episode2-17 生徒会の異能
樹霧を仲間に引き入れ、俺の目的や異能の特異性について説明した翌日の朝、美月は日直の当番でいつもより早く登校して行ったため一人でダラダラと通学路を歩いているのだが、高校に近づくにつれて昨日よりも更に多くの視線を感じ始めていた。
なんとなく誰かが活躍したのだろう程度の曖昧な認識だった連中も、昨日の全校集会で誰がダンジョンを踏破したのか知ったのだろう。注目を集めるのは悪い気分ではないが、あまり数が多すぎるのも鬱陶しいな。
「あ! 氷室くんじゃないですか! おはよーございます!」
「おう、樹霧か。お前もっと登校早くなかったか?」
校門手前あたりで、向かいの道からダッシュしてきた樹霧が俺に気づき急ブレーキをかけて止まる。
普段どれくらいに登校してるのかは把握してないが、少なくとも昨日は俺より早く教室にいた記憶がある。
「樹霧はいっつもテキトーです!」
『しょっちゅう寝坊するから安定しないんだ』
朝っぱらから元気一杯という感じでハキハキと答える樹霧。
そして樹霧の背負っている大きな縦長のバックから補足するようなくぐもった機械音声が聞こえてきた。
「遅刻してないのに寝坊なのか?」
「ですよね! フライデイは細かいんですよ!」
『規則正しい生活が健康な肉体を作るんだぞ、緑』
付喪神ってやつはどいつもこいつも保護者気質なのかね。
「それより氷室くん、喧嘩を売るのはいつにしますか?」
「向こうの勧誘が来たらだな。大義名分があれば思う存分暴れられるだろ?」
「えー、じゃあ樹霧いつもと変わんないじゃないですか」
「まあ待てよ。こっちもまだ戦力が整ってるとは言えないし、仲間を探すのが優先だ」
生徒会連のほとんどは恐らく俺や樹霧の敵じゃない。まともに相手になるのはトップくらいだろう。
だが生徒会役員は一人一人が生徒会連のトップと同等かそれ以上の強さを持っている。タイマンなら負ける気はないが、一斉に一人を狙い撃ちされると厳しい。
「俺とお前を合わせて、最低でも四人は欲しい」
現生徒会と、実質的には下部組織である生徒会連は、ホルダー狩りと呼ばれる活動を積極的に行っている。
当初は治安維持活動などというそれらしい名前を使っていたが、その活動の実態からホルダー狩りと噂されるようになり、今ではその名称が一般化してしまっている。
内容は読んで字のごとく、校内のホルダーを勧誘して生徒会連に参加させるというものであり、その目的は校内の秩序を守るためとされている。
ただし勧誘というのは名ばかりで、断っても強制的に生徒会連へ加入させる異能を生徒会は保有しており、その過程で攻撃的な異能を行使することも珍しくない。要するに暴力で屈服させるということだ。
異能強度の低いホルダーは生徒会連の連中が勧誘を行い、強度の高いホルダーには生徒会役員が直々に出張ってくる。そのため、生徒会の異能はある程度生徒たちにも割れている。
生徒会長、三年、舞締 和佳奈。
今の咲良第二高校では最も安定した強さを持つ最強候補のホルダー。
使う異能は魔法。新世代第二フェーズ魔法少女。又の名を、馬の魔法少女ホース。
推定異能強度は6。
副会長、三年、彦根 正一。
通常時の樹霧と同等の強さを持ち、幾度も勧誘を行っているホルダー。
使う異能は悪魔。メトロノームの悪魔憑き。
推定異能強度は5中位。
書記、二年、朱鷺戸 将吉。
トップクラスには一段劣るものの、実力は校内十指に入るホルダー。
使う異能は模造聖剣。カドレヴ・ネツァク:G2。
推定異能強度は4。
会計、二年、坂島 耀。
生徒会の中では珍しく直接的な攻撃能力を持たないホルダー。
