第16話 歪み
「実は、私とクロは……今日から、付き合うことになりました」
お姉ちゃんが放ったその言葉を理解するのに、しばらくかかった。
え、お姉ちゃんと……花織お姉ちゃんが?
それを聞いて、私は咄嗟に、視線を仔犬お姉ちゃんに向けた。
「えっ、付き合うことになったって……いつの間に?」
呆然とした表情でそう聞く仔犬お姉ちゃん。
まだお姉ちゃんの発言の意味を完全に理解しきれていないのか、物凄く間抜けな表情だった。
「……さっき観覧車に乗った時に」
お姉ちゃんの言葉に、仔犬お姉ちゃんの表情が歪む。
しかし、すぐに無理矢理笑みを浮かべて「おめでとう」と言った。
それから泣きそうになっていたのを自分の頬を叩くことで無理矢理誤魔化した。
「良かったね! 美雪、黒田さんのこと、大好きだったもんね!」
無理してるということが、嫌でも伝わる。
私はそれに胸が痛くなって、「仔犬お姉ちゃん……」と呟いた。
それから花織お姉ちゃんの提案により、私達は帰ることになった。
しかし、仔犬お姉ちゃんが帰り道で言葉を発することはなかった。
気まずかったし、何より……完全に失恋したという事実が、私の心を蝕んでいた。
「……私の家、こちらなので、お先に失礼します」
しばらく歩いて交差点のような場所に着くと、花織お姉ちゃんがそう切り出した。
ただでさえ気まずかったのに、花織お姉ちゃんまでいなくなったら、私の胃が持たない。
何より、この二人は一度しっかり話し合う必要がある。
ここは適当な言い訳を作って逃げよう。
「あっ。ごめんお姉ちゃん。私、ちょっと本屋行ってくる」
「えっ?」
「今日好きな漫画の新刊日なんだよね~。すっかり忘れてた。仔犬お姉ちゃんと先帰っててよ!」
そう言いつつ私は手を振って、その場から逃げるように走り出した。
地面を蹴り、腕を振って、行き場もなく走る。
走れば走るほど……悔しさが滲んでくる。
悔しい。
分かっていたのに。
割り切っていたハズなのに。
でも、やはり本人から拒まれると……悲しい。
「わッ……」
その時、誰かとぶつかった。
かなり全力で走っていたため、私はそのまま地面に尻餅をつく。
打ち付けた腰を擦りながら、私は「いっつつ……」と声を漏らした。
「っつぅ……あ、ごめんなさい。前ちゃんと見ていなくて」
「あぁいえ、私の方こそ考え事をしていたから……」
そう言いつつ前を見た時、私は言葉を失った。
私とぶつかった相手も、同じように私を見て固まった。
だって、そこにいたのは……―――
「―――……千沙……」




