第24話 修羅場
「私が好きなのは……美雪だよ」
白田さんの言葉に、私は立ち止まる。
これはまさか……告白?
そう戸惑っている間に、会話は続く。
「ずっと好きだったよ。犬だった頃から、ずっと」
「でも……私は人間で、シロは……犬で……」
「うん。変だってことも、この恋が叶わないことも分かってる! でもしょうがないじゃん! ずっと好きだったんだから!」
「でも……」
……これが世に言う修羅場というやつですか?
逃避癖のある私の頭は、すぐにそういうことを考えた。
その間にも、会話は続く。
「変だと思わなかった……? なんで、犬である私が、美雪にあんなアドバイス出来たか」
「アドバイスって……恩返しの?」
「うん、そう」
「あれはね……美雪からされて、嬉しかったことなんだよ?」
「私から……?」
「……一緒に食事を食べる。身だしなみを整える。一緒に遊ぶ」
その会話を聞いただけで、分かってしまった。
どれだけ、二人の関係が深いのか。
どれだけ……美雪さんが、白田さんを愛していたのかを。
そう、人間が人間を好きになるとも限らないのだ。
きっと美雪さんは……白田さんが犬だった頃から、愛していた。
そして、逆もまた然り。
白田さんも……美雪さんを愛していた。
「シロ……」
「ごめん、迷惑だよね……でも大丈夫だよ……―――」
白田さんの言葉に、私は血の気が引くのが分かった。
そんな、まさか……!
私のその、『まさか』は……現実になる。
「―――……だって私、もう死んじゃうから」
……きっとそれは、美雪さんにとって、一番聞きたくなかったであろう事実。
けど、白田さんは、私と美雪さんが付き合っても成仏しないと言っていた。
じゃあ、まさか……自殺?
「ッ……ぁぁぁあああああッ!」
その時、美雪さんの声がした。
彼女の泣き声に、私は咄嗟に飛び出した。
そこには……道路に膝をつき、泣き崩れる美雪さんがいた。
今まで、逃げ続けるだけの人生でした。
ただただ辛い事から逃げるだけで、自分からは変わろうとしませんでした。
だから……今、変わるんだ。
目の前の状況から逃げたくない。
私は……変わるんだ!
「何をしているのですか?」
私の言葉に、美雪さんは顔を上げた。
その顔は、涙でグチャグチャに濡れた、憐れなものだった。
今、美雪さんはすごく辛いハズ。
だから、私が彼女の力になる。
私はもう……逃げない。