使う異能は世界系。世界『坂島賭博場』。
推定異能強度は1。
庶務、二年、黒石 菜々
異能の種類、強度、そもそもホルダーであるのか一切不明。
一度も勧誘を行っていないため、無能力者ではないかと言われている。
『黒石菜々以外の役員と個別にやり合うのには四人必要というわけか』
「んー、でも多分ですけど黒石さんもホルダーだと思いますよ?」
フライデイは不正解。俺も樹霧に同感だ。
「生徒会役員は会長選に勝った生徒会長が指名する。副会長、書記は明らかに異能強度で選んでるし、会計は言うまでもないだろ? だったら庶務に何もないわけがない」
「ですよね! 樹霧もなんとなく黒石さんはホルダーな気がしてたんです!」
『……なるほど、一理ある。しかしだとすれば五人必要なんじゃないか?』
「会計の異能は俺の異能で完封できる。だから四人だ」
明との検証により、俺の異能が世界系に対して特効であることはわかっている。
「理由はわかりましたけど三人目と四人目のあてはあるんですか?」
『元々緑に目を付けていたくらいだ。当然目星くらいはついてるだろう』
「いや、今のところ心当たりはない」
ダンジョンアサルト以前の話になるが、俺は校内の異能を隠していないホルダーのことはほとんど頭に入れていた。そしてそのうえで、そいつらが生徒会の毒牙にかかったか否かも、とある情報筋から仕入れていた。その情報によれば、校内のホルダーのほとんどは既に生徒会の傘下に降っている。
これから生徒会に喧嘩を売ろうって言うのに、生徒会陣営の生徒を勧誘するわけにもいかない。これは義理人情の話ではなく意味がないからだ。もちろん無理矢理生徒会連に加入させられた生徒は反抗心を持ってるだろうが、あの会計の異能に支配されている限り裏切ることは出来ない。
そのため現時点で生徒会連に所属している生徒は候補から外れる。しかしそうなると、そもそも残っているホルダーがほとんどいない。
という事情を二人に説明してやる。
『ふむ……、飼育委員長の比島はどうだ? 緑や生徒会長並に強いという話を聞いたことがある』
「あいつは今停学中だ」
他校の生徒と問題を起こしたとかで停学を食らっており、ここ一月ほどは姿を見ていない。
まあ、仮に停学中じゃなかったとしてもあいつを仲間に加えるのは少し抵抗がある。どっちにしろ今は考慮しなくていい。
「うーん、難しいですね。三人目、四人目……」
「やっぱりダンジョンアサルトで炙り出された奴が最有力か……」
「おはよう、氷室、樹霧さん」
樹霧と二人でうんうん唸りながら歩いていると、後ろから名前を呼ぶ声が聞こえた。
振り返ると沖嶋がニコニコ笑いながら軽く手を上げて小さく振っていた。
樹霧にはダンジョン踏破の真相は話してないから、あんまり馴れ馴れしくするのも不自然かと思ったが、そもそも沖嶋は元々馴れ馴れしかったから今更気にする必要はないな。
「おはようございます沖嶋くん!」
「よう、沖嶋。寝坊か?」
「そんなとこ」
なんだなんだ、どいつもこいつも今日はだらしないな。美月を見習え。
「それよりさ、なんの話? 三人目、四人目、だっけ?」
「そうなんですよ! あっ! 沖嶋くんはどうですか氷室くん! 確かフレーム使いのはずですよ!」
「だから、さっき駄目だって言っただろ」
こいつも生徒会連に所属してる。ついでに言うと小堀もな。だからこいつらは敵になるって言ったんだ。
如月と加賀美はホルダーということが知られてないから生徒会連にも所属してないはずだが、如月が俺の仲間になるはずがないし、加賀美の異能は本気を出した時の反動が重すぎる。検証の際に聞いた話だが、あれは命を削るタイプの奥の手であり気軽に勧誘は出来ない。
