episode2-19 No.3
「それで、今度は氷室の番だろ?」
「わかってる」
沖嶋なりに腹を割って話したのだから、俺にも事情を説明しろと言いたいのだろう。
軽くタイプを聞いてこっちも簡単に話す程度のつもりでいたが、誠意には応えなきゃ筋が通らない。
「俺は今、平定者を目指すための集まりを作ってる。学生の間だけのお遊びじゃなく、これから一生かけてでも平定者を目指すっていう本気の勢力だ」
この辺りのことは樹霧にも伝えてあるし、沖嶋にも朝話した通りだ。
「それと並行して、俺たちは生徒会に喧嘩を売る」
「なんでそんなこと」
「ひとまず当面のメンツは校内で集めるつもりだから単純に競合して邪魔なんだよ。生徒会がホルダー狩りをしてるのは知ってるだろ?」
「なんとなくは」
あんまり詳しくは知らないって感じの返事だな。まあそれも仕方ない。沖嶋はホルダー狩りで生徒会連に入ったんじゃなく、それよりもっと前から所属してたから現在の状況を把握してなくても不思議ではない。
「それから単純にメンバーに経験を積ませるため。本気で平定者を目指すんなら荒事は避けて通れないからな。命の取り合いにまではならない学校の小競り合いで練習しとくのは悪くないだろ?」
「負けても生徒会連に加入させられるくらいだからってことか」
理解が早くて助かる。
「最後に大義名分があるからだ。いくら校内の秩序を守るためなんてお題目掲げても、暴力で屈服させるってのは正当化出来ない。学校側がなんでそれを黙認してんのか知らねーけど、それならそれで利用してやろうってわけだ。喧嘩を売るってのは言葉の綾で、より正しく言うなら――」
「正当防衛、って言い訳が出来る」
「そういうこと」
強引な勧誘を受けて、断ったら襲われた。だから抵抗した。
そういう大義名分を掲げて喧嘩出来る機会なんて早々ない。これを利用しない手はないだろ。
「俺が氷室の敵になるってそういう意味だったのか。俺が一応とはいえ生徒会連に入ってるから」
「100点満点、正解だ。わかったら俺らの喧嘩が終わるまで大人しくしてるんだな」
生徒会と決着がついた後は、どうなるか俺にも読めないからその先の約束は出来ないけどな。
桜ノ宮ならなにかしら予想はついてるのかもしれないが、頼らなくて良いことまで頼る気はない。
「や、じゃあ俺生徒会連やめるよ。そしたら敵じゃなくなるし、氷室の仲間になれるだろ?」
「バーカ、裏切り者はお呼びじゃないんだよ」
「坂島さんの異能を警戒してるんだろ? 氷室は知らないかもだけど、俺はホルダー狩りで生徒会連に入ったんじゃなくて」
「先代の時に入ったんだろ? 知ってるよ」
生徒会連というのは本来生徒会の雑務を手伝う志願生徒の集まりであり、それは何も今代から始まったものではなく何代も前から存在している。
経緯までは知らないが、沖嶋が先代の生徒会の時代に生徒会連に自主的に加入して色々手伝っていたのは知っている。
「じゃあわかるだろ? 俺は坂島さんの異能は受けてないよ。裏切りとか内通の心配なんてないって」
「そういう意味じゃねーよ。古巣を裏切ってこっちにつくような奴はいらないって言ってんだ」
「裏切りって……。俺はあくまで前の会長さんを手伝ってただけだし、代替わりしてからは……まあしばらくは手伝ってたけど、ホルダー狩りなんておかしなこと始めてからはあんまり関わってないからな?」
沖嶋にしては珍しく、余裕を感じさせない態度で食い下がる。
どうしちまったんだこいつ。本気で言ってんのか? ここまで説明すりゃわかると思ったんだが……。
「だったらその時に辞めることも出来ただろ」
「それは……、いや、でも辞めるなんて言ったらそれこそ坂島さんの異能が」
「だとしてもだ。所属を曖昧にしてたくせに、敵対してる相手に付きたくなったから辞めますもう関係ありませんなんて、筋が通らねーだろうが」
そういうのを世間じゃ裏切りって言うんだよ。
「それは、そう……かもしれないけど、でも氷室も候補が見つかってなくて困ってるんだろ?」
「沖嶋ぁ!」
「っ」
しどろもどろになってそれでもなお食い下がろうとする沖嶋を一喝する。
「そんなに俺の下僕になりたけりゃ腕を磨いて待ってろよ。こんな喧嘩すぐに終わる」
どういうわけか知らないが沖嶋は随分と俺のことを評価しているらしい。ここまで言われれば流石にわかるし、沖嶋だけ最初から君臨する支配の旗下に入っていたこともそれなら説明がつく。
ダンジョン踏破後に色々検証する中で、加賀美や如月は君臨する支配の効果範囲に居ても旗下から外れたのに対して、沖嶋だけは旗下に入ったままだった。
偶然や何かの間違いではなく、こいつだけは本気で俺を認めている。
だったら、大人しく俺が勝つのを待っていろ。
「それともなんだ? 俺が負けるとでも思ってるのか?」
「――ははっ、たしかにそうだよな。いまさら焦ることなかったな」
沖嶋はハッとしたような顔をしたかと思えば、思わずというように笑いだし、いつもの調子で爽やかな笑顔を浮かべながらそう言った。まったく世話の焼ける下僕だ。
「じゃあ、待ってるから頑張れよ氷室」
「そっちこそ、こっちが終わるまでに解放部位は増やしとけ。じゃなきゃどのみちついてこれねーぞ」
「ご心配どーも。それまでに全身完成させとくよ。聞きたいことも聞けたし部活行くわ。また明日な」
「おう」
図書室を通り正規ルートから出て行く沖嶋を見送って、俺も図書室に戻ろうとしたところで何者かのタックルを受け再び非常階段の踊り場に押し出される。
「うおぉ!? なんだ!?」
生徒会の刺客か!?
