エピソード4 絵里奈
《貴様らの血は何色ダアアアア!!》
大好きな北斗の拳
大好きなレイ様
だけど今、私の心は震えない
「……所詮マンガだからね」
読んでいたマンガを閉じて、目も閉じる
そう、マンガ。想像と空想の中でだけ存在できる幻想の人
でも……いた
「……ふぅ」
あの男を想うと、心が震える。胸が痛くなる
この私が恋わずらい?
「……情けね」
折角の休みだ。部屋のベッドなんかに寝てないでアイツに電話でもしろってんだ絵里奈
でも何話していいのか分からないし……
女、女、おんな~女の花道ぃぃ
「っ!? 着信! まさか森崎!?」
慌ててベッドの脇にある携帯を開くと、真知子の名前
「何だ真知子かよ。…………もしもし」
「あ、リーダ! お休みの所すいませんっス!! 今、たまたまリーダーの家近くなんスけど、ちょっと寄ってもいいっスか?」
「ん? 何かあったのかい?」
「いえ、パパ……じ、じじぃが海外から帰ってきやがりまして、チョコレートの土産なんか持ってきやがりまして、凄く美味しかったりしやがりましたので! 是非、リーダーにおすそ分けをと」
「そっか、ありがと。ちょうど落ち着かなかった頃だ、いいよ、きな」
「はいっス!!」
その後、真知子は三十分ぐらいかかって家に来た。真知子んちから家に来るのと殆ど変わらない
「お前、本当に近くに居たのか?」
「い、いたっス! ……気持ちは」
「そっかよ。紅茶で良いか?」
「はいっス!!」
真知子の返事を聞いて、私は部屋の真ん中にあるテーブルの上に置いてある、ベルを鳴らす
数十秒後、控えめなノック音がし、ドアが開く
「お待たせしました、お嬢様」
「紅茶を二つ。それと、アタイの単車しまっておきな。今日は走る気分じゃない」
「はい、畏まりました」
柿本は慇懃に頭をさげ、何の感情も見せず部屋を出て行った
「ふへ~。相変わらず柿本さんはカッコいいっスね」
「はぁ? あれのどこがカッコいいんだよ」
カッコいい男ってのは柿本みたく、女なのか男なのか分からないな奴じゃなくて、アイツみたいに男臭くて、優しくて、強引で……
「カッコいいって言えば森崎」
「ああん!?」
なんだコイツ! ライバルか!?
「ひぃい!? す、すみませんっス! リーダーの前であんな奴の名を」
「あ、いや悪い……森崎がどうしたって?」
「あ、はい。初美があの時借りた服を返したいって、奴の事をカッコいいって言ってたっス。あの様子だと、完全に惚れ」
「ああん!?」
なんだアイツ! ライバルか!?
「ひぃい!? す、すみませんっス! 初美には敵に惚れるなとキツク言っておくっすス!!」
「あ、いや……アイツはもう堅気だ。アタイらが言う事じゃない」
ちっ、初美は手が早いからな。私も早く行動に移さないと……
「し、しかし森崎の奴は許せないっスね! お礼参りでもしましょうか?」
「お礼参り?」
「そっス! うちらを舐めた事を、後悔させてやるんス!!」
「お礼参りねぇ」
『お礼参りに来たぞ森崎ぃい!』
『お礼参り? ふ、どんな礼をしてくれるんだ?』
『お、お前をボコボコにすんだよ!』
『俺をボコボコに? それは怖いな』
『何笑ってんだ! あ、ば、馬鹿、近づく……なぁ』
『どうした? 震えてるじゃないか』
『ふ、震えてなんかないっ!』
『可愛いな、お前』
『かわっ!? ば、馬鹿にすっん!?』
『…………どうだ? 大人のキスは』
「…………いい」
「り、リーダー? 目がイっちゃってますけど……ま、まさか薬!?」
「ば、馬鹿! そんなもんやるわけ無いだろ!! ウチは薬物ご法度だろうが!!」
「そ、そっスよね。イキたきゃ単車か男にしろ。初代会長のお言葉っス!」
