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信康の秘密

俺はあれから駿府にある今川館(駿府城)に母瀬名姫と平八郎忠勝、服部半蔵と共に呼ばれて登城していた。


家臣団に俺を紹介するとのことであるが、母瀬名姫はともかく何故か俺も上座だった。

確かに今川氏真の養子になったのならそれでよいのかもしれぬが、なぜかしっくりしないのと年が行った家臣や女中などは俺の顔を見て目に涙を浮かべるのである。

俺としてはむずがゆいというか、どうもいこごちがわるいのである。


広間に家臣一同集められての顔合わせが始まったのだが、何故か嗚咽をあげたりすすり泣くもの達がいるのを俺は不思議に思った。


「皆の者良くぞ集まった、此度は麻呂から紹介したいものがおる。その前に、誰があれを持ってくるのじゃ」


そして配下の者達がふたつの掛け軸をもってきて氏真の前に控える。

1人の者が掛け軸を広げると、何故か今日来たばかりの着物を着て描かれた俺の肖像画がそこにはあった。

家臣衆はそれをみなが無言で見つめている。

心なしか母瀬名姫だけは青ざめており、ガタガタと震え出している。


そして氏真ね命によりもう一つの掛け軸げ開かれると、そこには立派な鎧を着た俺を大人にしたような人物がそこに描かれていた。


「彦五郎よ、これがだれじゃかわかるかの?」

「はい、今の私と大人になった私でございましょうか?」


俺のその言葉を聞いた瞬間に広間にいた者達が何故か人目を憚らずに大泣きを初めてしまった。


「よもやと思った者もおろうかと思うが、瀬名は松平元康に嫁ぐまえより月のものが止まっておった」


「「「「「もしや!!?」」」」


「そうじゃ、その腹の子の父親はこの今川氏真である。父上の命により瀬名を嫁がせたが、麻呂と恋仲であったのじゃ」


俺はがつんと脳天を叩かれたかのような衝撃を受けたが、母である瀬名姫の青から蒼白になった顔をみて今川氏真が嘘を言ってないことを悟った。


「流石に驚いたようじゃが、雪斎の残した出生に関する証明書もあるのと、何より母である瀬名に聞けばわかることであろう」


俺は母である瀬名姫を見つめると、観念したのかこくりと小さく頷いた。


「皆の者、ここにおる彦五郎は養子ではなくこの今川氏真の直系の嫡子である。父上もそのことを知って嫁がせており、最初から松平を吸収させて今川に戻らせる心づもりであったのだ。だからこその出生証明である」


今川氏真の話の通りであれば、母瀬名姫は三河を完全に接収する為の今川家の間者であり本物の松平元康が死に世良田次郎三郎に松平(徳川)が乗っ取られた為密命を達成出来ずに今川に逃げ帰ったということになる。

そう考えると、瀬名姫の実家である関口家は知ってはいけない暗部を知りすぎて口封じをされた可能性が高い。


「彦五郎よ不思議には思わなかったか?何故松平の一族の誰とも顔が似ていないことを?何故松平の家臣衆から顔を毛嫌いされていたかを?藤林長門より麻呂も少し話を聞いておる。そちの顔が我が父今川義元にそっくりだったからじゃ。麻呂の嫡子ならとうぜんであるがの」


氏真の話を聞いて行くうちに俺は色々としっくりときていた。

そうか、父上だと思っていた松平元康が死んだだけでなく松平の特徴が皆無で、今川義元にそっくりな俺を酒井忠次達は仕返しとばかりに虐待していたのだ、事実を知ってか知らずか松平元康に俺のことを頼むと言われた平八郎忠勝と服部半蔵はその遺言に従って俺達家族を守り続けてくれていたのであろう。


「よいか皆の者、夢による神託があったとおり彦五郎は父義元の生まれ変わりであり、この今川家の救世主である。麻呂は戦は苦手じゃ、よって家督を彦五郎に譲り麻呂は京に登り麻呂にしか出来ない今川家の為の活動をする。よって今後はこの彦五郎に忠誠を誓うのだ」


「「「「「ハハーッ」」」」」」


今川氏真の代に結束を失いかけていた今川家臣団が今ここに固い結束を復活させた瞬間であった。

武田信玄が死に勝頼の代に結束の乱れから団結出来ずに崩壊した武田家の話ではないが、時系列は逆だが今川家も同様の理由で滅んだ、しかし武田信玄しかり今川義元しかりで圧倒的存在である英雄が蘇ったらどうなるかわかるだろう。今ここに今川義元時代の最強の今川家復活である。

今後更新再開致します。

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