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episode2-26 前哨戦

 土日は探偵事務所でのバイトと、古條たちとの模擬戦や組手であっという間に時間が過ぎて翌月曜日。

 ひとまず古條の異能のスペックや戦闘能力は大体わかった。異能強度は4程度だが、純粋な格闘技術で言えば俺たちの中で最も秀でている。

 俺のは基本的に喧嘩殺法だし、樹霧は強化された身体能力と天性の感覚によるゴリ押し我流体術で、如月はそもそも肉弾戦の経験がないからな。格闘技経験のある古條が一番なのも当然といえば当然の話だ。


「凪兄さん、最近忙しそうだけど何してるの? バイトはほとんど辞めたんだよね?」

「俺はいつだって平定者になるために動いてるぞ。美月だって知ってるだろ?」


 ここ最近、朝はかなり早い時間に登校し、放課後は遅くまで残って仲間候補のホルダー探しをしていたため、美月と一緒にいる時間はあまりなかった。

 とりあえず生徒会とやり合うための当面の戦力は確保できたため、ホルダーの捜索は終わりにして今日から再び美月と登校を共にしている。


「そういうことじゃなくて、具体的に何してるのって聞いてるのっ」


 冒険者になったことで魔術師を目指す意味がなくなったというのと、金銭的な問題は解決したという二つの理由から、俺が探偵事務以外のバイトを辞めたことは美月も知っている。暇になったはずであるにもかかわらず構って貰えなくて拗ねてるのだろう。相変わらず兄離れの出来ない困った妹分だ。


「美月には関係ねえな」


 前にも考えた通り、力で無理矢理ってことの是非は置いておいて、拘りがないのであれば大人しく生徒会連に入っておいた方が無難だ。戦いを強要されたりするわけでもないし、理不尽な上下関係があるわけでもない。美月みたいに争いに向いてない奴は、とりあえず加入だけして異能のお披露目会とやらの対応だけしておけば普段と何も変わらない生活を送れるはずだ。

 だから俺は美月への勧誘を止める気はない。もちろん嫌がってるのに無理な勧誘をするようならぶっ飛ばしてやるつもりだが、別に美月は生徒会に対して特別悪感情があるわけでもないだろうし、放っておけば生徒会連に入るだろう。


「関係なくないよ。私に出来ることがあるなら手伝うもん」

「気持ちは嬉しいけどな、美月には向いてねーんだよ」

「そんなの――」

「よう氷室、喧嘩の相手はお前がしてくれるんだったな?」


 食い下がる美月をどうやってあしらおうかと考えていたところで、美月の言葉を遮って聞き覚えのある声が聞こえて来た。声の方に視線を向けて見れば、竹刀を持った武田が生徒を五人ほど引き連れてぞろぞろとこちらに近づいて来ているところだった。

 いつの間にか校門を過ぎて学校の敷地内に入っていたらしい。治外法権というわけではないが、校内の喧嘩やらイジメは軽く扱われがちな傾向があるからな。暴れるなら外より中でというわけだ。


「おいおい、冒険者相手にこの人数かよ。しかも今の俺はこんな貧弱なんだぜ?」

「だったら大人しく古條から手を引け。こっちもお前と揉めるのは面倒だからな」


 この会話の間に俺と美月を包囲してくるかと思ったが、とくにそういう動きがあるわけでもなく、武田に引き連れられてる連中はボケーっと突っ立っている。

 どうやら本気で俺とやり合うつもりはないらしい。こないだの件はまだ上に報告してないのか? それとも報告した上でなお、俺とは穏便にという方針に変更がない? わからんが、まあいい。こういう展開を待っていた。


「にしても、異能強度1程度のホルダーならもっといるだろ? それしか集まんないなんて人望ないんじゃないのか?」


 どうせならもっと大勢で来てくれた方が、俺と生徒会の敵対を周囲の生徒にも派手に印象付けられて良かったんだがな。そうなりゃもう生徒会も及び腰ではいられなくなる。

 あるいは相手が俺だからか? 生徒会連に所属してるホルダーにもダンジョンアサルトの被害者は大勢いるだろうし、それを解決した俺と敵対したくないというメンバーがいても不思議ではない。


「雑談に付き合う気はない。さっさと答えろ」

「ね、ねえ凪兄さんどういう状況?」

「心配すんな、大人しくしとけ」


 小声で不安そうに問いかけてくる美月に穏やかな声で答える。


「わりぃな武田。売られた喧嘩は買う主義だ」

「そうかよ。やるぞ」


 俺の言葉を受けて武田は後ろの連中に合図を送り、つまらなそうに話を聞いていた連中が少し驚いたように表情を変えた後、やる気十分な張りきった様子で左右に広がり始めた。




 まずは武田。

 異能はその他に分類される「武器術熟達」。異能強度は1。

 竹刀、木刀、金属バット等々、武器に合わせた戦い方を自然と体が理解する。が、身体能力が上がるわけではないため、どこまで行っても無能力者ノーマルの熟達者の域を超えない。

