003 神獣の守り人
『トルシュの灯』では、ツンデレ猫王子は神獣様の言葉が分かる設定だった。
序盤の好感度が低い時に、神獣様の御心は自分が一番分かっている、みたいな顔して喋るから嫌いだったけれど。
でも、神獣様と会話できるのは、守り人に選ばれたテニエの者だけ。テニエの里に行った時、神獣様の意向をモブ獣人達に伝えるのは、守り人であるジンの役割だった。
だからやっぱりこの人は、私の未来の旦那様になる人だ。
いや。人ではないか。まぁ、いい。猫目で気が強そうで、ちょっと幼さの残る顔立ちだけれど、神獣様の守り人なら、神獣推しの私とも気が合うだろう。
私が尊敬の眼差しを向けていたからか、彼は一瞬狼狽えたけれど、また眉間にシワをグッと寄せて声を張って言った。
「そ、それより、オレの質問に答えろ! お前は巫女なのか!?」
「あの。その様な物言いでは初対面の相手に失礼ですよ。私はクラルテ=トルシュ。今は巫女の代理を務めております。代理というか、神獣様のお世話係です。それから……あ、貴方の婚約者です」
自分で婚約者って名乗ったら、急に恥ずかしくなってきて、彼の視線から逃れるように俯いてしまった。
彼は何も言わない。でも視線だけは感じるので目線だけ上げて顔を確認すると、彼は物珍しそうに私を見ていた。
「へぇ~。あんたがそうか。自己中で傲慢で有名なトルシュの王女。神獣様を召喚したのは、国の闇を払い、テニエと婚約しなくてもいいようにする為か? だが、どう足掻こうと婚約破棄などさせない。お前は一生、テニエの奴隷になるんだ!」
「キュピピ~」
彼が睨みを効かせて私を指差すと、神獣様まで一緒になって鳴き声を上げた。彼の言葉の意味など全く分かっていなさそうな可愛らしい声に、つい口元が緩んでしまう。
それに、目の前の彼は、凄んで見せてもそんなに怖くなかった。
「奴隷? 貴方みたいに神獣様の前ではデレっとしてしまう方に、人を奴隷扱いなんて出来るのかしら?」
「で、デレって何だよっ!?」
「さっき神獣様と戯れていた時みたいに、締まりのない顔をしている事よ。まぁ、神獣様は可愛すぎるから、仕方ないのは分かりますけど」
「はぁ? 変なやつ。――言っておくが、オレはお前の婚約者じゃないからな」
「だから……。えっ? じゃあ、貴方は誰なのよ」
「オレは……やべっ。そろそろ戻ってくる。――神獣様、また後ほど」
青年は神獣様に挨拶をすると、海岸の方へと走り去っていった。
「何なのよ。結局誰なの?」
「キュピピ」
神獣様は懐いているから、やっぱり守り人だと思うのだけれど、婚約者ではないと言う。
「また後でって言っていたし、次に会った時には分かるわよね。――神獣様。部屋へ戻りましょうか」
「キュピ!」




