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その20 帝国軍ドリームチーム

◇◇◇◇◇◇◇◇


 帝国軍には大きく三つの精鋭軍が存在している。

 一つは帝都を守る第一軍。次に東の要、チェルヌィフ方面軍こと第二軍。それから西方方面軍こと第三軍である。

 格としては帝都に駐留する第一軍が。そして規模としては第二軍と第三軍がほぼ横並びで。それぞれ軍部のトップとなっている。

 とはいえ、西方方面軍は実質、半数近くが海軍関係となるため、純粋な歩兵戦力としては、大国チェルヌィフ王朝との戦いを想定している第二軍が他部隊を圧倒していると言ってもいいだろう。

 今回、モンスターで溢れかえったカルヴァーレ侯爵領を人類の手に取り戻すため、カルヴァーレ将軍は第一軍と第二軍による混成軍を編成した。

 格のトップと歩兵戦力のトップを合わせた夢の部隊。

 帝国の長い歴史でもかつてない精鋭軍団の誕生である。

 彼らは初戦でこそ、不慣れなモンスターとの戦闘に、あわや総崩れといった危険な場面も見られたものの、予想外の助っ人(※ミロスラフ王国のドラゴン・ハヤテ)の参戦もあって無事に持ち直し、それ以降は危なげない戦いを繰り広げていた。




 帝国精鋭軍団を率いる総指揮官、グスタボ・カルヴァーレは部下の知らせに険しい表情を浮かべた。


「遂に空を飛ぶモンスターが現れおったか」


 先ほどハヤテが発見した飛行型ネドマ。それと同じ報告を、帝国軍首脳部もそれ程遅れる事なく受け取っていた。

 大小さまざまな飛行タイプのモンスターの存在は、先行している偵察部隊からの報告によって、数日前から彼らの知る所となっている。

 このまま北上を続ける限り、いずれはこの手強い敵と遭遇、戦闘を行う事になるだろう。

 そしてそのための対策は既に練られていた。


「想定よりも現れるのが早かったが、なんの問題もない。特別攻撃隊を前に出せ!」

「ははっ! 特別攻撃隊、前進せよ!」


 副官の指示で合図の角笛が高らかに鳴らされる。

 帝国軍精鋭第一軍。そして陸軍最強第二軍。特別攻撃隊とは、この二つの部隊の中から、選りすぐりの弓の腕前を持つ者のみを集めて編成された特別な部隊である。

 現状で考え得る限り、最強の遠距離攻撃力を持つ特殊部隊。

 帝国軍ドリームチームが前進を開始したのだった。




 特別攻撃隊の先頭を行くのは、目にも鮮やかな深紅の鎧に身を包んだ赤備えの騎士達。

 第二軍きってのエリート部隊。赤弓隊のエース達である。


「空を飛ぶモンスター何するものぞ! 先鋒はこの赤弓隊が貰い受けた!」


 鼻息も荒く、そう叫ぶのは、朱塗りの大弓を担いだ派手な騎士。赤弓隊の隊長である。


「先日のチェルヌィフ軍との戦いでは、ロクに手柄を立てる機会がなかったからな。名もなきモンスターが相手ではいささか役不足というものだが、ここで赤弓隊の名誉回復と行こうではないか」

「「「おおーっ!」」」


 部下達が弓を頭上に高く突き上げ、気勢を上げる。

 赤弓隊は名将ウルバン将軍の指揮下の元、数々の戦いでその名を轟かせた優秀な部隊である。

 あのチェルヌィフ戦車派ベネセ家の当主、マムス・ベネセが馬に乗れなくなったのも、過去に戦場で赤弓隊が放った矢が腰に刺さったのが原因だと噂されている。

 それもあってか、ベネセ軍では赤弓隊は悪魔のごとく恐れられ、兵士達は赤い鎧を見ただけで震え上がるとまで言われていた。

 当然、ハレトニェート家当主レフドもそれは良く知っていたため、今回の帝国侵攻作戦の際にも、赤弓隊の配置には特に注意を払い、兵士の士気を損なわないように細かく気を配っていた。


 赤弓隊の隊長は三十代半ば。有名な部隊の隊長にしては、やや年齢が若すぎるようにも思えるが、それもそのはず。本来の幹部クラスは一昨年のペニソラ半島南征に参加した際に、白銀竜兵団に編入され、全員ハヤテにやられて戦場で命を落としていた。(第七章 新年戦争編 より)

