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episode2-21 俺のモノ

 枡米との取引により手に入れた情報を基に、ダンジョンアサルトで炙り出されたホルダーを訪ねて回ること早四日。あっと言う間に週末の放課後を迎えたわけだが、未だに収穫は0のままだった。

 枡米の情報に不備はない。元々ホルダーであることが知れ渡っていた連中と、ダンジョンアサルトで炙り出されたホルダーが区別できるようにタグ付けされており、しかも元無能力者ノーマルで冒険者になってしまった生徒についても書かれていて、中々悪くない仕事の出来だと感心してしまったほどだ。悪だくみは不得手のようだが、情報の収集や整理はそれなりに有能らしい。


 問題はその炙り出されたホルダーたちの方で、俺と樹霧の二人で手分けして話を聞いて回ったのだが、ほぼ全ての生徒が既に生徒会連の魔の手に落ちており、そうでない者も勧誘が来たら大人しく加入するつもりという奴ばかりだった。

 休校が明けてからまだたった一週間しか経っていないというのに生徒会の動きは随分と迅速だ。こちらは完全に後手に回ってしまっている。

 それに、今まで樹霧が暴れ過ぎたのも良くなかったらしい。樹霧はこれまで何度も生徒会からの勧誘を力づくで撃退しているわけだが、多くの生徒にその激しい戦いぶりを見られている。もちろん俺もその目撃者の一人なわけだが、それはつまり、樹霧と実力の近いホルダーが勧誘に来ていることが知れ渡っているということでもあり、自分たちではそのレベルのホルダーに対抗出来ないと戦う前から抵抗することを諦めてしまっているのだ。


 そんなわけで、枡米から手に入れた情報に載っている隠れホルダーの内、まだ声をかけていない生徒はたった一人にまで減ってしまった。

 仮に最後の一人も駄目だった場合、ダンジョンアサルトでも炙り出されず未だに隠れ続けているホルダーを見つける方向で動くことになりそうだが、それはかなり難しいだろう。


「あとは1-Dの古條こじょううつりちゃんに、1-Aの姫路ひめじ美月みつきちゃんですね」

「美月は争いごとに向いてない。残りは一人だ」


 美月がいつの間にかホルダーになっていたこと自体は、休校期間中の検証で知っていた。異能強度はそれなりに高いようだが、本人の性格がとても喧嘩なんて出来るもんじゃない。話を聞くまでもなく美月は候補に入らない。


 この四日間で一通り全学年のクラスや部活は回ったが、いつも席を外していて戻って来てないとかで会えなかったのが古條うつりだ。


「それにしても古條ちゃんはいつ教室に行ってもいませんけど、どこに行ってるんですかねー?」


 樹霧に説明した通り、一年には枡米や生徒会でも把握できていない隠れホルダーが潜んでいる可能性が高いため、授業の合間や昼休み、朝の授業開始前など、放課後以外にもかなりの頻度で訪ねてみたのだが、古條とかいう一年はいつも留守にしていた。

 クラスメイトに聞き込みをした感じ、前からそんなに慌ただしかったわけではなく、休校明け二日目に生徒会連の人間が一度訪ねてきて、それ以来ということらしかった。


「生徒会連の連中から逃げてるか身を隠してるんだろ」

「だとしてもこれだけ探してるんですから一回くらい遭遇しても良いと思いませんか?」


 樹霧の言うことも一理ある。別に毎度一年の教室だけを探していたわけではなく、他の捜索対象もいるためこの四日間は校内で満遍なく人探しをしていたが古條は見つからなかった。外見はかなり特徴的だから一目見ればわかると1-Aの生徒は言っていたが……。


「まあ、ここで頭を捻っててもしょうがない。とりあえず今日も一旦教室を見に行って、いなければ校内を探すか。急がないとまた入れ違いになっちまう。行くぞ」

「入れ違い……、――! ちょっと待ってください氷室くん。樹霧気づいちゃいました!」

「あん? なんだよ急に?」

「入れ違いになってたんですよ!」


 だから入れ違いになっちまうから早く行くぞって言ってるんだが。


「古條さんは多分――」

「せんぱーーい! 今日も匿ってください!!」

「うるさっ」


 大発見と言わんばかりに興奮した様子の樹霧の声を掻き消すほどの大声が突如教室内に響き渡る。

 なんだなんだと声の聞こえた方向を見てみると、そこには見知らぬ女生徒にしがみつかれている委員長の姿があった。


 俺の席からは後ろ姿しか見えないが、赤系統のツインテールにデケー角、さらに角の付け根辺りからゆらゆらと炎が立ち上っており、短いスカートの下から悪魔のような細長い尻尾が垂れ下がっている。


