第60話「【タイマー】は、和解する(前編)」
「最後の敗残兵……?」
「イエス」
えっと、
ルビンは、見たこともないポーズ。
多分、軍隊式の敬礼の類だと思われるそれを受けながら言葉を濁す。
彼女が何者か少しわかった気がするけど、それでどうしろというのだろうか?
そもそも、このダンジョンに来た目的はもちろん、特殊依頼というギルドの用事もあったのだが、それ以上に【タイマー】について知るために来たのだ。
すくなくとも、旧時代の生き残りに出会うためなどではない──────……あ。
「えっと、…………ガンネルコマンダーさん?」
「はいな?」
軽い調子で返事を返す黒衣の女改め、ガンネルコマンダー(長いな、おい?!)さん。
「えっと、ガンネルコマンダーさんは旧時代の生き残りという認識で間違いないですか?」
「…………旧時代というのが、いつを指すのか答えかねるけど、この施設が現役だった頃にアタシは現役の兵士だったわね」
現役っていつだよ……。
ふーむ……。
施設の正式な名前すら忘れられ、廃墟はおろか遺跡になるほどに時がたっている。
それは彼女にも受け入れがたい話だろう───。
もはや戻れるほどの過去に、彼女の親しき人々は去ったのだ。
「その……。俺たちは【タイマー】について調査するため、ギルドの依頼に基づき、この『時の神殿』に来ました」
「はい」
コクリと頷く彼女は事務的に返事をしている。
あの飄々とした様子と、こちらの固い雰囲気。
どちらが本当にのガンネルコマンダーなのだろう。
「ええっとー……。が、ガンネルコマンダーさんは、【タイマー】について、何かご存じですか?」
初対面の人に聞くのはどうかと思わなくもないが、素直なガンネルコマンダーさんのことだ、聞けば答えてくれるだろう。
「いいえ」
「え?」
しかし、あっさりと期待は裏切られる。
だが、ニコリと笑うその笑顔。
「勘違いしないで。アタシは【タイマー】については知らない。……だけど、アンタが言わんとしていることは分かるの」
「それって……」
ニコリと笑うガンネルコマンダー。
「アンタとその子、『時空魔法』の類を使えるのよね? そのことについてなら少しは話せるわ」
そう言って微笑む彼女にルビンとレイナは顔を見合わせるのだった。
いや、まぁ……本人がそう言うのならそうなのだろうけど……。
「───それで、その……」
「『時空魔法』───エルフ風に言えば「禁魔術」の一つね」
「そ、そうです! それです! 俺、言われたんですよ『タイム』が『禁魔術』なんじゃないかって───」
ルビンはセリーナ嬢の言葉を思い出す。
そして、それを狙っている怪しき組織についても……。
「エルフの連中……。そうね。時代は経てもそこだけは変わらないか……。いいわ、教えてあげる。えっと、」
そっと、棚にもたれかかったガンネルコマンダーがルビンに向かって首を傾げる。
「ルビン。ルビンです。俺はルビン・タック。そして、この子が───」
「レイナ。レイナです」
消え入りそうな声でペコリと頭を下げるれいな。
どうやらガンネルコマンダーに少し苦手意識があるようだ。人見知りを発動しておられる───まぁ無理もないけど……。
「そう。ルビンにレイナ。よろしくね───アタシは………………」
ガンネルコマンダーは何か言おうとして中空に視線を彷徨わせて、急に忙しなく動き始める。
「あ、あら。どうしようかしら? な、名前がないのよ、アタシ」
──────は??




