表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/38

二十七人目:仲間

「ふぅ。美味しいお茶をご馳走でした」


ヴィヴィとキョム、サーディアが仲間になり、一息がついた。エルテはキョム達を微笑みながら見回し、


「皆さんに、私達の仲間を紹介したいのですが、塔の外へ一緒に行って頂けますか?」


と、言った


「いいよ」


「あたしも構わないわよ。馬鹿灰色は外に出るの久しぶりでしょ? 引きこもりだしさ」


「夜中、たまに出てる。死ねアホ」


「ぐ、この灰色が!」


「ま、まぁ待て待て。早く外に行こうぜ」


また喧嘩しそうな二人をなだめて、誘導する


「ふん。ついて来なさい」


ヴィヴィは立ち上がり、ふんぞり返って超偉そうに歩き出した。仕方ねーので付いて行くと、入り口前で止まる


「……またか」


「ふふん」


うんざりしている俺をヴィヴィは鼻で笑い、塔から飛び降りた


「……ハァ」


高い所は嫌いじゃねーし、一度体験した事なのだが、やっぱり怖い


《大丈夫や。万が一直に落ちても、うちが助けたる》


パタパタと小さい翼を羽ばたかすサーディア。超頼りねぇ……


「……ありがとよ。じゃ一緒に行くか」

《はいな!》


サーディアを再び肩に乗せて、入り口の前へ立つ


「……たけえ」


上を見上げると、まだ昼間ぐらいだと言うのにうっすら、ほの暗い。宇宙?


「下は雲しか見えねーし」


……や、やっぱ別の方法で降り


「早く」


ドンっと後ろから誰かに押され!?


「ぬぉ!? ぎゃああああああああああ……あ?」


浮遊も落下もなく、直ぐに硬い地面の感触があった


顔を上げると、驚いた顔で俺を見下ろしているダーマ達と目が合う


「塔に入った瞬間、急に消えたと思ったら……どう言う仕掛けなのかしら?」


「あ? ……ふん、大したことねーよ」


四つん這いになっていた体を起こし、膝に付いた土を落としながらの余裕の一言


「…………」


「…………」


赤青コンビの目が、恐ろしく冷たい


「…………ま、まぁ中々だったけどな」


ちくしょう、膝がまだ震えてやがる


「ご苦労様、イチヤ。……彼女が最上階の魔術師?」


ダーマは先に降りていたヴィヴィを目で指す。ヴィヴィは我れ関せずと、塔を見上げていた


「ああ、もう一人いるうぉう!?」


音も気配も無く、いきなし目の前にキョムが発生!?


「……こんにちは」


驚く俺を無視し、キョムは皆にぺこりと頭を下げた


「え? あ、はい、こんにちは」


「ちわっす!」


歳が近く見えるからか、赤青姉妹は笑顔で応えた。結構上手くいきそうな雰囲気がある


「馴れ馴れしいぞボケ」


「ソッコーで俺の期待を裏切るなよ!」


「そいつ協調性無いから。そこいくとあたしは直ぐ馴染めるわよ? てかそこのデカチチ。さっきから何であたしにガンくれてんの?」


「……危ないわねアナタの目。イチヤ、彼女を仲間にするのは止めた方が良いわ。こういう子は災難を呼ぶ」


「あ?」


二人は睨み合う


「つか協調性ねぇじゃねーかテメェ!」


《ヴィヴィは傍若無人やからねー。でも慣れると分かりやすい女やで? 単純ってやつやな》


「……お前も結構、はっきり言う奴だよな」


《さよか?》


「はは、嫌いじゃねーぜ。お前みたいな奴」


《なんやもー。そない言われたら照れるわぁ》


なんてサーディアと呑気に話している間にも、皆の雰囲気が悪くなっていった


「文句があるなら掛かってくれば? 黒焦げにしてあげるわよ。あ、もう黒いわね」


「安い挑発ね。底が知れてるわ」


つかマジでやべぇ雰囲気だ、止めねーと


「チビ! ちびっ子! 無表情チビ太!!」


「キミとボクの身長差は余り無い。頭悪すぎ」


「でも身体には差がついていますね。わたしの身体はもとより、アネモネにすら負けるなんて……あ、ごめんなさい! 男の子でしたか?」


あっちもヤバイな!?