「あれ、あいつ古條じゃないか?」


 外見的特徴が聞いていたものと一致している。


「だから入れ違いになってたんですよ! 樹霧たちいっつも授業が終わったらすぐ教室を出てたじゃないですか? 多分そのあとウチの教室に来てたんですよ」


 なるほど、入れ違いってそういうことか。確かに、いつもすぐ教室を出て次の授業ギリギリまで戻らなかったし、放課後も結構遅い時間まで残って捜索をしていた。

 周りのクラスメイトも大声に一瞬驚いてはいたが、戸惑っている様子はないので今日が初めてではないのだろう。灯台下暗しってやつだな。盲点だった。


「よく気づいたな樹霧」

「ふふん! 勘は良い方なんです!」


 樹霧が呼び止めなければ今日もちょうど入れ違いになるところだったな。お手柄だ。


「それにしてもあいつ、どっから出て来た?」


 委員長にしがみつきながら助けを求め、大崎に力づくで引き剥がされてる古條を観察しつつ呟く。

 教室のドアを開けて入ってきたという感じじゃなく、何もない場所からいきなり現れたように見えた。視線誘導、認識阻害、不可視化、転移、色々考えられるが絞り込むのは現状無理か。枡米の情報には異能の詳細までは書いてなかった。


 まあ、本人に聞けば良いか。


「ここか。ようやく見つけたぞ古條」

「こっちも暇じゃないんだから大人しくついてこいって!」

「きゃー! 助けてください先輩! 襲われます!」


 声をかけるために席を立とうとしたところで、勢いよく教室のドアが開き二人組の男子生徒が剣呑な雰囲気を纏いながらズカズカ入ってきた。

 二人とも背丈は平均程度で、一方はそれなりに体格が良いがもう一方は華奢。あれは2-Fの武田たけだ茂山しげやまだな。異能強度は両方1。それぞれ武器の扱いに精通する異能と、物体を浮かせて操る異能の持ち主だ。

 武田は竹刀を肩に預けるように持っており、茂山はこれ見よがしに金属バットをフワフワと浮遊させている。二人とも見た目はそれなり整っているが、どうも言動と雰囲気のせいで三下感が半端ないな。


「襲われるとは人聞きが悪い。これは勧誘だよ」

「そーそー、大人しくしてれば痛い目には合わねーよ!」

「大人しくしなかったら襲われるってことじゃないですか! この変態!」


 ふむ、何やら面白い場面に遭遇してしまったな。

 今までも生徒会連が無理な勧誘をしているところに横やりを入れるつもりだったわけだが、こちらの思惑に反して生徒会連に反抗するような肝の座った生徒はお目にかかれなかった。

 しかし今目の前で繰り広げられているのはまさに理想的なシチュエーションと言える。あとは古條に、最後まで自分の意志を貫く強さがあるかどうか。


 それと、委員長がどう出るかも気になるな。どういう経緯で古條が委員長に助けを求めているのか知らないが、委員長も一応は生徒会連の所属だぞ?


「先輩! ダンジョンの時みたいに助けてくださいよー! あの暴漢どもを懲らしめてやってください!」

「武田くん、茂山くん、生徒会連の勧誘ですか?」

「ああ、お前のお陰で異能を隠してたホルダーが随分見つかったからな。この一週間は大規模なホルダー狩りをしていたんだが、それも大詰めだ」

「はっ! 残念だったな古條! そいつも生徒会連の一員だ! つーかお前がホルダーだってバレたのもそいつのせいだろ? 頼る相手を間違えてんだよ! はははっ!」

「……そうですね。それは申し訳ないと思ってます」


 おいおい、本気で言ってんのかあいつら?

 誰のお陰で被害が最小限に抑えられたと思ってんだ?

 それを言うに事欠いて、委員長のせいでホルダーだってバレただと?

 あの馬鹿どもはダンジョンアサルトに巻き込まれてなかったみたいだな。もしあの場にいたのなら、例え委員長に助けられてなかったとしても、委員長のやったことがどれだけ困難で称賛に値するものかわからないわけがない。


「ざっけんじゃねええええっ!! ですよ!!」


 吠えた。

 ゼリービーンソルジャーズを呼ぶために口を開きかけた俺ではなく、縦長のバックのチャックを開いた樹霧でもなく、俺たち同様怒りを滲ませているクラスメイトたちでもなく、委員長でもない。


