第35話 同じ
「美雪さん。私の……恋人になってください」
彼女がそう言った瞬間、世界の時間が止まったような気がした。
しかし、窓から見える景色が。腰から伝わってくる微振動が。徐々に速くなる鼓動が。
世界の時間が止まってなんかいないってことを伝えてくれる。
「えっ……と……」
なんとか絞り出すように、そう声を漏らした。
自分の顔が熱くなるのを感じながら、私は喉を振り絞り、声を発した。
「なんで、私、なんか……!」
「なんで、って……」
私の言葉に、クロは困惑したように顔を赤らめ、目を伏せる。
モジモジと太ももを擦り合わせながら、口を開いた。
「私……小さい頃から、友達って、いなくて……皆どこか、心の距離を、感じて……」
「……」
……そうか。そうだったんだ。
今まで私も、心の中で思っていた。
なんでクロは、私『なんか』と仲良くしているんだろう……って。
クロのことを、特別な存在だと思い込んでいたんだ。
美少女。容姿端麗。才色兼備。眉目秀麗。将来有望。その他諸々。
それほどまでに完璧な少女を……自分より上の存在だと思い込んでいた。
でも違うだろ……?
どんなに完璧でも、どんなに凄くても……同じ人間なんだ。
同じ年齢で、同じ学校に通っていて、同じクラスで、同じ性別で……。
そう思っていた時、クロに手を触れられた。
顔を上げると、そこには、潤んだ目で私を見つめるクロの顔があった。
「でも……美雪さんは違った。美雪さんは……対等に接してくれた」
「そんな、対等なんて……」
「……少なくとも、私にとっては……初めての友達でした」
その言葉と共に、私の手が強く握られる。
クロの弱々しい声は、さらに言葉を紡ぐ。
「初めて、あだ名で呼んでくれた……初めて、一緒にご飯を食べてくれた……初めて……一緒に遊んでくれた」
掠れた声。でも、不思議と悲しそうな雰囲気はない。
私を見つめるクロの顔は、僅かに歪んだ。
「私……最低ですよね……そんな大切な友達に……こんな感情を抱くなんて……」
「……そんなこと……」
「でも……好きなんです……美雪さんのことが、好きで好きで、堪らないんです……だから……―――ッ!」
それ以上の言葉は、聞きたくなかった。
気付いたら、私はクロの唇を奪っていた。
視界の隅で広大な景色が揺れるのを見ながら、私は唇を離した。
真っ赤な顔で私の顔を見上げるクロ。
「……私から、言いたかった……」
咄嗟に零れた言葉は、そんな言葉だった。
私は込み上げてくる感情を押さえながら、続けた。
「私もクロのこと……大好きだよ」
「ッ……」
両手で口を押さえるクロに私は微笑んで、彼女の華奢な体を抱きしめた。
少しして、クロも私の腰に両手を回す。
まさか、こんなにもあっさりと両想いになれるなんて思わなかった。
嬉しい。幸せって、こんなことを言うんだろうな。
でも、なんでだろう。
幸せなハズなのに……私はクロのことが好きなハズなのに……―――
―――なぜ、シロの顔が浮かぶんだろう。




