表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/48

#26 ゾンビゲームって後半別ゲーになりやすい

 新しいゲーム仲間としてトサさんを迎えた私は、アヒルさん、ガガンさん、そしてトサさんとゲームで遊んでいた。


「へえ、じゃあトサさんは今部活休んでるんですねえ」

「そうですね、一応夏休みが終わったタイミングで復帰しようかなとは思ってますけど」


 ガガンさんが連れてきてくれたトサさんは、当初その平坦な口調もあって話しずらいのかもと思った。

 けど、話してみるとちゃんと受け答えしてくれるし、トサさんからも話題を振ってくれたりと、ガガンさんの知り合いらしいコミュニケーション力を持っていた。


 紹介された日は時間が遅かったこともあり、その日は自己紹介だけに済ませて、また後日遊ぼうということになった。


 そして最近私達がハマっているステージクリア型のゾンビゲームを、トサさんも交えて遊ぶことになったのだけど。

 ハッキリ言ってトサさん、かなりゲームが上手でした。


 ガガンさんとは度々ゲームをしていたらしいけど、私とアヒルさんと遊んだのは今日が初めてなのに、トサさんとの連携が取りやすいのだ。


「スタン取りました」

「ナイスです!」

「オラオラオラァ!」


 トサさんは平坦な口調のまま敵の強化型ゾンビのタックルを回避しながら、私たちが攻撃しやすい位置でゾンビをスタンさせて動きを止める。


 そしてタンク職の私と、ガガンさんが操作する人権キャラが強化型ゾンビの弱点部位を集中的に攻撃。


 本来であれば時間のかかるような敵も、トサさんのアシストによってスムーズに倒せている。


「俺回復アイテム余ってるので、他の人どうぞ」

「じゃあ俺が貰うぜえ!」


「このSMGとか誰か要ります? 俺のキャラだとSMG使うメリット無いんですよね」

「俺貰う! この人権キャラ専用武器だろSMGは!」


 協力プレイに最も必要な協調性が高く、独りよがりな行動もない。


 私が高校生で学校内の友人関係しか持っていないのであれだが、ネットの中には文字通り嫌な人というのが居たりする。


 トサさんみたいに武器や回復アイテムを分けるのではなく、自分だけで独占しようとしたり。


 ガガンさんみたいに物乞いのごとく、相手の親切心に付け込むようなこともしない。


「……SUMI、今なんか考えてなかったか?」

「いえ、何もないですけど……あ、そんなに私とお話がしたかったんですか? もぅ、しょうがないですねえ」

「……」

「痛い! おいコラトサァ! 俺に弾当てんじゃねえ! 死んじまうだろうが! ……なあ、今のおいコラトサって語呂よくね?」

「ごめん、ガガンの近くにゾンビが居たからFFしちまった」


 私視点だとガガンさんの近くにゾンビは居なかったはずだけど、トサさんはわざとFFするような人ではないはず。


 初めて遊んで数時間だけど、トサさんが優しい人だというのは何となく理解できた。


 多分、私視点だとガガンさんのキャラに隠れて、ゾンビが見えなかっただけだろう。


「お、そうだったんか。すまん怒鳴っちまった。ナイスカバー!」

「ガガンよ、俺はお前のその純粋さが時たま哀れに思っちまうぜ」

「アヒルさん何言ってんだ?」


 トサさんがこのゲームを初めて間もないこともあって、まだステージ難易度も低めで遊んでいる。


 だからこうして雑談をしながらまったり? ゾンビ討伐を続けていく。


「そういえば話は戻るんですけど、トサさんって夏休みって暇だったりするんですか?」

「結構暇ですかね、一応何日か予定は入ってますけど。部活も休部してるので大体家にいる予定です」

「じゃあじゃあ! 夏休みも一緒に遊びましょうよー!」


 トサさんの夏休みの予定が空いていることを知った私は、早速トサさんを夏休みもゲームをしようと誘ってみた。


 私はもうすぐ夏休み期間に入り、家にいる時間が必然的に増えてしまう。

 しかしその時間で遊ぼうとしても、ガガンさんはともかく、アヒルさんは社会人だったはずなので。夏休み中でもいつも通りの時間帯でしか遊べない。


 そうなると家でゲームするときの遊び相手が少なくなってしまう。