 銃の所持が認められてる国ならもう少し力を発揮できたかもな。


 総評、雑魚。




「この前はよくもやってくれたな氷室!」

「やったのは俺じゃねえけどな」


 五人のうちの一人はこないだ古條がぶちのめした茂山。今回も金属バットを浮かせている。

 異能はその他に分類される「物体浮遊」。異能強度は1。物体を浮遊させて操ることのできる異能で、許容重量は本人の腕力と同等。同時浮遊可能数は一つ。そして発動に集中力を要する。

 異能そのもののポテンシャルは悪くないと思うが、練度がカス過ぎて話にならない。

 せめて浮遊させた物体を操作しつつ、同時に自分も攻撃に参加できれば手数が二倍になって良いのだが、茂山の場合異能の発動中は亀のように防御を固めるくらいしか出来ない。


 総評、雑魚。




「氷室、お前に恨みはないけど俺の異能の実戦相手として利用させて貰うぞ。はあああああああ!!」

「隙がデカすぎ」


 3-Fの飛田ひだ。それなりに体格の良い男子で、肌の色が赤褐色になっている。無手。

 異能はオーラだが、基本能力の一つも習得出来ていない。異能強度は1。

 単純にオーラを練り上げて『強化』には及ばない程度の身体強化が出来るのだが、それにもかなり時間を要する。俺の目の前で気合を入れて叫んでるのは今正にオーラを練っているからだ。

 古條のように基礎の出来ているオーラユーザーであれば、その程度は一呼吸の間に出来る。


 総評、雑魚。




「先輩といえども生徒会に逆らうなら容赦はしません! 僕のハイドロキネシスが相手です!」

「お前その水鉄砲いつも持ち歩いてんの?」


 1-Bの干釣ほしつり。海藻のようにうねった頭髪が生えている中肉中背の男子。かなり大きいカラフルな水鉄砲を持っている。

 異能は超能力に分類される「水流操作ハイドロキネシス」。異能強度は1。液体なら何でも操れるというわけでもなく、基本的には「水」以外を操作することは出来ない。同時に操ることのできる水の量は多くなく、自分の視界に映っていない水は操れない。形状は球形から大きく崩すことは出来ず、リーチとスピードもそれほどはない。


 総評、ほんの少しマシな雑魚。




「ちょっとダンジョン踏破したくらいでワーキャー言われやがって……! 人気者には死を!」

「それで前見えてるのか?」


 3-Fの横田よこた。前髪で完全に顔が隠れている長身の女子。無手。

 異能は「無名」の悪魔憑き。異能強度は1。名無しの悪魔に大した力はないが、多少身体能力は強化される。

 また、無名ではあるが特定の対象に不快感を抱かせるという地味な嫌がらせ能力を持っている。実際、そこはかとなく嫌な気分だ。異能を使われてるな。


 総評、多少マシな雑魚。




「ニャーハハハ! あたしより可愛い子は男でもぶちのめすニャ!」

「キャラ付け必死過ぎだろ」


 2-Cの島崎しまざき。全身フサフサの白猫女。猫耳猫尻尾程度のレベルではない、かなり獣よりの獣人。ちなみに枡米情報によると口調は完全にキャラ付けとのこと。

 異能はその他に分類される「羽毛の身体」。異能強度1。自分の重量を最大1/20にまで軽量化することが出来る。猫獣人としてのしなやかな筋肉と相性が良く、軽快にピョンピョンと跳ね回る動きは素人では中々捉えにくい。

 とはいえ、軽量化出来るのが自分だけであり、身体能力も強化系の異能とは比べるべくもないためそこまでの脅威ではない。


 総評、異能強度1の中ではそれなりにやる。




 武田としては俺と本気で喧嘩するつもりはなく、脅しとして引き連れていただけだったのだろう。連中もそれを知らされていたからさっきまでは当事者意識0の間抜け面を晒していた。しかし予想に反して俺が喧嘩に応じたから、ようやく異能を振るえると理解して喜びを露わにした。

 俺にも似た部分はあるから気持ちはわからなくもない。折角異能を手にしたからにはそいつを存分に使ってみたいよな。


 わかるわかる。よくわかるぞその気持ち。

 だから俺も基本的には常に、君臨する支配を発動している。


「来い! ゼリービーンソルジャーズ!」

「なっ!? なんだこいつら!?」


 開戦の狼煙をあげるように、雷鳴の如き轟音が響き渡り、眩い閃光が撒き散らされる。

 地面に出現した七色の魔法陣の上に立つのは、菓子姫に忠誠を誓った兵士たち。


「はっはー! もっと笑えよテメーら! 楽しい遊びの時間だ!」


 その言葉を合図に、ブルー以外のゼリービーンソルジャーズが一斉に武田たちに向かって走り出した。


「氷室お前! 冒険者になったんじゃなかったのか!?」

「聞いてねーぞ武田! どういうことだ!?」

「ちょ、まだオーラが!」

「うわああああ!? これでも食らえー!!」

「相手は無力な冒険者だって聞いたから付いて来たのに! 話が違う!」

「ニャハハ! 捕まえられるもんなら捕まえてみろニャ――フギャ!?」


 反撃されることなど一切想定していなかったのか、連中は向かってくるゼリービーンソルジャーズを見て慌てるばかりで、これから喧嘩を始めようという空気は完全に消え去っていた。

