第12話 入浴
シロを洗うのは想像以上に疲れた。
いや、別に彼女が暴れたりとかしたわけではない。
ただ、やはり人を洗う経験というのを初めてしたので、なんていうか、精神面で疲れた感じだ。
力加減とかも気を付けないといけないし、結構神経を使う。
「あ、明日は頑張って自分で洗うねっ」
「んー……」
恐らく疲れが表情に出ているのだろう。シロが慌てた様子でそう言って来た。
しかし、それに真面目に返す気にもなれず、私は生返事をした。
「ほ、ホントだよ?」
「分かったから……今日は色々疲れた」
そう言いつつ、私は体から力を抜いて浴槽の壁に体重を預ける。
すると、ずっとその様子を見ていたシロがゆっくり私に近づき、抱きしめて来た。
「わ、ちょっと……」
「私も疲れた~」
ヘラヘラと笑いながら、シロは私の体を強く抱きしめる。
肌が直接触れ合って、なんだか居心地が悪い。
「ちょ、シロ……!」
「えへへ、美雪あったかい」
「それはお風呂が温かいから……! はぁ……」
何を言っても無駄だと思い、私はため息をついた。
すると、シロはニマニマと笑って、私に背中を預けて来た。
目の前に白い髪がある。
私は彼女の華奢な体を後ろから抱いて、彼女の肩に顎を乗せる。
「……シロはさぁ、こっちの世界でしたいこととかあんの?」
なんとなく気になって、そう聞いてみた。
すると、シロは「んー」と声を漏らす。
「美雪と一緒にいたいくらいかなー」
「あっそ」
相変わらずのシロに私はそう返した。
すると、彼女は私の腕の中で身を捩り、私と顔を合わせた。
彼女の肩に顎を乗せるために顔を前に出していたため、かなり近い位置に彼女の顔がある。
「わッ……」
「美雪はさ、私としたいこととか無いの?」
その言葉に、私は頬を引きつらせた。
シロとしたいこと、か……。
「……無い、かな……」
「えー」
えーと言われても仕方がないじゃないか。
突然人間になって目の前に現れて、おまけの今日だけで色々わけがわからないことだらけなのだから。
せめて考える時間が欲しい。
「まぁ私も、シロと一緒にいられるだけで幸せだよ?」
「ホント!?」
目をキラキラさせるシロに、私は「もちろん」と言って笑って見せた。
すると、彼女はさらにパァァァと顔を輝かせて、「美雪大好き!」と言って抱きついて来る。
結構動きが大きかったためか、水しぶきが上がり、浴槽の中のお湯がザブンザブンと波を立てる。
「わ、ちょ、シロ! こんな狭い場所で暴れたら危ないでしょ!」
「えへへ~。美雪~」
私の注意を聞き流し、シロは嬉しそうに私を抱きしめる。
まぁ、初めてのお風呂だし、今回ばかりは大目に見るか。
「ハイハイ、私も大好きだよ」
そう言いつつ抱きしめ返すと、シロは嬉しそうに笑った。
それからしばし抱擁し合った後で、のぼせるといけないので風呂を上がった。
シロに服を着せていると、ちょうどトイレに行くところだった美香が私達のことを見ていた。
色々迷った挙句に「シロがのぼせた」と答えて見ると、渋々納得してくれた。
かなり苦い顔をしていたけれど、気にしない気にしない。




