episode2-33 重要なのは
敵対行動の権利を剥奪された桜川が大人しく生徒会室を出て行った後、生徒会の面々は一名を除いて神妙な表情を浮かべながら話し合いを続けていた。
「それで、どうするつもりなんだ?」
手元の校内新聞をペラペラと扇ぐように持ち上げた彦根副会長が舞締生徒会長へ問いかける。
休校期間中に開かれた会議の時は我関せずという態度だったが、打って変わって今回は積極的な姿勢を見せている。
校内新聞のタイトルは『号外! 生徒会VS救高の英雄、全面対決開幕か!?』となっており、普段の週刊咲良であればいくつかの記事が掲載されるところを、一面全てが全面対決特集となっていて、これまでの生徒会と生徒会連によるホルダー狩りや、生徒会役員の異能の詳細、氷室凪とその協力者の解説、そしてざっくりとした異能の紹介などの内容が書かれている。
その中でも特筆すべき部分はやはりここだろう。
『氷室氏に五対一で襲い掛かるも、歯牙にもかけられず敗れることとなったS氏。取材班は今回、独自のルートを用いてS氏との接触に成功し、ことの成り行きを取材した。
〇記者M:生徒会は以前から全てのホルダーを傘下に収め校内の治安を守ると掲げていますが、その方針は今も変わらず?
〇S氏 :はい。それは変わってません。
〇記者M:なるほど。では生徒会連所属のホルダーが未所属の反抗的ホルダーを襲うというのは?
〇S氏 :基本的には生徒会からの指示ですね。坂島さんの異能は相手の行動を封じてから使えば確実にハメることが出来ますから。
〇記者M:なるほど、ありがとうございます。
氷室氏と言えば、誰の下にもつく気はないという強気な発言が目立つホルダーでもある。S氏の証言と合わせて考えると、自ずと答えは見えてくるよう思える』
「あえて取材中は氷室個人の話をせず、生徒会の基本方針を持ちだすことで勘違いさせようとしてますね」
「よく考えるよねー」
朱鷺戸書記は冷静に新聞の内容を分析し、坂島会計が機嫌良さげに笑いながら相槌を打つ。
「……」
黒石庶務だけは相も変わらず真面目な表情で黙々と積み上げられた絵本を読み進めている。
「桜川さんが下手に段階を踏んじゃったせいで余計に信憑性が出ちゃったっていうか、もっともらしさが出ちゃってるよね……」
新聞に書かれた、次は生徒会役員が出てくるだろうという部分を視線で追って舞締会長は渋い顔をしている。
『生徒会連からの突然の急襲を、一日の内に四度に渡って撃退してみせた氷室氏。氷室氏とはかねてより親交深い取材班は、今回の件について独占取材を行うことに成功した。
〇記者M:氷室さんは今回の生徒会連の動きについて、どうお考えでしょうか?
〇氷室氏:最初は様子見だったんだろうな。まずは異能強度1の集団が喧嘩を売って来たからそれを返り討ちにしてやったら、その日の放課後には異能強度2のTとKが襲って来やがった。
〇記者M:なるほど、迅速な動きですね。前々から氷室さんのことを狙っていて、本格的に動き出したというところでしょうか?
〇氷室氏:だろうな。なんせ俺が放課後少し時間を潰してる間に、生徒会連のトップ連中が徒党を組んで俺を襲撃する準備を整えてたからな。おかげでその日は連戦連戦で流石に疲れた。
〇記者M:生徒会連のトップ層というと、あの異能強度3のS氏が率いる……?
〇氷室氏:ああ。異能強度4のフレーム使いAに、異能強度3の精霊使いK、同じく超能力者のH、そして変換系ホルダーのS。
〇記者M:錚々たる面々ですね。しかし氷室さんはそれらも全て返り討ちにした、と。
〇氷室氏:俺にかかれば大した相手じゃなかったさ。ただ、次はそう都合良くはいかないだろうな。
〇記者M:やはり次からは、生徒会役員が直々に勧誘にくるとお考えですか?
〇氷室氏:間違いない。2-CのKも、元々は生徒会連の連中が強引な勧誘をしてたけど、相手にならないとわかってからは生徒会役員共が出張ってくるようになった。生徒会が全てのホルダーを傘下に収めるつもりである以上、俺にも同じように対応するだろうな。
〇記者M:咲良第二高校三強の一角に数えられるKさんですね。そういえば氷室さんは、Kさんとなにやらただならぬ関係という噂もありますが……?
〇氷室氏:たしかに、ただのクラスメイトってわけじゃあない。ハッキリ言って、今のホルダー狩りはやり過ぎだ。異能を使わず大人しく過ごしていたホルダーまで強引に勧誘するなんて、治安維持にしても行き過ぎてる。生徒会のやってることはひどい職権乱用だ。そしてKも、俺と同じ義憤を抱いていた。俺たちは共に生徒会の横暴に抗う同士として手を結ぶことにしたんだ。
〇記者M:なるほど、そのような関係でしたか。他にもお仲間がいらっしゃるのでしょうか?
〇氷室氏:一年のKが俺たちと志を同じにしてくれている。それから、秘密兵器がもう一人。
〇記者M:数の上ではまだ劣勢のようにも感じられますが?
