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犬の恩返し  作者: あいまり
白田仔犬編
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第6話 好意

 それから学校の授業自体が行われたが……正直に言って退屈過ぎた。

 というか、恐らく学校生活で不便しないようにという配慮だろうか、一通りの知識はあるのだ。

 だから授業を受けてもとっくに分かっていることを延々と説明されるだけだった。


 しかし、だからと言って授業時間が無駄になることは無かった。

 なぜなら、私の席は美雪の席より後ろにあり、ずっと美雪を観察することが出来たのだ。

 ノートに板書を写す美雪。

 時折髪を耳に掛ける美雪。

 眠そうにしてウトウトする美雪。

 その全てがすごく綺麗で、時間なんて忘れて見惚れていた。


 あと、体育? とかいう、運動の授業があった。

 どうやら私の身体能力は高いらしく、美雪曰く、私がクラスの中で一番上手いらしい。

 その時の美雪の呆れたような笑みは、思い出すだけで気持ちが昂った。


 と、まぁ、そんな時間を乗り越え、昼休憩を迎えた。


「美雪~! ご飯~!」


 そう言いつつ美雪の机に近づくと、美雪は呆れたような笑顔を浮かべた。

 美雪は何をしても可愛くて綺麗で素敵なのだが、この曖昧な感じの顔をすることが多く感じる。

 もしかして、私は呆れられているのだろうか。

 とはいえ、美雪と一緒に話せるということだけでテンションが上がって、最初にこういうテンションで美雪と話してしまった。

 今は大分落ち着いてはいるが、今更話し方を変えると怪しまれそうだし。

 だから、今のテンションを保つ方向で……頑張ろう。


「それで、シロのお昼ご飯は?」

「無いよー」

「へぇ……は!?」


 驚く美雪に、私は笑顔を浮かべながら首を傾げて見せた。

 あれ……? 変なこと言っちゃった……?

 ていうか、私お昼ご飯持ってきてるの?


 しかし、それはどうやら私の早とちりだった様子で、美雪が私の鞄の中を見たら弁当があったらしい。

 鞄なんて全然開けてないから気付かなかった……。

 いや、だって授業は基本聞かなくても分かるからさ……。


「美雪、白田さん。私達も一緒に食べて良い?」


 その時、声を掛けられた。

 見ると、それは、何やら奇抜な雰囲気を漂わせる二人の女子高生だった。

 えっと……同じクラスだっけ?

 見覚えのない二人組、私は首を傾げる。

 とはいえ、美雪と知り合いみたいだし、美雪に聞けばいいか。

 そう思って美雪を見た時、私は言葉を失った。


 だって、美雪が黒田さんをジッと見つめていたから。

 美雪が黒田さんとしか呼ばないから、苗字? しか分からない。

 ていうか、なぜあの馬糞野郎を気に入っているんだ……。

 私は不満に思いつつも、美雪の体を揺すった。


「美雪~。一緒に食べたいって~」


 私の言葉に、美雪は我に返ってキョトンとした表情で私を見た。

 その顔も可愛いけど、なんだか気に入らない。

 美雪はしばらくパチパチと瞬きをした後で、フッと無表情になった。

 ……?


「……私は別にどっちでも良いよ。シロは?」

「美雪が良いなら私も良い~」


 私の言葉に、美雪は無表情のまま二人に「良いよ」と言った。

 ……美雪は、たまに無表情になる時がある。

 それは、大抵クラスメイトと話している時だ。


 ……美雪は、黒田さん以外のクラスメイトは嫌いなようだ。

 そう考えると、私は美雪に好かれているのだろう。

 その事実だけで私は胸が熱くなるのを感じた。

 顔がにやけそうになるのを堪えながら、私は弁当の蓋を開けた。

 すると、それを見た美雪が目を見開いた。


「えっ……弁当の中身、一緒……?」

「やったぁ! 美雪とお揃いだー!」


 美雪とお揃い。

 自分で言って、すごく甘美な響きだ。

 そのお揃いのものが弁当のオカズであることは少し残念だが……ワガママは言うまい。


「そういえばさ、二人はどういう知り合いなの?」


 その時、一人の女がそう聞いてくる。

 ……化粧が濃いなぁ……。

 犬の嗅覚でなくても分かる香水の匂いに顔をしかめそうになるのを堪えつつ、考える。

 正直に言うべきなのだろうか……いや、やはり隠した方が良いだろう。

 それは分かっているのだが、美雪を困らせたいという欲望が湧き上がる。

 ……良いよね? 美雪なら、カバーしてくれるよね?

 欲望に耐え切れず、私は口を開いた。


「あのねー、私は美雪にかわr」

「シロ! 黙って!」


 美雪にそう言われ、私は黙った。

 美雪の言うことは絶対だ。彼女の言葉逆らえない。

 本能に刻み込まれたそれが、私の口を閉じさせた。


「えっと……?」

「あっはは……私達の関係なんてどうでもいいじゃん。それより、他に何か聞きたいこととか無いの? シロに」


 黙っている間に、美雪が話を振ってくる。

 それに私は心の中で「美雪~!」と叫ぶ。

 なぜ私に話を振る! 私は美雪と話したいだけなのに!


「そうだった。ねぇ白田さん。白田さんは、好きな人とかいる?」


 しかし、聞かれたことはすごく簡単なことだった。

 良かった。難しい質問じゃなくて。

 私は安心し、すぐに答えた。


「私はねー、美雪が大好き!」

「いや、そういうのじゃなくて、恋愛とかの……」


 恋愛? ……美雪しか思い浮かばないなぁ。

 私の思惑を知ってか知らずか、二人は何やら戸惑いつつ色々聞いてくる。

 それに適当に答えつつ、なんとなく美雪を見た。


 ……美雪、また黒田さんのことを見てる。

 しかも……またあの顔だ。

 赤らんだ顔。潤んだ目。恋情を露わにしたような顔。

 ……気に食わない。


 気付いたら、私は二人と意気投合していた。

 適当に応答してたら、何か話が合っちゃったみたい。

 ……まぁいいや。

 美雪を困らせるような事態にならなければ……それで良い。

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