第15話 安心
学校に行く道を歩きながら、私は自分の唇に手を当てた。
昨日……美雪とキスしちゃった……。
しかし、美雪は本当に熟睡していたみたいで、私のキスには気付いていないみたい。
だから、本当に私の自己満足でしかないのだけれど……嬉しいものは嬉しい。
「それで、今日から黒田さんと私をくっ付けるために動き出すんだっけ?」
一人でニマニマしていると、美雪がそう聞いてきた。
私はそれに顔を上げて、大きく頷いた。
「うんっ! そうだよ!」
「えーっと……具体的には、どんな風に?」
「えへへ、それはお昼ご飯までの秘密だよ~」
口に人差し指を当てながら言うと、美雪は「え~」と言って困ったように笑う。
一応、今回の恩返しの計画はある。
……未だに気は進まないが、美雪の為だ。
腹を括ろう。
「……そういえば、シロ」
「ん~?」
「今日の放課後、どこか遊びに行ってみない?」
しかしそこで、美雪から意外な提案があった。
「遊び? どっか行くの!?」
「え、うん……折角シロがこうして人間になったんだし、人間らしい遊びでもしようかと」
美雪の言葉に、私は幸福感に満たされた。
美雪と遊び。犬だった頃のように、公園で遊んだり出来るのかな。
そう考えると、すごく嬉しかった。
「えっとね~、じゃあ公園でボール遊びを」
「却下」
しかし、私の提案はあっさり却下された。
なぜだ! 私と美雪が遊ぶと言ったら公園でボール遊び一択じゃないか!
「え、なんで~」
私がそう不満そうに聞いてみると、美雪はジト目を向けて来た。
最早答えるのもめんどくさい、と言いたげな様子でため息をつき、美雪は口を開く。
「他に無いの? 行ってみたいお店とか」
「無いよ~。だって、どんなのがあるのかとか、知らないし~」
私がそう頬を膨らませながら言って見せると、美雪は「あぁ……」と声を漏らした。
事実、そうなのだ。
確かに日常生活で困らない程度の知識はあるが、逆に言えば、その程度の知識しかないのだ。
だから、この町の知識なんて一切無い。
……それに……。
「……それに、私は美雪と一緒なら、どこでも楽しいよ?」
そう言って、首を傾げて見せる。
結局のところ、私は美雪さえいれば何でもいいのだ。
美雪と一緒なら、例えゴミ置き場だったとしても楽しい。
私の言葉に、美雪は驚いたように目を丸くして、ほんの一瞬立ち止まった。
それからフッと優しく笑って、再び動き出す。
「そっか……じゃあ、放課後は私が楽しいって思う場所に連れて行ってあげる」
「ホント!?」
「うん」
「わーい! 早く放課後にならないかな~」
放課後に、美雪と、デート。
その単語だけで、私は嬉しくなってしまい、ピョンピョンと弾むように歩いた。
すると美雪は笑い、小走りで私の隣に並んだ。
その時、彼女の手が空いていることに気付き、咄嗟に私は彼女の手を握った。
温もりが伝わって来て、不思議と胸が熱くなり、安心した。
「ん?」
「えへへっ。美雪の手ギュッてするとね~、なんか安心するの」
そう笑顔で言って見せると、美雪は恥ずかしそうに笑い、顔を赤らめた。
しかし拒絶するわけではなく、むしろ、彼女からも手を握り返してくれた。
嬉しくて、私は彼女に体を寄せた。
「シロ。くっつきすぎると歩きにくいよ」
「えへへ~。美雪あったかい~」
私がそう言って見せると、美雪はため息をつく。
でもその顔は笑っていて、少なくとも、嫌だとは思っていない様子だった。
「……うん。私も」
そう言って微笑む美雪に、私は自分の顔が綻ぶのが分かった。