 唯一猫獣人の島崎だけは大きく跳び上がってゼリービーンソルジャーズの頭上を通り抜けるように俺の方へ向かって来ていたが、ブルーの放った矢じりを潰した矢によって見事に撃墜された。

 それに続くように他のゼリービーンソルジャーズたちも浮足立った武田たちを瞬く間に制圧し、生徒会連との初戦闘は喧嘩と呼ぶのが烏滸がましいほどに一方的な勝利によって幕を下ろした。当然殺してはいない。所詮これは喧嘩だ。しかし異能強度1程度が相手じゃ喧嘩にすらならない。これじゃあ経験も何もあったもんじゃないな。


「クソっ! なんなんだよそいつら!?」

「負け犬に質問する権利はない。もう一度だけ言うぞ武田、今度はしっかり生徒会の連中に伝えろよ? 雑魚に用はねえ。俺は樹霧と古條と手を組んだ。俺らを潰したきゃ、テメーら自身でかかってこいってな」


 それだけ伝えて歩き出す。

 これで生徒会の連中が出てくれば話は早いが、まだ異能強度1の雑魚共を蹴散らしただけだ。俺たちの話は生徒会まで届くだろうが、もう少し様子見で異能強度2~3辺りの生徒会連が送られてくるだろう。


「凪兄さん、あの人たち生徒会連の人だよね? あんなことして大丈夫なの?」

「先に吹っ掛けて来たのはあいつらの方だ。正当防衛だろ」

「そ、そうじゃなくてっ、なんで生徒会連の人たちと喧嘩になっちゃってるの!?」

「ちょっと考えればわかるだろ。あいつらはホルダーを傘下に入れようとする。けど俺は誰の下にもつかない。衝突するのは必然だ」


 実際は俺のことは放置しておくつもりだったようだが、その辺の話を美月に教える必要はない。

 俺の性格をよく知る美月ならば、この説明で納得するだろう。


「それはそうかもしれないけど……。それにっ、良かったの? あんな人前で異能使って」

「俺の異能がダンジョンの内外で使えるのを隠す気はない」

「それも、平定者になるため?」

「ああ」


 職業冒険者としてではなくホルダーとして平定者を目指す以上、遅かれ早かれ俺の異能の特殊性は露見する。桜ノ宮とも話した通り、重要なのはどこまでを明らかにしてどこまでを伏せるか。線引きは既に済んでいる。


「じゃあ、私も協力する!」

「駄目だ」

「なんでっ? 私だってホルダーだもん。もう凪兄さんが思ってるほど弱くないよ!」


 こういうことを言い出すと思ったから美月に詳しいことは話したくなかったんだ。

 美月の異能強度は5らしいが、異能の強さは関係ない。どれだけ強力な異能を持っていても性格的に戦いに向いてないホルダーというのはいくらでもいる。


「協力してる人がいるんでしょ? だったら私だって」

「お前は喧嘩なんて出来ないだろ。足手まといになる」

「出来るよっ! 私だってやれば出来るから!」


 その自信はどっから出てくるんだよ。

 昔から普段は臆病で引っ込み思案なくせに、変なところで頑固なんだよな。

 美月が自分に自信を持つことは悪いことじゃないが、それはこういう荒事じゃなくてもっと美月に合うものがあるだろうに。


 危ないことに巻き込みたくないっていう兄貴分心をちっとくらい察して欲しいもんだがな。

 まあ、同じ高校にまで追っかけて来たのを許してしまった俺も良くなかったか。


「いい加減兄離れしろ美月」

「……そんなんじゃない」


 俺の歩幅に合わせてついて来ていた美月が立ち止まり、俯いて何かをぼそりと呟いた。


「なんか言ったか?」

「証明するよ。私は足手まといになんかならないって。待ってて、凪兄さん」

「証明って何する――あ、おい、美月!」


 振り返って問い返した俺を置いて、美月は一人足早に校舎へ入って行った。


 何をするつもりかは知らないが、予想はつく。生徒会連の勧誘を異能で撃退するとか、そうでなくても似たようなことだろう。心配ではあるが学校内の小競り合い程度なら命の危険はないし、それで美月が自分には向いてないと気づけるなら勉強代としては安い。


「そんなに甘くねえよ」


 美月は大人しくて、引っ込み思案で、小心者で、誰かが守ってやらなきゃいけない弱い子だ。

 あいつは俺の覇道にはついてこれない。動き出してしまった以上俺はもう止まらない。だったらここらで距離を取っておくのがお互いのためになる。

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― 新着の感想 ―
総評雑魚ばっかりじゃん。 雑魚は雑魚なりに鍛えればいいのに、まともな練習もしてないとか、一般人でも勝てそう。
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