リリルの実家
翌日、ヴィゼルとアンリエッタさん、そして2人の娘であるミリアムちゃんが乗る馬車とは別の馬車に乗り、俺達は王都に向けアルタを出発した。
前に俺達が乗る馬車、後ろにヴィゼル達が乗る馬車という並びだ。
周囲の警戒は俺とリリルが交替で探知魔法を使いつつ、ユイリが嗅覚で補助するという形を取った。
貴族御用達の馬車だからなあ。
盗賊がいれば狙われる可能性は十分。
予め探知魔法を使うのは、危険予知活動というやつですな。
しかし、街を出発してからというものリリルの表情は昨日から変わらず曇っていた。
ユイリから聞いた話だが、リリルは両親にアルタの冒険者養成学校に送られてから、一度も実家に帰っていないらしい。
当初は年に数回、手紙を送っていたらしいが、卒業してからはそれも全く無くなったらしい。
久し振りの帰省が恋人同伴か、確かに帰りにくいかも。
でもなあ、いつかは会わないといけない訳だしなあ。
う〜ん、そう考えると俺も緊張してきたな。
「大丈夫ですか、セツナさん」
「ん、ああ、ごめんな、ちょっと考え事してた。
筋道を通そうと思ってリリルの両親に挨拶をしたいって言ったけどさ。
リリルの気持ちを考えてなかったから、リリルが帰りたくないって言うならそうするべきなのかなあって思っちゃって」
「駄目ですよセツナさん、リリルのご両親には挨拶するべきです!
リリルもですよ、ご両親とはいつまで経っても親子の関係なんですから、ちゃんと仲直りしないと!」
「ええ、そうね。
そうなんだけどね……やっぱり帰り辛いなあ」
分かるなあ、何回目かの転生の時、俺も親父と喧嘩した時は実家に帰り辛かったもんなあ。
その時は手紙すら書かなかったよ。
「駄目です!仲直りするべきです!」
メリカは両親が死んでしまっているからなあ。
メリカがリリルにお節介をやくのも分かる。
「そうだな、結婚するならリリルの両親には祝福してもらいたい。
やっぱり会いに行こうリリル」
「……ええ、そうね」
意を決したか、リリルが顔を上げて俺の目を見つめた。
「じゃあ私の両親にも会ってねセツナ君!」
そうだった。
ルベリタの町はリリルとユイリの故郷だった。
1日に2人の恋人の両親に会うのか……胃が痛くなりそう。
「夜にはルベリタに着きます。
頑張ってくださいねセツナさん、リリル、ユイリ」
メリカが1番張り切っているな。
でもそうだな、胸を張って会いに行こう。
ご両親にちゃんとリリルと結婚すると言って認めて貰おう。
ああ、でも「娘をお前なんぞにやらん!」とか言われたらどうしよう。
いやいや、言われたら言われた時だ、ご両親が認めてくれるまで通い詰めてやろう。
ルベリタに到着すれば転移で行き来できるようになるし。
時折出会う魔物を蹴散らし、休憩を挟んで、馬車は俺達を乗せて道を進む。
日が傾き、夜の帳が下りる頃、俺達はルベリタの町の門を通過する事になった。
「良いのかヴィゼル、普通の宿で」
「警護任務の都合もあるだろ?
君達と別れて宿を取るのは得策ではないよセツナ」
「そりゃあそうか、ヴィゼルの部屋の前にメリカとスミレを配置しておく。
俺はちょっとリリルとユイリのご両親に会ってくるよ」
「分かった。
祝福してくれると良いね」
こうしてヴィゼル達と宿の前で別れ、俺とリリル、ユイリの3人は、まずリリルの実家を目指した。
ルベリタの町をリリルの先導でしばらく歩いていると、リリルがある家の前で動きを止めた。
どうやらリリルの実家は此処みたいだ。
リリルが深呼吸している。
そして意を決したようだ、リリルは実家の玄関の扉をノックした。
「はいはい、こんな時間にどなたかしら?」
「た、ただいま、お母さん」
「おばさん久し振り!」
「あ、あなたもしかしてリリル!? そっちはユイリちゃんね!?
失礼ですけど、貴方は?」
流石は親子か、顔がよく似ていた。
性格は全く違うようだが、恐らくこの女性がリリルの母親だろう。
ちゃんと挨拶せねば。
「はじめまして、リリルさんのお母様。
俺はリリルさんと結婚を前提にお付き合いをさせて頂いています、Bランク冒険者のセツナと申します」
「リリルの恋人さん!?
上がってちょうだい、上がってちょうだい!
お父さん、ちょっとお父さん!リリルが帰ってきたわよ!」
良かった、悪い印象は与えなかったようだ。
俺達はリリルの母親に招かれるままに、リリルの実家にお邪魔する事になった。




