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犬の恩返し  作者: あいまり
岡井美雪編
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第10話 食事

 晩ご飯の時間になり、私とシロは一階に下りた。

 すると、そこには母さんと、仕事からちょうど帰宅したばかりの父さんがいた。

 母さんや美香のように、父さんもシロを見ても特に驚かずに、普通に過ごしていた。

 相変わらずの違和感を抱きつつも、後から下りて来た美香と共に、私達は食事を始めた。


「わぁ……すごく美味しい!」


 晩ご飯のオカズであるピーマンの肉詰めを口にした瞬間、シロは目を輝かせながらそう言った。

 私や美香が普段そういうことを口にしないためか、母さんは大層嬉しそうにした。


「そう?」

「うんっ! 美雪はいつもこんな美味しいご飯を食べてたんだね~」


 そう言ってパクパクと食べるシロ。

 そういう反応に慣れていなかったのか、母さんは上機嫌になる。


「ふふっ。おかわりあるから、遠慮なくたくさん食べてね?」

「はーい!」

「仔犬お姉ちゃん凄いなぁ。……それじゃあ、私のやつも一個あげるよ」


 美香はそう言って、自分の皿に盛りつけてあった三つのピーマンの肉詰めの内一個を箸で摘み、シロの皿に移そうとする。

 すると、母さんがジロッと美香の手元を見て、「美香?」と怒りの籠った声を発する。


「ピーマンが嫌いだからって、仔犬ちゃんに押し付けようとしてるでしょ?」

「ウゲッ……そんなこと……」

「美香~?」

「うぅ……」


 どうやら図星だった様子で、美香は大人しく自分の皿にピーマンの肉詰めを戻し、息をついた。

 一連のやり取りを見ていた父さんは、「はっはっは」と笑った。


「好き嫌いはいけないよ。美香も美雪や仔犬ちゃんを見習って、ちゃんと全部食べなさい」


 父さんの言葉に、美香は恨めしそうな目を私に向けて来た。

 いや、そんな目されても知りません。

 とはいえ、自慢ではないが、私は昔から好き嫌いは特にしない方だ。

 自慢では無いけど。


「お姉ちゃんは良いよね~。ピーマン食べれて」

「美香の方こそ、中学二年生にもなって好き嫌いしないの。ホラ、食べさせてあげるから」


 そう言いながら私は自分の箸で美香のピーマンの肉詰めを細かく切って、彼女の口に運ぶ。

 すると、美香は顔を真っ赤にした。


「ちょっ……自分で食べれるから!」

「ん~? 自分で食べれないからシロに押し付けようとしたんでしょ?」

「ぐぅ……!?」


 美香が怯んだ隙に、彼女の口にピーマンの肉詰めを入れた。

 すると、彼女はギョッとした表情をしつつ、それを咀嚼する。

 やがてゆっくり飲み込むと、顔をしかめた。


「うぅぅ……後は自分で食べるから……」

「ハイハイ」


 美香はムスッとした表情をしながら、残りのピーマンの肉詰めを食べて行く。

 家族全員の目の前でアーンさせられるような屈辱的な真似をさせられるくらいなら、自分で食べたいのだろう。

 そう思っていた時、袖をクイックイッと引かれた。


「ん?」


 視線を向けると、そこには、私に向かって口を開いているシロの姿があった。

 ……歯並び良いな、この子。


「どうしたの? シロ」

「さっき美香ちゃんにしてたやつ、やって?」

「「は!?」」


 シロの突然の言葉に、私だけでなく美香までもが反応する。

 美香がなぜ反応したのかは知らないが、それどころではない。

 美香にやっていたやつって……アーンのこと?

 不思議に思っていると、シロはムーッとした表情をする。


「してくれないの?」

「あ、いや……一回だけね?」


 私の言葉に、シロは嬉しそうな表情をして口を開けた。

 仕方なく美香の時のようにピーマンの肉詰めを細かく切り分け、摘まむ。

 そして、シロの口に入れてあげると、シロは嬉しそうにそれを咀嚼する。


「美味しい?」

「うんっ! 美雪に食べさせてもらった方が美味しい!」


 シロの言葉に、私はため息をつく。

 まぁ、ひとまずシロが満足してまた自分で食べ始めたから良いか。

 そう思い、私も皿に向き直り、食事を再開した。

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