その21 飛行ネドマvs特別攻撃隊
「そろそろ飛行ネドマと帝国軍の戦いが始まりそうだね」
戦場に飛んで来た飛行型ネドマの数は十匹程。どれもネドマの中では小型と言ってもいいサイズである。とはいっても、あくまでもネドマの中ではという話であって、体長だけでも優に一メートルは超えている。
印象としては昆虫のガガンボが近いだろうか? ヒョロリと細い胴体からやけに細長い脚が何本も伸びている。
ガガンボとの最大の違いはその飛行速度だろう。飛行ネドマは馬の駈歩程度の速度で帝国軍へと近付いて行った。
「割と飛ぶのが早そうだね。帝国軍が初めて戦う飛行タイプとしては、ちょっと厳しい相手かも。けど、初見とはいってもあの程度の数も捌けないようなら、この先に進んで行けるとも思えないし・・・」
『あっ。弓兵隊が出てきましたわ』
ティトゥの言葉に振り返ると、帝国軍の本隊と思われる場所から、弓を担いだ部隊が進み出た所だった。
遠目にも良く目立つ赤と白の鎧を着た、今で言えばインスタ映えしそうな部隊である。
「帝国軍のエースとかかな? 赤と白のおめでたい見た目だし、いかにもって感じだよね」
『おめでたい? まあ、見掛け倒しでなければいいんですけど』
紅白がおめでたい色合いなのは日本人独自の感覚なのか、ティトゥはピンと来ていないようだ。
そして彼女は未だに帝国軍に対してあまりいい印象を持っていない模様。それもあってか、彼女の返事は懐疑的というかやや辛口だった。
そんな感じで僕達が上空から見守る中、赤白の部隊は横一列に広がると、飛行ネドマを迎え撃つ形をとった。
やがて飛行ネドマが前衛の歩兵の真上へと到着すると――
パッ!
エース部隊から一斉に矢が射かけられた。
「おおっ!」
思わず感嘆の声を上げてしまった程、放たれた矢は一糸乱れず、まるで吸い込まれるようにネドマの体へと突き立っていた。
僕は弓道に関しては全くの素人だが、そんな素人目に見ても今の攻撃がスゴいのは――あの部隊の騎士達が高い技量を持っているのは――一目瞭然だった。
なにせ帝国軍に対しては基本辛口のティトゥでさえ、ビックリして目を見開いた程だ。
『ふふん、まあまあやりますわね』
「それ誰目線?」
ネドマは羽ばたきを止めると、フラフラと地面に落下。すぐに兵士が駆け寄ると、弱々しくもがくネドマに止めを刺して回った。
勢い良く槍を天に突き上げる兵士達。この距離からでも彼らの上げる雄叫びが聞こえて来るようである。
『どうやらハヤテの手伝いがなくても、帝国軍だけで飛行ネドマの相手は出来そうですわね』
「だから君は一体何様なのかと――いや、そうだね。流石は大国の軍といった所か」
考えてみれば、帝国はあのチェルヌィフと大陸をほぼ二分しているような大国である。
そんな国の軍隊が弱いはずなどある訳ないのだ。
「ミロスラフ王国は良くこんな帝国軍を追い返せたもんだよなあ。もう一回やったら、次は確実に負けちゃうんじゃない?」
『何を言っているんですの? 何回やったって人間の軍隊がハヤテに勝てるはずなんてないじゃないですの』
いや、そりゃあまあ、中世の武器で近代兵器の四式戦闘機に太刀打ち出来るとは思えないけどさ。
でも、戦争ってそういうものじゃないからね。
勝負に勝って試合に負けたじゃないけど、僕だけが勝ってもそれで戦争に勝てるという訳じゃないから。
ふと気が付くと、帝国軍は残ったネドマを全て片付け、進軍を再開していた。
地上のネドマはほぼ、帝国軍に任せても大丈夫なようだ。
そして肝心な飛行型のネドマについても、少なくとも小型のタイプについては、彼らだけでも十分に対処可能という事が、今回の戦いで証明された形となる。
「それにしてもまさか帝国軍を頼もしいと思う日が来るなんてね」
『・・・・・・』
あまり僕が帝国軍を褒め続けてしまったせいだろうか。ティトゥは不満顔でそっぽを向いてしまった。
この日、帝国軍は二度、飛行ネドマと遭遇したが、そのどちらも僕の手を借りずに撃退する事に成功したのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
大型モンスターに何本ものロープがかけられると、その端に帝国兵が取り付いた。
「よし、今だ! 引け、引くんだ! そーれ! そーれ!」
「「「そーれ! そーれ! そーれ! そーれ!」」」
掛け声に合わせて兵士達が力の限りロープを引くと、ロープがピンと張り、ギチギチと耳障りな音を立てて軋んだ。
小屋程の大きさのモンスターの体が大きく反り返る。
「いいぞ! もう少しだ、頑張れ!」
「「「そーれ! そーれ! そーれ!」」」
やがてモンスターの脚が地面から浮くと、相手は堪えきれずに大地に横倒しになった。
ズズーン!