「アネモネにすらって……姉さん」


「脱げば凄いよボク」


キョムはへこんでるアネモネの前に立ち、黒いローブの様な服を、下からおもいっきりめくった。……白か


《……うちは下着、履いてへんで?》


「いや、変な対抗すんなって」


思わず見ちまったのが、恥ずかしいじゃねーか


「さ、さらし!? ね、姉さんより……」

「え!? そ、そんな筈は」


ベロニカがキョムの前へ慌てて行き、上や下から胸の辺りを覗き込む


「さらし取る?」


「い、いいです。ま、負けました……」


「ん」


服を直すキョムと、肩を落とすベロニカとアネモネ。よく分からんが決着は着いたみたいだ


《…………イチヤはスケベやな》


「ん? な、何だよ?」


ジト目で見上げて来るサーディアに、なにやら居心地悪い物を感じていると、右後方から爆音が走った


「な、なんだ!?」


「ちょこまかと!」


「下手な鉄砲ね。数撃って当たるのは動かない的にだけかしら?」



振り返ると、いつ離れたのか十数メートル先で戦っているヴィヴィとダーマ


ヴィヴィはバランスボールぐらいの大きさがある炎の塊を幾つも飛ばすが、ダーマはそれを素早くかわす。外れた炎は辺りの土や草を燃やし、今なお燃え続けている


「……下手な鉄砲ねぇ。なら」


ヴィヴィの表情が消え、周囲が揺らぎ始めた。そして鈴のような声の響き


「罪深き者よ。その汚れた魂、浄化せし事求める心、我、果てなき炎で応えよう」


地面から黒い炎が幾十も噴き上がり、ヴィヴィを守る様に囲んで蠢く


「業火灼熱。……この辺一帯全て燃やしてあげるわ」


そして炎はヴィヴィの体を一度螺旋し、再び地面に潜った


「な、なにをする気だ、あいつ」


炎は見えなくなったが、離れたこの場所でも熱を感じる


「あれ炎系の最大魔術の一つ。バカすぎ」


「最大!?」


意地を張ってんのかダーマはヴィヴィを見据えたまま動かない


「や、止めろ、ヴィヴィ!!」


慌てて二人に駆け寄るが、間に合うのか!


「バカすぎ。……死者の哀しみは痛みより悼み。鎮魂の歌は永久に続く苦しみ」


「ん? うあ!?」


な、何だ? 急にすげぇ気持ち悪く……


「……唄え。腐りし者のオクテット」


億万はいるであろう虫の羽音が耳の奥で一斉に鳴る。その轟音の中で静かに、だが確実に響く八重唄


「う、ああああああ!?」


聞くな! これ以上唄を聞くな!! 脳がそう警告しても、耳を塞いでも響く、響く!


「あ、頭いてぇ!!」


膝をつき、耐え難い不快感と脳の痛みに苦しむ。耳をもぎ取ろうとしても、力が出ない!


「な、なんなの!? あ、ぁああ!」


「あ、ぐぅ! あの灰色眼鏡!!」


その気力は何処から出るのかヴィヴィは立ち上がり、怒りの形相を浮かべてキョムを睨む


「今、決着つけてやるわ!」


「決着はついてる。キミはボクに勝てない」


「いい度胸ね!? なら受けなさいよ! 始、カイナ!!」


ヴィヴィの腕に黒い炎が纏わり付き、形容しがたい獣の姿に変わっていく


「イチヤ退いて。キミ達は下がって」


キョムは俺やアネモネ達を下がらせようとしたが、少なくとも俺は、うずくまったままで全く動けない


「……止めるの忘れてた」


キョムがパチンと指を鳴らすと、先程までの轟音が嘘の様にスーっと消える


「ぐぅ……や、止めろ二人とも」


だが、まだ頭の奥がズキズキ痛み、立ち上がれそうにない


つか此処、ヴィヴィの正面じゃねーか……な、何気に俺が1番危ねぇ?


