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召喚されたのは幼女でした。  作者: 秋野 錦


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26話 神様ティア様仏様

 ミスティア・ブランシェットは長年魔巧技師を営む家系にある有名貴族の長女である。そのため、彼女は実家のコネにより個人用のラボラトリーを所有しており、そこで日夜研究を行っている。


 学園には卒業者の肩書きを得るためだけに通っており、そこは高名貴族の例に漏れない。一族から継承した魔巧技師としての技術は彼女が本来持つ才能と合わさってすでに超一流の魔巧技師としてその名を轟かせている。


 そんな人物がなぜ俺みたいな平民とつるんでいるのかは長年の疑問なのだが、そこは気まぐれなティアのこと。きっと貴族連中の格式ばった付き合いに嫌気が差したのだろう。

 まだ若干14歳ながら、すでに天才魔巧技師として活躍しているティアは素直に尊敬できる。


「……いらっしゃい、ルイス。ベッドの準備は出来ている。さあ、早く奥に」


 ……この性格さえなければなあ。


「悪いがそんなことをするためにわざわざ来たわけじゃねーんだよ。こっちもちょっと立て込んでてな。至急依頼したいことがあるんだが……」


「……いいよ」


「お前が忙しいのは分かってるんだが期末試験もあって……って、いいのかよ!?」


 ティアほどの人気魔巧技師となれば製作依頼が来年まで埋まっていても不思議ではないと思い、何とか融通してもらえないかと台詞を考えてきたのだが……まさかこうもあっさり承諾してもらえるとは思わなかったぞ。


「頼んだ俺が言うのもあれだが……本当に良いのか? 仕事溜まってるはずだろ?」


「ん。問題ない」


 またいつものように徹夜したのか、今日はいつも以上に覇気がない。

 だがそれでも依頼内容を忘れたりはしないあたりに、脳みその出来が違うんだろうなーと思わされる。


「それで? 私は何をすればいい?」


「ああ。そうだった」


 俺は懐から魔鉱石の欠片が入った小袋を取り出し、ティアに手渡す。


「実はちょっとした事故で魔鉱石が割れちまってな。何とか元の状態に戻せないか?」


「…………」


 袋の中をそっと覗き込み、考え込むティア。

 魔鉱石の扱いに関しては第一線にいるティアのこと。きっとよい解決策を見つけてくれると思ったのだが……


「……ちょっとそれは、出来かねる」


「え!?」


 ティアの答えは否だった。


「ま、マジか。お前でも何とかならないのか? こう、一度溶解してから元の形状に戻すとかさ……」


「……それは不可能ではない。だけど、その過程でどうしても不純物が混ざる。全く同じ性能は取り戻せない」


「あー……そっか。そりゃそうか」


 俺は魔巧技師ではないから、その手の分野には疎い。

 だからティアの言い分を完璧に理解は出来ないのだが、こいつがこういうのだからそうなのだろう。


「他に何か手段はないか?」


「……元の形に戻すことは出来ない。だけど新しく生み出すことは出来る」


「ん? それってまさか……」


「……うん。"アダマンタイト"を作る」


 アダマンタイト。

 特殊魔導合金とも呼ばれるそれは魔鉱石を加工して作る特殊な物質だ。

 元の魔鉱石としての特徴、つまりは魔術の媒体としての機能は保持したまま魔術師の弱点でもある近接戦での補助を目的とした魔導武具。つまりは剣や槍などの武器を魔鉱石で作ってしまおうという発想を基にした武器だ。


 軍隊では正式採用されている魔術師の標準装備とも言える武装だが、当然個人で揃えようとすれば莫大な金がかかる。そして、そんな大金を俺がもっているわけもなく……


「あのな。お前の金銭感覚が狂ってるのは昔からの付き合いで知っているが……幾らなんでもそれはねえよ。俺の今の所持金知ってるか? アダマンタイトどころか魔鉱石すら買えねえんだよ」


「……代金はいらない」


「は? ……え? マジで?」


「……うん。ちょうど新しい配合での錬金を試したかったとこ。試運転のテスターとして協力してくれるなら代金は要らない。ついでに足りない分の魔鉱石もこっちで補充しておく」


「お、おおう……」


 まさかの好条件に思わず変な声が漏れる。

 確かに新作のアダマンタイトを試運転なしに売り出すのは、何かあった場合にティアの経歴に傷がつくためリスクとして避けるべきだ。だが、その為のテスターとして働くだけで最先端のアダマンタイトを一本入手できるのは明らかにこちらが有利。というか、取引として成り立たないレベルにこちらが得をしすぎている。


「こっちとしては願ったり叶ったりなんだが……さすがに悪いって。何か俺に出来ることは無いか? 製作の手伝いでも何でもするぞ?」


「……知識のない者に助手は任せられない。その代わり、今後テスターとして開発を手伝ってもらいたい。私は知り合いが少ないから」


「そんなもん学園で応募でもすれば、こぞって集まりだすと思うんだが……まあ、お前が良いなら良いけどよ。それじゃあ悪いが出来るだけ早く頼むぜ。期末試験も近いからな」


「ん。分かった」


 最後にこくりと頷いたティア。そのまま、魔鉱石の欠片を持っていくと代わりに指輪に嵌め込まれた魔鉱石を俺の元に持ってきた。


「……とりあえずの代用。これを使って」


「助かる。何から何まで悪いな」


「気にしないで良い、でも何か恩返ししたいというのなら……ちょっと私と結婚してくれればそれで良い」


「いや、ちょっとの内容がヘビー過ぎんだろ」


 いつものティアの冗談に笑い返しながら、俺は再度ティアに後のことはよろしくと頼み、工房を後にすることにした。リリィも待たせているからな。


 新魔術の開発に浮かれた矢先の転倒だったが、何とかなりそうで助かった。

 まさに神様ティア様仏様って感じだな。

 俺は神も仏も信じてはいないけど。

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