#07 悩みのハードルって、当事者にならないと高さが分からない話
また1日開いてしまいました……
なんというか、土曜が潰れるとこんな社会……的な思想に陥りますね。
……今度ディストピア転生モノ書いてみようかなと、ふと思ってしまう日々です。
「へぇ……澄香ちゃんって意外と積極的なんだねぇ」
「いやっ、だ、だからですね。課題疲れで軽く寝ちゃっただけですって……」
部室に出てくること自体が不定期な、私が交流を持っている唯一の先輩、金城 百恵先輩。
だけど、そんな先輩に秋ちゃんたちと同様、佐藤君の家に行ったときの説明をした結果。
百恵先輩の反応は、私が期待していたモノではなく、面白い話を聞いた表情という、期待の真逆の結果になってしまった。
……そもそもの話、私が悩んでいるのは、ベッドで軽く(体感)眠ってしまった後の話なのに、どうして本題に行く前に話がこじれてしまうのだろうか。
面白ければ取り合えずOK主義な百恵先輩が、私の話を聞いて歪な笑みを浮かべた時点で、これ以上話を続ければ面倒になるのは決まったようなもの。
ならば、私は少しでも本題に行けるよう、軌道修正を図る。
「ていうかですね、先輩。ここのお話は秋ちゃんたちにして、もう終わった話なんです。だからこれ以上話を止めないでくださいよぉ」
「えー、いいじゃんかー。なーんでかクラスの子とか、この手の話になると私をやたら入れようとしないからさ……恋バナって奴に憧れてたんだよねー」
「い、いや……それは先輩の性格の――」
「澄ちゃん、百恵先輩がこの顔してるときは諦めるしかないよ」
どうにか話を切り上げたい思いで、私が口を開いたところを、既に諦めの表情をしている秋ちゃんに止められる。
「はぁ……」
「それでさ、そのクラスメイトの男の子のベッドはどうだったの? 寝心地最高だった? 起きた時はどうだった? お目覚め最高ー! って感じだった?」
面白いものを見つけた百恵先輩は、普段以上にテンションを上げ、私の回答なんか待っていないように、審判の判定を待たず矢継ぎ早に質問を投げてくる。
そんな先輩の顔を見ながら、私はあからさまに溜息をしてしまう。
結局、私が本題に入れたのは、それから20分後だった。
☆
「まあ、なんていうか……澄ちゃんらしいね」
「それだけ、佐藤君が特別だということでしょう」
「ほむほむ……何というか、澄香ちゃんのラインがよく分からないね?」
「そうですか?」
20分後、百恵先輩の質問攻めから解放された私は、ようやく本題に入ることができた。
本題に付いて3人に話をすると、三者三葉の反応を見せる。
私が悩んでいる事というのも、言葉にすれば至ってシンプルということもあって、微妙な表情を浮かべる3人の反応を見て、自分でもやっぱりかと思ってしまった。
私が悩んでいること、それは大きく分けて二つある。
一つ目は、私が佐藤君のベッドで寝てしまった後、結局少しだけゲームをして帰った時だった。
『ちょっと……いいかな』
返る直前、そうして佐藤君に呼び止められた時にお願いされたこと。
『俺の事、今度からは下の名前で読んで欲しい』
どうやら私が苗字で呼んでいるのが、佐藤君は嫌だった見たいで、大翔という名前で読んで欲しいと申し出てきたのだ。
いや、普段……というか学校の友達とか、あだ名がない場合は基本的に苗字でも名前でも、抵抗感なく呼べているのだけど。
どうしてか佐藤君を大翔君と呼ぶことに、抵抗感を持ってしまっている。
理由はなんとなく分かっている。
それは私だけが抱えている問題、前世の記憶を持っていると言うこと。
今世ではずっと苗字で呼んでいたことも合わさり、今更名前で呼ぶのが気恥ずかしいという、何とも阿保らしい理由だ。
1度、試しにと名前を呼んだ時、背中がぞわぞわする感覚に襲われてしまったこともあり、名前で呼ぶのに抵抗感を持ってしまっていた。
更に厄介なことに、私が名前で呼ぶことに抵抗感があると、ハッキリと伝えた時に、佐藤君本人から言われたことも厄介だった。
『俺、今度から名前で呼ばないと反応しないから』
大翔君や、君は何時からそんな我儘王子様になってしまったんだい?
