episode2-34 VS生徒会
7月16日、木曜日。昨日の時点でもかなり話題にはなっていたが、今日の放課後になる頃には学校中どこもかしこも生徒会VS俺の話題で持ち切りで、すれ違う見知らぬ生徒に頑張れや負けるなという声援をかけられることも一度や二度では済まないほどに多かった。
一方で教員からは迷惑そうな視線を滅茶苦茶向けられたが、表立って何か言ってくる奴はいなかった。どういうわけか知らないが、ここまで来ても見て見ぬふりらしい。
「氷室くん、生徒会から伝言です。今すぐ昇降口前に来るようにと」
俺と樹霧と古條でそろそろ教室を出るかと話していたところに、委員長がそう声をかけてくる。
今日一日、どう仕掛けてくるかと警戒して古條にも放課後すぐに俺と樹霧の教室へ来させたのだが、どうやら真正面からやり合うつもりらしい。
「なんだよ委員長、暴力反対じゃなかったのか?」
「ここまで大事になってしまっては、私が何を言ったところで止める気はないんでしょう?」
「まあな。ここで尻尾巻いて逃げるような奴は男じゃねえだろ」
「やり過ぎないようにしてくださいね?」
「わかってるって。こんなのはただの喧嘩だ」
ただし最高にワクワクする喧嘩だ。
結局樹霧とは最後まで全力でやり合うことは出来なかったし、生徒会連の連中は俺の切り札を引き出すほどの強敵ではなかった。
その点、今回は後のことなど気にせず全てを出し切ることができる。異能強度6、第二フェーズ魔法少女とはそういうレベルのホルダーだ。
「氷室くんの予想通りでしたね! 信じてましたよ!」
「一昨日のアレは信じてる人の言動ではなかったですけどね」
調子の良いことを言っている樹霧に、古條もいい加減扱いに慣れて来たのか若干辛辣なツッコミを入れている。
「お前ら、準備は良いな? 行くぞ」
「はい! 行ってきますね~!」
「行ってきます……!」
「お気をつけて」
委員長の言葉に続いて、俺たちの会話を聞いていたのかクラスメイトたちも次々に激励の言葉を投げかけてくる。
「負けんなよ氷室ー!」
「あんたに賭けてるから絶対勝ってよね!」
「生徒会なんかぶっ飛ばせー!」
「頑張れ緑!」
「古條ちゃん無理しちゃ駄目だよー!」
そんな声援に片手をあげて応え、ちらりと如月に視線をやってから教室を出る。あいつの出番は向こうの隠し玉が出てきたらだ。もし昇降口前に庶務もいるようなら如月も参戦させるが、いないようなら温存する。
「なんか凄い期待されてます?」
「楽しんでるだけだろ。ホルダー同士のぶつかり合いなんて今時珍しくもないけど、ここまで大々的に宣伝されるのは高校の喧嘩レベルじゃ普通ないしな」
そう考えるとウチの新聞部は中々に訴求力があるというか、生徒のハートを掴んでいたのだと思わせられる。やっぱり嘘看破の異能があるっていう触れ込みはそういうところで強力だよな。
「ふふふ、これは負けられませんね! 俄然楽しくなってきました!」
「私は緊張してきました」
「緊張はしても良いけど負けんなよ」
「凪様は意地悪です……」
意地悪とかではなく、人数的に一人負けただけで他の戦況への影響が大きいという話だ。
負けたからと言って死ぬわけではないし、そもそも生徒会と戦うことそのものが目的なのだから最悪勝てなくても問題はないのだが、しかし勝った方が都合がいいこともある。
それに、これから喧嘩するっていうのに別に負けても良いなんて軟弱な気構えじゃ勝てるものも勝てん。
「さて、お待ちかねみたいだぞ」
会話しながら歩いているとあっと言う間に昇降口へと到着し、その先にはこちらを待ち構えるように立つ四人の人影が見える。やはり庶務はいないか。
さらにその周囲には少し距離を置いて人だかりが出来ている。早くも野次馬が集まってきているらしい。
「氷室凪くんだよね?」
昇降口を出てその四人に近づくと、先頭に立つ一見穏やかそうな女子生徒、舞締生徒会長が口を開いた。
「はじめまして生徒会長。俺が氷室凪だ」
「そして私が樹霧緑です!」
「え? 樹霧さんは会ったことあるよね?」
「舞締、あいつの話はスルーで良い」
眼鏡をかけた長身の男子生徒、彦根副会長が不思議そうにしている会長に助言する。
樹霧の相手を一番多くしてるのはこの彦根副会長だから、樹霧がいかにふざけた奴なのかということを身をもって知っているのだろう。
「あれ? 私も自己紹介した方が良いんですか?」
「その必要はないよ。君たちのことは例の新聞でみんな知ってるから」
樹霧が余計なことを言ったせいで自己紹介の流れかと勘違いした古條に、朱鷺戸書記が穏やかな声音で答える。
「用件は言うまでもないと思うけど、一応は言っておくね。氷室凪くん、樹霧緑さん、古條うつりさん。生徒会では校内の秩序を守るため、異能を持つ生徒には生徒会補佐連合会に加入することを推奨してるの。だから、今すぐ馬鹿な抗議活動をやめて生徒会連に加入しなさい。これは命令だよ?」
生徒会長の雰囲気が変わった。
だが、答えは初めから決まっている。
「断る! やれるもんならやってみろよ、異能でなぁ!」
「その言葉が聞きたかった! なんちって!