《ヴィヴィにも困ったもんやねー》


俺の上でサーディアが呑気にパタパタ飛んでいる


「ば、馬鹿、こっから離れとけ」


《大丈夫や、うちが守ったる》


「ま、守るっつっても」


無理だろ


「うぐっ! おらぁ!!」


痛む頭を無視し、体を起こしてサーディアを掴む


《な、なんや?》


「じっとしとけ!」


そしてサーディアを懐に入れ、体を丸めてヴィヴィの攻撃に備えた


「……頼むぜ、勇者補正」


何処まで耐えられるか……つか、なんで仲間内の喧嘩で命の危機にさらされなきゃならんのだ


「ふふふ……あはは! さぁ翔なさい凰呀! あの灰色眼鏡を飲み込むのよ!!」


丸っきり悪党の台詞じゃねぇか……


「ストップです!」


っ!? エルテ!?


「馬鹿! エルテ危な」


……………………


「い………………?」


振り返ると、ぽかんとしているキョムと倒れている赤青姉妹だけが居た


「……エルテ?」


確かに後ろからエルテの声がしたんだが……


「じ、時空魔法……ですって?」


ヴィヴィは震えを含む声で、そう言った


「時を止めました。ケンカはダメですよ?」


ヴィヴィの側で、穏やかなエルテが聞こえる


「……エルテ?」


前を向くと、フラつきながら立ち上がるダーマと、驚愕の表情を浮かべるヴィヴィの姿がある


そしてエルテの後ろ姿。小さい背中なのに、やけに頼もしく見えやがるぜ


「あ、あんた何も代償無く時間を?」


「いいえ。持っていた賢者の石を一個使っちゃいました!」


めっちゃ明るい声だ


「あ、あんっ!? ゴホ、ゴホ……あんたね!」


「ついでにヴィヴィさんの魔力、吸収させて頂きました。反省して下さいね」


メッと、小さい子供を怒る様に言うエルテ。呑気な雰囲気だが、ヴィヴィの顔は真っ青になっていた


「ま、魔力って……っ! ち、力が練れない!?」


ヴィヴィは驚愕の声を上げ、ひざをつく


「ど、どうしたんだ一体」


《う~ん。ヴィヴィの魔力を賢者の石に呑ませたみたいやね。力がほとんど感じられへん》


「魔力の無いブタは、ただのメスブタ」


いきなし背後から凹凸の無い棒読み声がする


「っ!? びっくりさせるなキョム!!」


結構離れてたってのに、いつの間に来たんだ?


「……秘密」


心読まれた!?


「あ、あたしの魔力……。か、返しなさいよ!!」


「っ!?」


張り詰めた声を出したヴィヴィの方へ視線を戻すと、ヴィヴィがエルテにつかみ掛かる所だった


「止めなさい」


それを横から掴み止めるダーマ。少しは回復したのか動きが良くなってきている


「ありがとうございます、ダーマさん。ヴィヴィさん、大丈夫ですよ。一日後には戻りますから……多分」


「今ボソッと多分って言わなかった!?」


「き、気のせいです。絶対大丈夫です! ……多分」


「また多分って言った!」


「あ~取り敢えず飯食いに行かねぇか? 腹減った」


俺もようやく立ち上がり、適当に提案。食いしん坊キャラに認定されそうだな


《そやなー、うちもペコペコや》


「……あんた腹なんて空かないでしょう。……ま、良いわ、明日戻るって言うなら今騒いでも仕方ないものね。お昼行きましょう」


「……意外と物分かり良いな、あいつ」


「単純なだけ」


俺の隣でキョムはボソリと呟く


「あ、あんたね!!」


「……地獄耳だな、あいつ」


「それしか取り柄ない」


またボゾっと呟いて、


「あんたね!!」


「と、とにかく行くべ。頭いてぇし、休みたい」


「はい、勇者様!」

また喧嘩しそうな雰囲気だったが、やたら明るくて元気なエルテの声は場をなだめ、俺達は町へ戻る事になった。とぼけた顔してるが、やっぱすげぇかもな、エルテの奴


「? どうかなさいましたか、勇者様」


「なんでもねーよ。行くべ、行くべ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