『そうすれば、夏休み中に名前で呼ぶことになれるでしょ?』
そう続ける佐藤君……じゃなかった、大翔君はそれっぽい理由を上げては、私の退路を塞いでいった。
『あ、ついでに今度から澄香って呼ぶようにするね』
しれっと大翔君が私の名前を読んだ瞬間、言いようもない感覚に襲われてしまった私は、正常な判断ができなくなっていた。
『嫌だったら止めるけど……でも、1月以上の付き合いで、結構仲良くなれたと思ってたのは勝手だったみたいで、少し寂しいな』
まともな思考ができなかった私は、言葉で引き下がりながらも、表情でこれでもかと無表情悲しみアピールをされたことによって。
『ほんと? 名前で呼んでくれるし、澄香って呼んでもいいの? そっか、ありがとう』
首を縦に振ってしまったのだ。
今からあの時に戻れるなら、縦に振ろうとした顔を無理やり横に振らせたい気分だ。
一度了承してしまった後から、やっぱり無しなんて言葉が言えるわけもなく。
結果として、大翔君と呼ぶことが決まり、私は澄香と呼ばれることになった。おー背中が痒いぃ。お腹がムズムズするよぅ。
しかし、大翔君と呼ぶことが決まったけど、本人は君付けされていることに不満そうだった。
なーんでそこにこだわるんだろう……
なんというか……大翔君って呼び方とか気にするタイプだったっけ?
前世の曖昧な記憶から正解は見つからなかったから、早々にそうゆうものなんだと諦めることにした。
自分でも、何故ここまで抵抗感を持ってしまうのか理解できなかった。
最終的には、慣れてしまえば事なかれだっと自分に言い聞かせて、気持ちの区切りを付けた。
という、私の2つの悩みの内の1つを説明したけど、やっぱりというか……
3人の反応は疑問符で埋まっていた。
「名前呼び程度で……ねぇ? もっちゃん」
「そうですね、知らない人ならともかく、佐藤君との関係は2月未満という短さですけど、かなりお世話になっていると思いますし……」
「っていうかさ、その佐藤君? のベッドで寝るのはよくて、名前で呼ぶのに抵抗あるってどゆことよ?」
「あ、アハハ……」
返す言葉もない。
自分でも、一応は異性のベッドで寝てしまったことに、一切の抵抗感がなく。
逆に、名前で呼んだり、呼ばれたりすることに、抵抗を感じるということに、自分でも驚いたほどだ。
「ま、まあこれについては私も、自分の中で区切りをつけてるから大丈夫なんだけどね。慣れちゃえばそれまでだと思ってるし」
「んま、そうだよね。そこら辺の切り分けの良さは、澄ちゃんの良い所だと私は思ってるぜ」
「それでは、澄ちゃんが悩んでいるのは別の事なんですか?」
「そうなの、さっき話したのは愚痴に近い感じかな」
もっちゃんの反応に、私は頷いて、もう一つの。
今度こそ本命の話を切り出した。
「あのね……最近、大翔君の様子が変なの……」
「「……あー」」
「ん? なになに? なんか面白そうな流れじゃない!?」
詳細を一切入れてない、中傷的な私の言葉に、もっちゃんと秋ちゃんは、何か察した様子を見せる。
逆に、今までの話を知らない百恵先輩だけが、その空気感のみで何かを察知したのか、異様に食いついてくる。
ん? もっちゃん達は私に背を向けて何を話してるんですか?
そもそも、大翔君の様子が変って言っただけで、そこまで察した反応するのはどうしてですか?
も、もしかして。もっちゃん達は何か知ってるという事なのかな……
謎の察しを見せた二人は、すぐに何かを話始める。
なお、しっかりと私には聞き取れない声量で話しているため、二人が何を話し合っているのかが全く分からない。
二人の話を待ってる間暇なので、百恵先輩と山手線ジャンケンで遊んだ。
「あいこでスイス!」
「あいこでオランダ!」
「チェッコむいて……ほい!」
「うきゅぅぁあ! 負けたー! やっぱり百恵先輩強いですね」
「まあねー!」
何度か接戦を繰り広げ、死闘を演じた私たち。
そしていつの世も戦いの終わりといのはいつも唐突なのだ。
秋ちゃんともっちゃんによる突然の談合が、ようやく終わったようで。
二人の視線が私に向けられる。
「「澄ちゃん……」」
合図も無く私の名前を同時に呼ぶ二人。
うん、仲いいよねー。なんだかんだ言っても私たちは、息ピッタリの3姉妹みたいだよねー。
たまにアイコンタクト1つで、お互いのメッセージとか伝わることだって有った。
つまり私たちは、出会った中学の時から親友なのだ。
だからこそ、『佐藤君の様子が変』という具体性のない内容空でも、大体のことを理解してくれた。
なんと素晴らしい友情、目の前にいる親友となら、私はどこまでも羽ばたいていける気さえしてしまう。
「「それ、普通」 です」
「!?」
ごめん……親友の普通がよく分からないです。