一つ! 私の世界、坂島賭博場は誰にも邪魔されずギャンブルをするための空間です! 物理的な逃げ道はなくて外部とは完全遮断! ギャンブルの勝敗を決するまで抜け出すことは出来ません!」
予想通り、まずは坂島会計が異能の前提条件を満たしに来たか。
「二つ! 坂島賭博場で賭けるのはお金や物じゃなくてお互いの権利です! 細かく分割するも良し! 大きくドカンと賭けるも良し! どちらかが続行不能になるか、挑戦者が脱出権を手に入れるまでギャンブルは終わりません!」
「行きますよ、フライデイ!」
「ふぅーー、いざ尋常に参ります」
それに対してこちらの動きは、逃走ではなく攻撃。
チェーンソーを起動した樹霧と、気を練り上げて身体強化を完了した古條が坂島会計に向かって突っ込んで行く。
「三つ! 坂島賭博場でのギャンブルは中立のディーラーが取り仕切ります! 公平なゲームをお楽しみください!」
「メトロノーム!」
「カドレヴ・ネツァク、G2」
坂島会計以外の三人は少し驚いたように表情を変えた後、彦根副会長と朱鷺戸書記が前に出て来て樹霧たちの行く手を阻む。
その間、会長に動きはない。同様に動く気配のない俺の方を警戒しているのだろう。
「霊気空手、電光麒麟!」
「っ駆け抜けろ! 1000馬力!」
「四つ! イカサマがバレたら反則負けです! 全ての権利が対戦者に委ねられます! ちょ――」
短距離転移で二人の壁を抜け、坂島会計の目前にまで躍り出た古條が拳を振るうのと同時に、馬の魔法少女ホースへと変身を遂げた生徒会長が身体強化魔法を使用して古條の拳を蹴り上げた。
「続けて!」
「霊気空手、流水玄武! うわわっ、なんてパワーですか!?」
「五つ! 暴力行為は厳禁です! 警備員に手痛く鎮圧されちゃうので絶対にやめてください!」
動きを見るに格闘戦に精通しているというわけではなさそうだが、身体強化の出力が古條を上回っている。凄まじい回転速度の打撃を古條は上手く受け流しているが、完全に勢いを殺し切れていないのか少しずつ後ずさりしている。
「流石のお前でも二人同時は厳しいらしいな!」
「それでも持ちこたえてる辺り相変わらずの強さですけど」
「あはは! 久々の喧嘩は滾りますね! もっと本気で来てください!!」
「六つ! 以上のルールを参加者全員に直接説明しなければゲームは始まりません!」
樹霧の方もよく戦っているが、流石に二人を蹴散らすなり出し抜くなりして坂島会計を止めるには至らない。
時間切れだな。
「てわけで! 氷室御一行、坂島賭博場へご案内~!!」
・
坂島会計の言葉を最後に、会長、副会長、会計、書記の四人、そして氷室凪、樹霧緑、古條うつりの三人の姿がその場から消え失せる。
これは坂島会計の異能、坂島賭博場へ全員が強制的に引きずり込まれたことを意味しており、そしてその時点で勝敗は決したと言っても過言ではないことを野次馬の生徒たちの一部は知っていた。
「あれ? 誰もいなくなっちまったぞ? どこ行ったんだ?」
「坂島の異能だよ。坂島賭博場ってやつ。氷室たち終わったな」
「なにそれ? どういうこと?」
「さっき坂島が説明してただろ? 坂島賭博場ではギャンブルで勝ち負けを決めて、負けると色々権利を奪われちまうんだよ。しかも坂島はそこでのギャンブルで負けたことが一度もない。つまりあいつの異能が発動しちまったら、その時点で負け確ってこと」
「え~、なにそれつまんない。折角派手な戦いが見れると思ったのにさぁ」
実際坂島にしてやられたホルダーもそれなりに観客に交じっていたいたようで、ギャンブルでは坂島に勝てないとか、あの世界では武力が役に立たないという話があっと言う間に広がっていき、先ほどまでの熱狂が嘘のように静まり返っていく。
「あ~あ、氷室が勝つ方に賭けてたんだけどなぁ」
「てかあいつなんで何もしないでじっとしてたわけ? 戦犯じゃね?」
「そもそも氷室の異能って冒険者のはずだろ? ダンジョンの外で冒険者に何が出来るんだよ」
「なんだよ、最初っから勝ち目はなかったってことか? つまんねーの」
まばらに解散する生徒も現れ始め、白けた空気でグチグチと文句を言い始める者も出てくる。
しかし次の瞬間、ガラスを勢いよく叩きつけたかのような激しい破壊音が周囲一帯に響き渡り、野次馬たちは何だ何だと周囲をキョロキョロ見渡し始める。
「う、嘘だ……」
いつの間にか、先ほどまで生徒会と氷室陣営が争っていた場所に、立ち位置こそ少々変わっているがいなくなった筈の全員が戻って来ていた。なぜか氷室は可愛らしいドレスを身に着けて馬鹿デカイ玉座の上にふんぞりかえっている。
「こんなのありえない!」
そして坂島会計がいつものふざけた態度はどこへやら、信じられないという様子で大声をあげた。
坂島の異能をよく知らない生徒は、もうギャンブルが終わったのかとか、坂島賭博場と現実世界では時間の流れが違うのかもしれないと考えたが、実際に巻き込まれたことがある者は気がつく。いくらなんでもこんなに早く終わるはずがないと。
「あたしの世界が、世界系でもない異能に壊されるなんて!」
戦いはまだ、始まったばかりだ。