「そ、そうだ。イキたきゃ単車か、おと……こ」
『や、やだ、恥ずかしいよ……』
『お前、初めてなのか?』
『う……ご、ごめんな。め、面倒くさいだろ?』
『馬鹿、嬉しいぜ絵里奈。きちんとイカせてやるよ……いいか?』
「…………いい」
「り、リーダ? また目が……」
「ウオオオオオ! お礼参りだ~!!」
「きゃ!? は、はい、リーダー!!」
「今から電話してっくから、お前は此処で待ってろ!」
「はいっス! ……リーダーの目があんなに血走って……。降る。血の雨が降るっスよ!!」
部屋を飛び出して、廊下を五十メートル走り、中庭のバラ園へと出る
周りを探ると人の気配は無く、電話をするのにもってこいな場所
ベンチに座り、ズボンのポケットから携帯を取り出してアドレス帳を開く
1から20番目まではチームの仲間達。プライベートは21番目から
21番目は、お父様……
「だったんだけどねぇ」
今じゃ男の名前
「…………ハァ」
アイツの電話番号を見つめたまま、ため息
電話……出来ないや
「大体、何を喋れば良いんだっての」
『好きです、付き合って下さい!』
ガラじゃないって
『おい、テメェ! アタイの男になりな!!』
……何様だよ、私は
『わたしぃ、一目惚れでぇ貴方のことぉ~』
誰だよこれ……
「あ~分からない!! 告白なんかした事ないっての!」
「ストレートな言葉に男は弱いものですよ」
「か、柿本!?」
ベンチで頭を抱えて悩んでいた私の前に、いつの間にか柿本が控えていた
「申し訳ございません、お嬢様。柿本、お嬢様のお悩みをお聞きしてしまいました。この罪、いかほどの罰でも」
「いや、良いよ。聞かれたもんは仕方がないさ。……それより本当か?」
「はい。男性は女性からのストレートな言葉に弱いものです。それも、お嬢様の様に美しいお方からとなれば殊更に」
「世辞は良いよ。……そうか、ストレートな言葉か」
柿本は一応男だからな。私がウダウダ考えてるよりは信憑性がある
「……ストレートねぇ」
「お嬢様ならば必ずや、ご成功なさいます」
「ありがとな柿本。必ずって事はないだろうけど自信は少しついたよ、電話してみる」
「お役に立てて光栄の極みでございます。もし万が一、余り手応えを感じられなかった時は柿本にご相談下さい。柿本がやんわりと、相手の方にお話を聞きに行って参ります」
やんわりの所で一瞬、柿本の目がギラリと狂暴な色を見せた気がしたが、多分気のせいだな
「……とにかく電話をしてみる。柿本、真知子の相手をしてやってくれ」
「畏まりました」
柿本は頭を深く下げ、屋敷内へと戻っていった
「…………ストレートに分かりやすく」
深呼吸を数十回
震える体と震える手
そして…………
「女は度胸だぁああ!」
森崎宅
コンコン
「……兄さん?」
「後、五分~」
「入りますよ、兄さん」
ガチャリ
「う~何だよ~。休みだろ? 今日」
「もうお昼ですよ。それより兄さん、兄さんの携帯が鳴っています」
「ん? ああ、居間に置きっぱなしだったか……七海、出てくれ」
「良いのですか?」
「ああ」
「分かりました。……はい、もしも」
「あ、明日セックスすんぞ、ゴラアアアア!! フゥ、ハァ……い、言った、言ってやったぞ……れ、連絡待ってるからな森崎!!」
ガチャ。ツーツー
…………バキ
「ん? 何の音……あ! な、七海!? お前、俺の携帯を握り潰し……て? な、何でお前、般若の面なんて被ってるんだ?」
「やだなぁ、何を言っているんですか、兄さん。そんなものは被っていませんよ? うふふ」
「っ!? ち、ちょっと待て、止めろ! 俺に近づくギャアアアア!!」