桜ノ宮は言うまでもなく、俺の下につくようなタマじゃない。
「なんだよ氷室、まだ俺が敵になるなんて言ってるのか? 絶対そんなことないから理由を教えてくれって」
「だーかーらー、お前は――」
待てよ。これはチャンスかもしれない。
如月との約束をどっかで果たさなきゃならんと思ってたし、ただで同じことを二度も話すなんて面倒だ。ついでにあれを済ませてしまうか。
「放課後図書室に来い。そこで説明してやるよ」
あそこは全然生徒が寄り付かないからな。戦闘するんじゃないなら旧校舎より近いしうってつけだ。
「……説明してくれるんなら良いけどさ。それはそれとして、昨日氷室が樹霧さんに告ったんじゃないかってクラスで噂になってたよ」
「はぁ? なんで俺が樹霧に?」
「あんな誘い方したら誰だって勘違いしますよ! 樹霧も氷室くんが告白のために呼び出したのかと思いましたもん!」
そうは言うが、俺にとっては大事な話だったんだぞ。
「その感じだとやっぱり違ったんだ。聞いてもいいやつ?」
「話してもいいやつですか氷室くん?」
まあ、俺が平定者を目指してるのは隠してないし、つーか沖嶋はともかく、ちゃんと話さないとクラスの連中には勘違いされたままになるってことだろ? 別に何か問題があるかって言うと特にない気もするが、……なんだ? なんとなくそのまま放置するのは落ち着かない感じがする。
「好きにしろよ」
「樹霧は氷室軍団の副団長に就任したのです! えっへん!!」
「……氷室軍団?」
「おい、そのダサい名前を正式名称にしようとするな」
「じゃあ早くセイシキメイショーを考えてください!」
んなこと言われてもな。名前なんざどうでも良いっていうか。いや、氷室軍団は嫌だけど。
「えーっと、その氷室軍団っていうのはなんなのかな?」
「よくぞ聞いてくれました沖嶋くん! 氷室軍団とはですね! 氷室くんが平定者になるために協力する団! 略してHHK団です!」
「名前変わってるうえに語呂が悪い」
氷室軍団もHHK団も没だ。
「もー! 文句ばっかりですね!」
「樹霧こそもうちょっとまともな名前を提案してから文句言えよ」
「あはは、なるほどね。それで樹霧さんがNo.2で、三人目はまだ未定って話?」
「そういうことです!」
「へー、そっかそっかー。……じゃあ氷室、放課後待ってるから」
沖嶋は最後に俺の肩に手を置き、やけに力を込めながらそう言って、すたすたと歩いて行った。元の俺なら気にならない程度だっただろうが、結構痛かったぞ。なんだあの野郎。
「みんなの誤解は解いとくよ」
沖嶋は振り返らず、こちらに見えるように手をヒラヒラ振りながらそう言って校舎に入って行った。
いつもながら気の利くやつだ。さっきのは力加減を間違ったのか?
「樹霧、お前先行け。昨日の今日で二人揃って登校なんてしたら沖嶋が何言ってもまた勘違いされるだろ」
「それもそうですね! でも意外です。氷室くんってそういうの気にするタイプなんですね」
「そうでもないと思ってたんだけどな」
自分でもよくわからないが、なんかモヤモヤするというかなんというか、言い表すのが難しい。
ただ、噂されるのが恥ずかしいとかそういうタイプの感情ではない。それだけは確かだ。
「あ! わかりました! よく一緒にいる一年生の子が彼女なんですね! 浮気してると思われたくないと見ました!」
「ちげーよ。良いからさっさと行け」
「はーい! じゃあまたあとでー!」
樹霧はぶんぶんと大きく手を振りながら走って行った。まったく騒がしいやつだ。
さて、それはそれとして如月にメッセージを送っておいてやるか。放課後こっそり図書室に来いってな。




