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犬の恩返し  作者: あいまり
岡井美雪編
36/132

第36話 宣言

 それからゴンドラから下りるまでの間、私達は隣同士で手を繋いで座った。

 あまり広くないゴンドラ。

 椅子の幅だってそこまで大きくないので、二人で座ると、かなり身を寄せないといけないことになる。

 でも、その狭苦しさが、すごく心地よかった。


 未だに信じられない。

 別世界の人間だと思っていたクロと恋人になれただなんて。

 それもこれも、全部シロのおかげ……。


「あっ……」


 そこで私は、重大なことに気付いた。

 なぜ忘れていた。なぜ気付かなかった。

 私とクロが付き合うということは……―――シロが成仏してしまうということだ。


「……美雪さん? どうしましたか?」


 クロが心配そうに私の顔を覗き込んでくる。

 恐らく、私の顔色はかなり悪く、表情は物凄く硬くなっていることだろう。

 ひとまず「クロと二人きりだから、なんだか緊張してきちゃって……」と誤魔化す。


 もしかしたら、今すでにシロが成仏している最中かもしれない。

 どんな成仏の仕方なのかは分からない。

 でも、確実にシロに異常は出る。というか死ぬ。


 そうなった場合……美香はどうなる?

 想い人の死を目の前で見せつけられた美香は……どうなるんだ……?

 すると、汗に手を掻いていたのだろう。クロが「美雪さん……?」とまた不思議そうに聞いてくる。


「な、なんでもないよ!」

「……まだ何も聞いていませんが?」

「うッ」


 墓穴掘ったッ!

 後悔していると、クロは少し苦笑して、コテンと首を傾げた。


「どうしましたか? 何か……ありましたか?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど……まぁ、色々……」

「……?」


 不思議そうな顔をするクロ。

 このまま話を続けて墓穴を掘り続けるわけにもいかない。

 私は咄嗟にハンカチを取り出し、クロに差し出した。


「こ、これ!」

「はい……?」

「私の汗で汚れちゃっただろうから……これで拭いて」


 私の言葉に、クロはキョトンとした後で、クスッと笑った。

 それからハンカチを受け取り「では、お言葉に甘えて」と言った。

 ご、誤魔化せた……。

 ホッとしていた時、ゴンドラの扉が開く。

 スタッフさんに促され、私達はゴンドラから下りる。

 その際に段差で転びそうになったら、クロが支えてくれた。


 しかし、今はそれより重要なことがある。

 私はゴンドラの方に振り向き、次に続くゴンドラを見つめる。

 黄色のゴンドラが下り、スタッフさんが扉を開ける。

 そして……―――


「美雪~!」


 ―――……シロが出て来た。

 こちらに手を振りながら近づいて来るシロを見た瞬間、体から力が抜ける。

 下が地面であることも構わず、私はその場にへたり込む。

 良かった……シロが、生きている……。


 へたり込んだ私を見て、シロが心配した顔で駆け寄ってくる。

 彼女の後ろには、放心した様子の美香がフラフラと歩いて来るのが分かった。

 何があったのかは分からないが、構っている余裕は無い。

 私はクロとシロに支えられながら、フラフラと立ち上がる。


 シロと触れている左腕が、彼女が生きているということを知らしめる。

 少なくとも、私とクロが付き合ったという既成事実だけではシロは成仏しなかった。

 では、クロと付き合っていることをシロに言わなければ、シロは成仏しないのでは?

 そこまで考えて、私は首を横に振る。


 そんなこと、許されるわけがない。

 シロはすでに一度死んだ命。

 今ここにシロがいるという事実は……許されないことなんだ。

 だから、言わないといけない。


「ねぇ、シロ、美香。……報告があるんだけど」


 私の言葉に、シロはキラキラした目で「なぁに~?」と聞いてくる。

 それに対し、美香はふと顔を上げて、何も言わずに私を見た。

 本当にどうしたんだろう……そう不思議に思いつつも、私は見せつけるようにクロの手を握り、宣言するように続けた。


「実は、私とクロは……今日から、付き合うことになりました」

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