「知らなかった」
「ってなんだ、如月かよ」
ぽつりと呟かれた声で下手人が如月であると気づき、内心でホッと胸を撫でおろす。完全に油断していた。
ていうか腹に頭をこすりつけるな。圧迫されて昼飯の行き場がなくなるだろうが。
「沖嶋くんが女子に苦手意識あるなんて、あたし知らなかった!」
「はぁ? んなの俺も知らなかったわ。つかあの感じだと誰も知らねーんじゃねーの?」
別に如月に限った話じゃないだろ。
「ずっと見てたのに、気づかなかった……。沖嶋くんは他の男子と違って下心がなくて、紳士で、誠実でって、都合よく勘違いしてた……」
沖嶋の次は如月かよ。
こういう雰囲気の話は俺の領分じゃねーだろ。
「それで? 思ってたのと違ったから冷めたのか?」
「そんなんじゃない! 何もわかってないくせに、無神経に踏み込もうとしてた自分が恥ずかしいんだよ!」
そういう自戒は一人で勝手にやってくれねーかな。
まあとりあえず沖嶋に惚れてるっていうのは変わってないみたいだが、
「これからどうすんだ? あの感じだとお前を推してもあんまり効果はなさそうだぞ」
約束は約束だから協力する気はあるが、本人が女子と深い仲になるつもりは今のところなさそうだったからな。
本気で沖嶋と恋仲になろうとするんなら結構な長期戦も覚悟する必要がある気がする。
「結局好きな女のタイプもわからなかったしな。憧れの人はいるみたいだしその方面で攻めるか?」
「真似しても意味なんてない。結局、沖嶋くんの特別は一人しかいないんだ。それだけは間違ってなかった」
会話にならねー。
こっちの話に答えてるようで自問自答してるだけだろこれ。
「決めた。氷室、あたしがあんたの仲間になってあげる」
「……は?」
待て待て待て、何がどうしてそうなった? 意味が分からないぞ。今は如月の恋愛相談をしていたんじゃないのか? いつの間に俺の話に変わってたんだ?
「平定者を目指す勢力? だっけ? それの候補が見つかってないんでしょ。だからあたしが仲間になってやるって言ってんの」
「頭でも打ったか? 病院行くか?」
「おかしくなったんじゃないっての! 沖嶋くんは今あんたに協力したいけど出来ない状況なんでしょ。だったらあたしが代わりに手伝う。それに多分、あんたの近くが一番沖嶋くんの目に映るし」
……なるほど、たしかに沖嶋は俺の仲間になりたい様子だったから、先に俺の仲間になることで意識させようって魂胆か。こいつ、こういうことに関しては頭が回るんだな。
「でもお前星の杖は爺さんに回収されたんだろ?」
「それがなんでか知んないけどお爺ちゃんから葵の手に渡ってたみたいで、それで葵があたしに返して来たんだよね。今後もモニターとしてよろしくって」
「……ほう」
いや、流石に桜ノ宮でもこの展開を予想していたとは思えない。偶然のはずだ。如月に星の杖を返したのは何か別の理由があると考える方が自然。桜ノ宮が持ってても宝の持ち腐れだし、今後何かに利用しようとしていた? だが明確な目的があるなら如月を野放しにしておくのは違和感がある。まさに今のように勝手にどこかに所属しようとする可能性も桜ノ宮ならわかってるはず。
怪しいことこの上ないが、しかし如月は俺が正に求めていた通りの人材でもある。
まず生徒会や生徒会連所属でないこと。如月がホルダーであることを知ってるのは恐らく仲良しグループのような特に親しい連中だけで、生徒会や聞屋にも知られていないはずだ。
次に異能強度が高く、さらに発展性があること。科学系の異能はピンキリだが、きっかけ次第で性能が大きく向上することもある。特に如月の星の杖はより高度な魔法を再現出来るようになればかなり強力な異能になる。というか現状ですら恐らく最大火力は絶好調の樹霧とタメを張る。あのライトニングは本当に凄まじかった。
最後に精神性。如月はいざとなれば人型の生き物に止めを刺せるタイプのホルダーだ。いくら人に似ていると言ってもモンスターと人間ではまた別だろうが、その実績は大きい。沖嶋に話した根性がありやる時はやるというのはおべんちゃらではなく俺から見た素直な評価だ。
「てかあんたさ、しれっと沖嶋くんとはあんまり絡まないって約束破る気だったよね。腕を磨いて待ってろとか、仲間にする気満々じゃん」
「あっ」
いや、あの時は沖嶋があまりにもしつこいもんだから正直忘れていた。
「あたしが見てるの知ってたんだからわざとじゃないとはわかってるけどさ。もう関わらないってのは無理があるから良いけど、だったらあたしも仲間にすんのが筋だと思わない?」
「くっ!」
如月が仲間になること自体は一向に構わないのだが、こいつに言い包められて反論できないという事実がムカつく!
「わかった、わかったよ。降参だ。お前も仲間に入れてやる」
「あたしが仲間になってあげるんだよ」
けっ! 本当に生意気な奴だ!




