じゃなくてオレだ。可愛いだ何だ好き勝手に言いやがって、聞いているだけでぞわぞわして首筋がこそばゆい。絶対にこいつにはバレたくないな。
しかし、森の調査はこいつと一緒なのか。
一人よりはマシだが、それはそれで面倒だ。
「そういえば。お前、乗馬も出来ないくせにどうやってついてくる気だ?」
「あ。そっか。そうね。私、練習してくるわ!」
「キュピピ」
巫女と神獣様は頷き合うと城の方へ駆けていった。
「あっ。ちょっと待てっ」
◇◇◇◇
結局、午後はずっと乗馬練習に付き合わされた。
いや。練習ではなく訓練だな。
あの執事の指導は厳しかった。
だけどあいつ、何度も馬に無視されたり振り落とされたりしていたのに、乗れるまで諦めなかったな。
神獣様は応援し疲れて夕食を前に遅いお昼寝中だ。
あいつはオレの部屋まで付いてきたが、神獣様が休まれたのを見届けると、執事に連れられて部屋へ戻っていった。
「やっと静かになったな」
ホッと溜息をついた時、部屋の扉がノックされた。
またあいつか。うんざりしつつ扉を開けると、もう一人の王女が立っていた。名前は何だったか、覚えてすらいない。
「ノエル様。お話したいことがございます。よろしいですか?」
「……ああ」
「では、失礼いたします」
王女はオレを押しのけ図々しくも部屋に入ると、勝手に扉を締めた。王女と二人きりだなんて御免だ。またあの執事になんて言われるか分かったもんじゃない。
「お、おい」
「失礼いたします。と断りましたでしょう? すぐお話は終わりますので、お聞きくださいませ」
あ。こいつ苦手だ。
見下したような瞳と、威圧的な態度。
あの王女の噂はこの女のことだったのではないだろうか。
「お姉様に心を許してはなりません」
「……は?」
「妹である私は、姉のことをよく知っております。神獣様をチヤホヤなさっているように見えますが、何か裏があるに違いありません。決して油断なさらないようにと、忠告に参りました」