 私が所属しているアヒルさんのコミュニティも、基本的には皆年上で学生さんは少ない。


 リアルの詮索は基本しないのが暗黙の了解ということもあって、具体的に皆の年齢や職業だったりを知っているわけじゃない。


 だけど一応会話をしていると何となくでも、その人が社会人なのか学生さんなのかの目星は付けられたりする。


 ガガンさんやアヒルさんとはコミュ内でも特に一緒に遊ぶことも多く、相談にも乗ってもらったりしているので、私の場合は自分からリアル情報を漏洩してしまっているけど。


 二人以外にリアルの話を持ち出したことはあまりなかったりする。


 なので、トサさんみたいに人が良く、ゲームも上手な同年代というのはかなり貴重なのだ! 

 絶対に逃がさんぞお!


「まあSUMIさんが嫌じゃなければ全然俺は大丈夫ですよ。俺もオンラインのゲーム仲間とか欲しかったところなんで」

「やった! じゃ、じゃあ今度バトロワとか二人プレイできるし、ランクマッチでランク上げとかしようね!」


「おーおー、学生さんは楽しそうでいいよなー」

「ホントだぜ、羨ましいったらねえよな」


 楽しそうに夏休みの話をする私達とは打って変わって、ガガンさんとアヒルさんの声はどこか落ち込んだ様子だった。


 え、大丈夫ですか? ここに包容力満点の美少女が居ますよー?


「あれ? ガガンって――」

「おっと自分のリアル情報を話す分には何も言わねえが、他人のリアル情報ってのはおいそれと言うもんじゃねえぞ。例えガガンとトサ君がリアルでの知り合いだとしてもだ」

「あ、そうですよね。すみません、ありがとうございます」


 トサさんがガガンさんについて何かを言いかけた所、アヒルさんが声を大きくして止める。


 流石アヒルさんだ、だてに数年以上特定のコミュニティを管理しているだけのことはある。


 しかし、もしかしたらガガンさんの弱みを握れたかと思うと、少し残念だ。


 そうしてまた暫く好きな音楽とかの話をしながら、次々現れるゾンビを狩っていく。


「にしてもトサ君はゲーム上手だよな」

「私も思ってました。トサさんかなり上手いですよね」

「そうですか? 普通だと思いますけど」


 私とアヒルさんの言葉を軽く流しながら、トサさんは曲がり角から突然出てきた強化型ゾンビに慌てることもなく、回避とスタンの両方を平然と行う。


 え、それほぼ初見殺しの所だよ、どうして反応できるの?


「トサはゲームめっちゃうまいよ、なんていうのかな。対応力とか読み合いとかかなり強いぞ」


 ガガンさんが少し自慢げに言うのも頷ける。


 今遊んでいるステージを私が初めてプレイしたとき、トサさんと同じように突然現れた強化型ゾンビに、私は驚きの悲鳴を上げるだけで、私の操作していたキャラはタックルによって吹き飛ばされた経験がある。


 だからトサさんも私と同じ目に合うのだろうと思っていたのに、現実とはなんとも非情だ。


「そういえばSUMIさんは部活入ってるんですよね? 部活とかで夏休み潰れないんですか」

「私は運動部じゃないから大丈夫ですよ! 最近は友達にテニス教えてもらってたりしますけど、週に1・2回ですから」


 部活は週に3回で、大体が午前中で終わる。


 この間のお疲れ様会の時に、佐藤君と話をして不定期だけど週に1回は教えてもらえるようになった。


 お疲れ様会の一件以来、最近は佐藤君の様子に少し違和感を覚えているけど。

 それは今まで落ち込んでいた気持ちが、ちょっとずつ良くなっていってるということなのかもしれない。


 実際の所、今世で佐藤君と関わったのは最近だし。

 前世で見ていた佐藤君と、今の私が見ている佐藤君に違和感を覚えるのは当然だと思っている。


「SUMIとか自分の事美少女って言ってるけどさ、いっつもゲームばっかだし運動不足なんじぇねえの?」

「ひ、ひどい! こんな美少女になんてこと言うんですか!」

「がっはっはっは! ゲームばっかやってる俺達が言えたことじゃねえけどな!」

「俺はスポーツもしてるから健康でーす。でもSUMIみたいに自分を可愛い可愛いって言ってる奴って、意外とぽっちゃりだったりしないか?」


 が、ガガンさんはなんてことを言うんだ!


