甘い不安
沙耶との結婚が決まった後、ほっとした俺につきまとった不安。
沙耶が、俺以外に気持ちを揺らしはしないかという今更ながらの不安。
俺の浮気が原因で別れてから7年後の再会。そして再びの距離を置いて、ようやく未来を寄り添って生きていけるとほっとしたけれど。
その瞬間から溢れるのは大きな不安だった。
沙耶と離れている間も絶えず安定はしていなかった。俺の気持ちすべてを沙耶に向けて待っていた。
合いかぎを渡してどれだけ待てば沙耶は俺のもとに戻ってくれるのかと気持ちは大きく揺れていた。
『いつ、戻ってくるのか』
それだけに気持ちは向いていて、ひたすら仕事に打ち込んでは狂いそうになる気持ちを抑えてきた。
沙耶の事を考えない日はなかったし、一人でベッドに入った瞬間の冷たさと寂しさは今でも思い出す。
沙耶に早く戻ってきて欲しい。二度と戻ってこないなんていう未来を考えるのが怖くて、早く戻ってこいと、そればかりを繰り返していた。
そして、実際に沙耶が俺のもとに戻ってきて、気持ちを寄せ合ってもなお、完全には安心して沙耶を見る事ができない。
単純にぼんやりしているだけの彼女を見ては、俺に飽きたんだろうかと胸が痛み、俺以外の人間に笑いかけている表情に、俺から逃げようとしていないかと探りを入れて。
どこまでも沙耶を疑う自分が嫌でたまらない。
『愛してるよ』そう言ってくれる言葉に嘘はないかと疑心暗鬼に陥っては自分を苦しめている。
一晩中沙耶を抱いては俺のすべてを注ぎ込んで、逃げられないようにして。
『いつ戻ってくるんだろう』から『いつまでもいてくれるのか』
に不安が変わった事を実感する。
側にいない時の苦しみとは違う苦しみが、沙耶を抱きしめながら押し寄せてきて苦しい。
抱いていても切ない表情しか向けられなくて、沙耶がその俺の表情を見て不安になる。
悪い連鎖だ。
けれど、そんな連鎖を断ち切ったのは沙耶だった。
『一生、側にいるって決めたから私は凌太のもとに戻ったのに。でも、いいや。
ずっと不安がって悩んでて。私が抱えてきた苦しみを思えば簡単に背負えるよね。
凌太が苦しんで不安がってるのを見ながら、私は側にいるから。
私がいなくなるっていう不安があるなら、私がいなくならないように、必死で私を愛して。
はた迷惑なくらいに、一生懸命大切にして。そうしてくれていれば、私はずっと側にいる』
沙耶の言葉にすがるように。
その日からの俺は、必死で、一生懸命に沙耶を愛している。
二度と俺から離れていかないように、幸せな日々が、この手から零れ落ちないように。
愛情の全部を捧げて。
一生、沙耶を愛することを誓うんだ。




