episode2-27 週刊咲良
放課後、とりあえず自分の教室で30分ほど時間を潰しているのだが、次なる生徒会連の刺客は現れない。異能強度1の雑兵では相手にならないことくらいは向こうもわかっただろうし、生徒会連の中でも戦闘要員と呼べる異能強度2の連中が差し向けられると思ったんだがな。
うちのクラスにも生徒会連に所属している奴はいる。というより、校内のホルダーのほとんどは生徒会連に籍を置いていると言った方が正しいか。
2-Cには新藤や大崎のように異能強度2の奴もいるから何か仕掛けてくるかと期待していたのだが、新藤は昼飯を食ってからずっと気持ちよさそうに昼寝しているし、大崎は委員長と一緒に部活へ行ってしまった。
生徒会連に所属しているからと言って全員が全員勧誘活動をしてるわけでもない。うちのクラスにはそこまで熱心な奴はいないらしい。
いや、一応一人だけいたか。
朝にぶちのめした白猫獣人の島崎が、目が合う度にわざとらしいふくれっ面で俺のことを睨みつけていた。
しかしだからと言ってリベンジをしかけてくるわけでもなく、放課後はさっさと帰ってしまった。複数人で同時に挑んでも勝てなかった以上、一人ではどうにもならないことくらいは理解しているのだろう。
「どうしたもんか」
「そういう時は学校の中を適当にぶらついてると良いですよ! 強引な勧誘現場を先生に見られたくない子とか、目立つのが好きじゃない子なんかは人目に付かないところで襲って来ますから!」
生徒会連のターゲットとしては先輩ということになる樹霧へ軽く話を振ってみると、思っていたよりも考えられた答えが返って来た。
「経験者は語るってか?」
「暴れたい気分の時に相手を釣るテクニックです! えっへん!」
偉そうにデカイ胸を張ってやがるが褒められるようなことではない。まあ、自分から無差別に喧嘩をしかけるわけじゃないだけマシか。
「それじゃ樹霧の経験に倣って散歩でもするかな」
「おすすめの散歩コースを教えてあげますよ! 一緒に行きましょう!」
「いや、一人でいた方が相手を釣りやすいだろ。適当にブラブラするからお前も好きにしろ。気が済んだら帰ってもいいしな」
「たしかに、それもそうですね! じゃあ今度は樹霧が特別教室棟に行ってきます!」
言うが早いか、樹霧は大きなバッグを背負って走り去っていった。
俺や古條はともかく、樹霧は何度も生徒会役員を撃退した実績を持つホルダーだからな。あいつと一緒にいたら異能強度2や3程度の奴なんて委縮して勧誘に来れん。
「古條にも連絡しとくか」
俺と同じようにしばらく教室で待機するよう指示していた古條にメッセージを送っておく。
既に勧誘を受けて戦闘中であるならそれで良いが、向こうも暇を持て余しているようであれば時間の無駄だ。
さて、散歩をすると決めたは良いがどこに行ったものか。人目につかないところと言っても、こないだ樹霧とやり合った旧校舎のように人通りが少なすぎる場所では本末転倒だ。やる気がある生徒会連の勧誘に見つけて貰わなきゃいけないからな。
「ん?」
脳内マップを参照しつつ、目視でも確認するため良い場所はないかとキョロキョロ周囲を見渡していた俺は、2階通路の掲示板に張り出された新聞で視線を止めた。
あれはたしか、新聞部が毎週金曜日の放課後に発行している校内のスキャンダルや噂などの記事が載っている新聞、週刊咲良。
元々は真面目に校内のイベントなどについて書かれた新聞だったそうだが、どこかの馬鹿が話題性重視で過激な記事を積極的に寄稿しまくった結果、今では完全にゴシップ誌と認識されてしまっている。
校内のホルダーや異能に関することは俺も積極的に情報収集しているが、それ以外のことはほとんど把握していない。何もせずウロウロするのも暇だし、折角だから軽く見ていくとするか。
『咲良第二の英雄氷室凪氏。三強の一角に愛の告白か』
新聞とは言ってもそのボリュームは学校の部活相応のもので、A3程度の大きさの紙に3、4つほどの記事が載っているくらいだ。ある意味全ての記事が一面とも言えるわけだが、その中でもとりわけ大きく、紙面の半分ほどを使ってこれでもかと強調されている記事のタイトルがそれだった。
「……やっぱりあのバカか」
内容を見るよりも先にライターの名前を確認すると、そこには枡米美海の名前があった。