〇氷室氏:そうだな。もし俺たちの志に賛同してくれる生徒がいるのなら、俺たちと同じように抗って欲しい。そうすれば、数の不利なんて吹き飛ばせるほど大きな力になる。
〇記者M:貴重なお話ありがとうございました。』
「たしかに、異能強度1、2、3、4と来れば、次は5、生徒会役員の番と考えるのは自然だからな」
「生徒会に反発心を持っている生徒をまとめあげるような旗印はその内出てくる可能性を考えてましたけど、それだけじゃなくイベント好きなミーハーまで取り込む構成になってるんですよね」
「いまや咲良第二はこの噂で持ち切りですからねー。いつ生徒会と氷室凪との全面対決が始まるのかって、友達にも聞かれちゃいましたし」
反感を買うことをしている自覚は生徒会役員たちにもあり、生徒会に敵対的な生徒をまとめ上げるような存在が現れた場合、生徒会の総力をもって早々に芽を摘むという方針はあらかじめ決めていたのだが、まさか救高の英雄たる氷室凪がそのポジションに収まるとは考えていなかった。
いや、正確に言うならば、そうなっては困るから氷室凪とは穏便にという特別扱いをしていたのだ。
にもかかわらず氷室凪は自ら生徒会の活動に首を突っ込み、派手に喧嘩を売り、さらには生徒会が想定していた以上の扇動をし始めた。
「流石にこれ以上は見過ごせないね」
「氷室の思惑通りに動くようで癪だが、手が付けられなくなる前に対処するべきだ」
「まったく、どうしてこう大局的な視点を持てない人が多いんでしょうね。正義は必ず勝つということを教えてあげないといけませんね」
「あー、セイギくんまた発作が出ちゃってるよ。てか異議はないですけどー、そもそも氷室の異能って冒険者なんですよね? どうやって桜川先輩たちに勝ったのか謎じゃないですか?」
生徒会連からの報告と、号外に書かれている内容から、氷室凪が召喚獣を使役していることは生徒会も既に知っている。しかし氷室凪は冒険者のはずであり、であればダンジョン外でその力を発揮できるというのはおかしな話だ。
桜川と違って生徒会の面々は桜ノ宮のことを詳しく知らないため、実際にダンジョンを踏破したのは桜ノ宮葵で氷室凪は冒険者ではないという可能性も考えてしまう。
「前例にないことだとしても、ルールが変わったのか、もしくは氷室くんが特別な存在かってだけのことだよ」
だが舞締会長は大したことでもないように、淡々とした平坦な声音でそう言った。
「昨日の常識が今日の非常識に、そして昨日の非常識が今日の常識に。それが今のこの世界だよね? もしかしたらこれからは、ダンジョンっていう境界に縛られないホルダーが当たり前のように出てくるかもしれないし、氷室くんが特別な異能を持ってるのかもしれない。でも、そんなのどうでも良いことじゃないかな?」
舞締会長には、桜ノ宮葵や桜川夕花のような壮大な野望も野心もない。
ただ目の前の問題を解決するために、必死になって駆けずり回っているだけの凡人に過ぎない。
だからこそ、氷室凪の持つ力の価値や真相なんてどうでも良い。
「重要なのは、氷室くんが私たちの道を塞ぐ障害だってことだけだよね?」
「かいちょー、そのテンション怖いからやめてくださいって言ってるじゃないですか」
「え!? こ、怖かったかな? 思ったことを言っただけなんだけど……」
「いえ、何も怖くなんてありませんでしたよ。むしろ俺は、流石会長は頼もしいと思いました」
「え? そ、そうかな? そう言われるとなんか照れちゃうなぁ」
頭のネジが若干外れている二人がわいわいと戯れてる横で、坂島会計が彦根副会長の脇腹を肘で小突きながら小言を漏らす。
「パイセン、かいちょーの手綱ちゃんと握っててくださいよ。あの人急に何しでかすかわかんなくてマジで怖いんですけど」
「……わかってる。前会長からも頼まれてるからな」
生徒会役員は当選した会長が生徒の中から指名し、断られなければそのまま就任することになる。当然彦根や坂島、朱鷺戸、黒石も舞締会長の指名によって選ばれた役員だ。そして、多少頭が回る生徒は気づいていることだが、舞締会長は明らかに役員を異能強度で選んでいる。
つまり舞締会長は、新生徒会長に就任した直後から異能によって校内を支配する未来を見据えていたということになる。
役員たちには新生徒会発足のタイミングで舞締の真の目的と黒石庶務の秘密について説明されているため、彦根副会長と坂島会計も一応は納得し、会長が暴走しすぎた時のストッパーになるためにも目的に協力している。
なお、朱鷺戸書記は表向きの理由にも真の目的にも感銘を受けて完全に会長のシンパと化しており、ストッパーとしての役目は期待できない。
そのため、荒々しい雰囲気を纏っている副会長やちゃらんぽらんな会計が柄にもなくブレーキとしてバランスを取っているのが現状だ。
「それにある意味ちょうど良いタイミングとも言えるよね。ホルダー狩りはほとんど終わって、マスカレイドが焦り出しても良い頃のはず。今なら誘いに乗ってくる可能性は高いよね。折角だし、氷室くんたちを利用させて貰おうか」
「今日はもう結構時間も経ってるし、やるなら明日の放課後すぐだな」
「誰が誰を担当しますか? 今日一日、氷室、樹霧、古條の三人はずっとつるんでいて一人になってるタイミングはほとんどありませんでした。全員まとめて相手にします?」
「あたしが賭博場のルール説明を始めれば勝手に逃げてくっしょ? そこを一人ずつ個別に足止めしてけば良いんじゃない?」
スポーツではないのだから、何も正々堂々一対一で戦わなければいけないということはない。各個撃破出来るのであればそれが一番だ。
「……」
当日どのようにして自分たちに有利な状況を作り出すか会議する生徒会役員の面々を、絵本から視線を外した黒石庶務が虚ろな瞳で見つめていた。