 こんな……口には絶対出さないけど、ファンクラブだって作られたほどの美少女だよ!?


 創設者は凄く身近な友人だったけど。それでもファンクラブとして作れるぐらいには私は美少女なの!


 ダメだ、色々考えるとどうしても言い返したくなってしまう……乙女の顔に泥を投げつけてくる悪漢め、この恨みどうやって晴らしてくれよう。


 乙女の純情を気づ付けた男に制裁を加えるため、手段を考えていた私だったけど、トサさんが次に取った行動でそれは一気に解消されることになった。


「……」

「ん? おいトサ、俺のキャラに何つけてんだ?」

「設置型爆弾」


 トサさんの操作するキャラが、ガガンさんのキャラに近づくと、躊躇いなくボス戦やゾンビラッシュで使うような、広範囲高威力設置爆弾をいくつも付けていく。


 瞬く間に付け終わった爆弾は、怪しげな赤い点滅とともにガガンさんのキャラを明るく照らす。


「はっはーん……よくやったトサ君。仕上げは俺に任せてくれ」


 トサさんの行動に、アヒルさんは何か理解した様子でガガンさんに近づいていく。


 ガガンさんに近づいたアヒルさんは、トサさん同様躊躇いなくとあるアイテムをガガンさんの足元に、いくつもの四角い何かを設置する。


 それはアヒルさんが操作するサポート職のキャラだけが使える、吹っ飛ばし爆弾。


 威力はないけど、通常ゾンビなら強力なノックバックでかなりの距離を吹き飛ばし、例えボスであろうとノックバックを与えることができるという、かなり強力なアイテムだ。


 そして威力がなく、ノックバックが強力ということもあり、FFを利用して自キャラや味方キャラの移動や回避手段にも使える便利アイテムでもある。


 そんな爆弾を大量に設置されたガガンさんは、流石にこれから起こることを察したらしく。すぐさま回避行動を取ろうとする。


 が、その回避行動を取る前に、トサさんのスタンFF攻撃によってガガンさんのキャラが動きを停止する。


「んあ!? お、おいてめえ!」

「スタン取りました」

「完璧だぜ……さあ、吹っ飛びな」


 普段より少し低くカッコいい声でアヒルさんが呟き、爆弾を起爆させる。


「ぐあああああああ!」


 赤い点滅が勢いよく空中へ吹き飛ばされ、怪しい夜空に赤い光が映し出される。


 そしてガガンさんのキャラが最高地点の高さまで上昇したとき、トサさんが爆弾を起動させる。


「てめえら覚えてろおおおおお!」

「少し早い打ち上げ花火って、いいですよね」

「全くだ」


 響く爆音、夜空に浮かぶ火薬の爆破の光。


 その光を見た私には、ガガンさんへの恨みなんてモノはきれいさっぱり消えていた。


 花火とはなんと美しいものなのだろうか……さあ、もうすぐ夏休みだ。

今回のお話で1章が終了となります!

完全見切り発車で、とりあえず毎日投稿だけ自分ルールで守ってきました。

沢山の人に読んでいただけて感謝に堪えません!

誤字脱字のご報告に大変助けられています、ありがとうございます!


驚いたことに。

ブクマ・評価・感想をいただけること = モチベーションに繋がるという事を、初めて実感しました。


正直に申します。

今話で1章が区切りとなります。

ここまで読んでいただいて、面白いと思っていただけましたら、ブクマ・評価・感想を頂けると今後のモチベーションに繋がりますので、よろしくお願いします。



そしてそして! 次回からは2章として夏休み編がスタートします!

そして2章から佐藤君の様子が……


……あ、2章目になっても続く限りは毎日投稿を続けるつもりなので、今後もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