内容を見るまでもなく、休校明けに俺が樹霧を呼び出した件だとわかる。翌日に沖嶋がうまく説明してくれたらしくクラスメイトへの誤解は解けていたのだが、枡米のことだから話題性があると判断してあえて誤解させるような書き方をしているのだろう。偏向報道はお手の物というわけだ。
『咲良第二高校を巻き込んだ記憶に新しい大災害「ダンジョンアサルト」。これを即日の内に踏破し、死傷者0という偉業を達成した英雄である氷室凪氏が、過日一人の女生徒(以下、女生徒K)を大切な話があると呼び出したという情報が編集部に舞い込んだ。
編集部の独自調査によると、氷室氏は休校後最初の登校日の放課後、他の生徒からの呼びかけも押しのけて真っ先に女生徒Kへと声をかけ、大事な話があるから付いて来て欲しいと伝えた。
これについて、氷室氏からの愛の告白があったのではないかという疑惑の声が編集部に多数寄せられている。
〇氷室氏のプロフィール
咲良第二高校に通う生徒の中には、ダンジョンアサルトを踏破する以前の氷室氏について詳しくない者も多いことだろう。そこで編集部は疑惑の真相に迫るため、氷室氏のプロフィールの調査を始め、そこで驚くべき事実が判明した。
先日の全校集会では、高校生としては少々低身長ながらも愛くるしい容姿に可愛らしい声が印象に残っている生徒も多いものと推察されるが、しかしながら驚くことに氷室凪氏は男性なのである。正しくは元男性というのが正確か。ダンジョンアサルトに無能力者が巻き込まれると、特異変性という現象によって外見が変化してしまうことがある。氷室氏はこれにより、ダンジョンアサルト以前とは大きく異なる姿へと変貌してしまったのである。性別まで変わってしまった彼の苦労は察するに余りある。
〇氷室氏の呼び出し
昨今同性同士の恋愛も珍しくなく、奇異の目で見られることも少なくなってきた時代ではあるが、とはいえ恋愛対象は異性というのが主流と呼べるだろう。その前提を基に氷室氏の呼び出しに改めて注目すると、これが愛の告白であるという可能性は非常に高いと言えるのではないだろうか。
〇女生徒K
咲良第二高校最強ホルダー議論常連の女生徒K。三強とも呼ばれる彼女に取材を申し込んだ編集部だが、取り付く島もなく断られてしまい真相を突き止めるには至らなかった。しかし件の呼び出し以来、これまで接点のなかった氷室氏と女生徒Kが二人仲睦まじく談笑している姿や行動を共にしている姿が度々目撃されており、疑惑は更に深まることとなった。今後の二人の動向に要注目か。』
わかりませんでした系のクソ記事じゃねえか! しかも最後、ご丁寧に写真まで載せて関係を匂わせる感じで終わってやがる! いや書いてあることは9割方事実だけど書き方が誘導的過ぎるだろ!
あのクソボケ~! 金曜の放課後は粘着して来なかったから諦めたのかと思ったが、こんなくだらねえ記事を書いてやがったのか!
「来い、ゼリービーンソルジャーズ。こいつを――」
いや、待てよ。
エフェクトと共に姿を現したゼリービーンソルジャーズに命令を下そうとして、思いとどまる。
こいつらに剥がして回らせようと考えたが、逆にこれはチャンスじゃないか? 仮にこのゴシップ新聞に一定のファンがついているのなら、それを利用出来ればこっちの流したい情報を拡散できるということでもある。
都合の良いことに、締めは今後の二人の動向に要注目となっている。これなら枡米が次の俺たちの動きを記事にしても何もおかしくはない。
「こいつを利用して更に生徒会を挑発するか……」
「おいおい、誰を挑発するって? お前が氷室凪だな。生徒会とやりたいってんなら、まずはこの俺、生徒会連切り込み隊長の建内が相手になってやる。さあ、かかって来い!」
「黙らせろ」
「はっ! こんなチビ共で俺を止められるかよ! こんな……くっ、なんだ!? こいつら強い!?」
誰かが絡んできたが、俺は枡米をどう言い包めるか考えるのに忙しい。かかって来いという言葉を聞いて、ちょうど呼び出していたゼリービーンソルジャーズに適当に相手をさせ、考えがまとまる頃には戦いは終わっていた。
誰かと思えば、カンガルーの獣人でありオーラユーザーでもある3年の建内か。獣人の優れた身体能力がオーラによって更に強化された、異能強度2の校内ではそれなりのホルダーだ。
「この俺が……! 冒険者なんかに、こんな簡単に!?」
自信があったようだが、このレベルじゃあ既に俺の相手にはならない。
床の上に蹲る建内を置いて俺は新聞部の部室へ向かって歩き出した。