 ついさっきまで委員長に助けを求めて泣きついていた古條うつりが、誰よりも早く吠えた。


「あんたたち馬鹿ですか!? 脳みそ空っぽですか!? 義務教育の敗北ですかぁ!?」

「な、なんだ急に」

「誰に向かって――」

「だ! れ! の! お陰で私が今生きてると思ってんですか!? ホルダーだってバレたのなんてどーだって良いんですよ!! 先輩という救世主! 天使! いいや女神がいなかったら! 今頃学校中がお通夜状態でしたよ! あんたらの下らねえごっこ遊びなんかやってる余裕もなかったんですよ!!」


 ……くくっ、中々言うじゃないか、あいつ。

 生徒会連の連中も勢いに圧倒されて怯んじまってるぞ。


「もう怒りましたよ! 高校ではネコキャラで行くつもりでしたけど我慢の限界です!! 二人まとめてぶっ飛ばしてやりますっ!!」

「……異能を隠してた腰抜けがよく吠えるな」

「入る気はねーってことだな。生意気な口きいたこと後悔すんぞ」


 合格だ。気に入った。

 樹霧に視線を送り、もしもの時は助けに入るぞとアイコンタクトで伝える。

 欲しいのは即戦力であるのは間違いないが、この際弱くても構わない。

 こいつの精神性なら、今は弱くても十分上を目指せるはずだ。


「喧嘩は駄目です!」


 こうなってしまえば最早委員長の制止でも止められはしない。

 古條を庇うように前に出た委員長に対し、古條の姿がその場から消える。そして次の瞬間、竹刀を持っている方の男子、武田の背後に姿を現し思い切り金的を食らわせた。


「はぅっっ!! ~~~~~~っ!! ――!」


 武器の扱いに精通するとは言っても、武田のは武道の達人になるというほどではない。相手が一般人であれば十分優位を取れるかもしれないが、相手もホルダーである以上竹刀をうまく扱える程度は大した強みにはならなかったらしい。

 顔を真っ青にした武田は声にならない悲鳴をあげながら床の上でのたうち回っている。


「このっ!」


 武田の様子に気が付いた茂山は慌てて振り返り、股間を庇うように内股になりながら両手で局部を覆いつつ、そのまま宙に浮かせた金属バットを古條に向けてフルスイング。

 さきほどの動きを見るに古條の異能は恐らく転移。消えてから姿を現すまでが一瞬だったため、透明化などの視覚を誤魔化す系統の可能性は低い。だから俺の見立てでは再度転移して背後を取ると思ったのだが、古條は勢いよく振り抜かれたバットを片腕でガードしつつ、一息に茂山の懐まで踏み込んで強烈なアッパーをお見舞いした。

 内股に加えて両手を局部に持って行っていた茂山は、知らず知らずの内に背中が丸まって前傾姿勢になっていたらしい。どうぞ殴って下さいと言わんばかりに差し出された顎に向かって拳を叩き込んだわけだ。

 床に崩れ落ちた茂山は気を失ったらしく、白目を向いて倒れ伏している。


 弱くても構わないなどと考えていたが、訂正する必要があるな。

 古條うつりは強い。少なくとも異能強度2以上は確定だ。


「ふふん! 準備運動くらいにはなりましたね!」

「やりすぎです古條さん! だから駄目って言ったじゃないですか!」

「だってだって、こいつらが先輩を侮辱したのが悪いんですよ!!」


 おお、あの委員長が珍しく大声を出してぷんぷんと怒っている。

 あの感じを見るに、委員長は古條の強さを知ってたな?

 良いな、俄然欲しくなった。生徒会連にはもったいない。


「お、おまえ……、こんなことして、ただですむと……」


 ギリギリ意識のある方、武田はヨロヨロと立ち上がりながら三下丸出しのセリフを吐いた。


「ふん! いつでもかかって来いですよ!」

「いいやちょっと待った」


 一枚噛むならここだろう。

 こっそり近づき介入するタイミングを見計らっていた俺は、古條の後ろから勢いよく肩を組んで会話に割り込んだ。


「え? え?? なんですか!? 可愛!! じゃなくて誰ですか!?」


 わかるわかる、いきなり馴れ馴れしく肩組まれるとテンパるよな。心配しなくても俺はどこぞの直結野郎と違ってセクハラはしないから安心してくれて良いぞ。


「ひむろ……」

「ご紹介どうも、俺が噂の氷室凪だ」

「あ、ああぁぁ!  第二の救世主こと凪様じゃないですか!」


 そんな称号は知らんが、何を隠そう俺が凪様だ。


「こいつは俺が貰う。喧嘩を売るんなら俺が相手になるって上の連中に伝えとけ」


 組んでる肩をぐいっと強く引き寄せ、こいつは俺のモンだとアピールしながら武田にそう告げた。

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俺様系ロリいいぞー
ガールズラブのかほり………。
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