「やった! 今だ、むき出しになった腹を狙え! 槍隊、突撃!」
「「「ワアアアアアアア!」」」
分厚く硬い殻を持つ大型モンスターだが、腹部の殻の厚みはそれ程でもない。
そのむき出しになった弱点に帝国兵が殺到した。
大型モンスターの断末魔の悲鳴が響き渡る。
「うむ。無事に仕留められたようだな」
戦いの後方。本隊の中央でそう呟いたのは総指揮官、グスタボ・カルヴァーレだった。
初日こそ、大型モンスターにあわや壊走寸前まで追いやられた帝国軍だったが、その後は見ての通り。対応策を編み出して、自力で倒せるようにまでなっていた。
「飛行型の方も特別攻撃隊が対応可能と判明したのは朗報だった」
隊の中から選りすぐりの弓の腕前を持つ者だけを集めて編成された特別な部隊、特別攻撃隊。
帝国軍は今日だけで三度、飛行型のモンスターの襲撃を受けていたが、その都度、特別攻撃隊の力によって撃退していた。
「「「ワアアアアアアア!」」」
歓声に目を向けると、戦場の上空を大きな翼が舞っている。
ミロスラフ王国のドラゴン・ハヤテである。
最初の頃は姿を見せるだけで兵士達に恐れられていたハヤテだったが、モンスターしか狙わない事が分かってからは、敵の敵は味方といった感じで、むしろ歓迎ムードになっていた。
「・・・・・・」
「閣下、いかがなされましたか?」
難しい顔でハヤテを見上げるグスタボに、副官が怪訝な表情を浮かべた。
「あのドラゴンはモンスターを狙っている。その真意まではあずかり知れんが、少なくともそれ自体は我々の目的とも――カルヴァーレ領をモンスター共から奪い返すという目的とも――一致している。その件に関しては、この数日のヤツの行動を見ていれば疑う余地はない」
「さようで」
副官は戸惑いつつも頷いた。
「ドラゴンの狙いはモンスターだ。だが、それにしては、ヤツは日に日に攻撃に手心を加えていっているように感じぬか?」
「そ、それは!? 閣下はドラゴンが最初に比べて手を抜くようになっていると言われるのですか?」
副官は驚きの声を上げたが、改めて指摘されてみればなる程。思い当たる節もなくはない。
しかし、グスタボは副官の言葉にかぶりを振った。
「手を抜く、というのはおそらく正しくないだろうな。ヤツは我々がモンスターと戦う手助けをしているつもりなのではないだろうか? 初めのうちは我々もモンスター共との戦いに不慣れだったが故に、ヤツは積極的に戦いに参加していた。しかし、戦いが続いてこちらの兵士が慣れて来たとみるや、徐々に攻撃の手数を減らして行った。そう考えればヤツの行動にも筋が通るのではないだろうか」
ドラゴンの目的はモンスターを倒す事。それはおそらく間違っていないだろう。帝国軍を助けるようなまねをしているのもそのため。帝国軍がモンスターとの戦いに不慣れな間は、うっかり全滅したりしないように手を貸してやり、慣れて来るに従って徐々に助けを減らしていく。最終的には帝国軍だけでモンスターと戦えるようにさせるつもりなのではないだろうか。
そこまで思考がたどり着いた時、副官は湧き上がって来た不快感に眉をひそめた。
「つまりドラゴンは我々を――この帝国軍を自分の目的のために利用する気でいると?」
グスタボの視線の先。ハヤテは翼を振って呑気に兵士達の歓声に応えている。
「いいではないか。利用したいのであれば利用させてやればいい」
「しかし、閣下!」
「無論、こちらとしてもタダで利用されてやるつもりはない。モンスターを倒すという目的は一致しているのだ。ヤツが何を考えているのかは分からんが、この地からモンスターが消えて一番に利益を得るのはこの帝国だ。ならばせいぜいこちらもヤツを便利に使い倒してやろうではないか」
グスタボはそう言うと腕を前に伸ばした。
そのままゆっくりと拳を開く。
そうしていると、まるでドラゴンが自分の手の平の上で踊っているかのように彼の目には映るのであった。
次回「綱渡り」