 今の隊長はその時に選抜されなかった幹部未満の部隊長。当時のトップがゴッソリ抜けた事で、繰り上がりで隊長になった新米隊長なのである。

 そんな赤弓隊の集団に、戦場では珍しい白い鎧を着た騎士が駆け寄った。


「お待ちを! 赤弓隊は前に出すぎです! 我らと足並みを揃えて頂きたい!」


 この特徴的な白い鎧は帝都第一軍の弓兵部隊。荒鷹隊のものである。

 第一軍の弓兵部隊は各部隊名に鳥の名前を冠しており、荒鷹隊はその中でも特に優秀な部隊として知られ、特別に戦場で白い鎧を着る事を皇帝によって認められていた。

 赤と白。それぞれ色の異なる二つの部隊から、選りすぐりの射手を集めた混成部隊。これこそが、総指揮官グスタボが対飛行モンスター用に編成した特別攻撃隊なのであった。


 荒鷹隊からの要請に対し、赤弓隊の騎士達が声を荒げた。


「今の前進の合図が聞こえたであろう! 足並みを揃えよと言うのであれば、そちらが我らに合わせるべきではないか!?」

「そうとも! 空を飛ぶモンスターに味方がやられてからでは遅いのだぞ!」

「そ、それはそうなのですが・・・」


 帝国軍の中でも特に実戦経験が豊富な第二軍には気性の荒い者が多い。対して第一軍は、どちらかと言えば帝都にあって儀仗兵としての色合いが強い。

 荒鷹隊の騎士は赤弓隊の騎士達に凄まれて、完全に腰が引けてしまった。


「俺の部下をそんなにイジメないでくれないか? 同じ部隊に編成された仲間同士ではないか」


 良く通る低い声と共に、初老の騎士が部下を率いて姿を現した。

 白い鎧に白い兜。背中には精緻な模様が刻まれた派手な大弓を背負っている。帝都第一軍荒鷹隊の隊長である。

 赤弓隊の隊長は、眉間に浅く皺を寄せた。


「我々は間違った事は言っていない」

「そうだな。今回は遅れた我らに非がある。これこの通り、勘弁してくれ」


 荒鷹隊の隊長はそう言うと軽く頭を下げた。

 赤弓隊の隊長と荒鷹隊の隊長では親子程の歳の差がある。自分と同格の、しかも父親のような年齢の騎士が先に非を認めて頭を下げたのだ。ここで意地を張れば、自分達の方が小者に映る。

 赤弓隊の隊長は渋々怒りを収めると、小さく頭を下げた。


「いや、こちらも気が逸っていたようだ。ご容赦願いたい」

「そうかそうか。我々にとってはこれが初めての合同戦。互いに至らぬ点はあって当然。仲良く補い合って行こうではないか」


 荒鷹隊の隊長は破顔一笑。部下達の間にも安堵の空気が流れる。

 赤弓隊の隊長が微妙な表情を浮かべる中、荒鷹隊の隊長はスッと体を寄せると小声で彼に囁いた。


「そういきり立つものではない。隊長として部下を鼓舞するのは大事だが、この戦いは人間を相手にするような勝った負けたの戦いではないのだ。今から気を張っていてはお主も部下も気持ちがもたんぞ」


 赤弓隊の隊長は、ハッと目を見開いた。

 先程も説明したが、赤弓隊はペニソラ半島南征時に主だった幹部を全員失っている。彼はその結果繰り上がりで隊長になった年若い隊長。自身が若輩者である事は本人が一番良く分かっている。

 そのため、こうして日頃から気を張っていたのだが――どうやらこの経験豊富な老練な指揮官の目には、彼が虚勢を張っているのは一目瞭然だったようである。

 役者が違う。

 赤弓隊の隊長は、完全に自分がこの初老の騎士に貫禄負けしている事を思い知らされていた。

 その時、荒鷹隊の隊長がふと空を見上げた。釣られて視線を上げると、猛禽のように翼を広げて空を飛ぶ姿があった。


「ミロスラフ王国のドラゴン・・・」


 そう。それはこの数日、帝国軍と共闘してモンスターと戦っている、ミロスラフ王国のドラゴン・ハヤテの姿であった。

 赤弓隊の隊長は、特に考える事無く、思った事を自然に口に出していた。


「赤弓隊と荒鷹隊の手練れが揃ったこの部隊でなら、あのドラゴンを撃ち落とす事も出来るだろうか?」

「無理だな」


 まさか返事が返って来るとは思わず、赤弓隊の隊長は慌てて荒鷹隊の隊長に振り返った。


「あのドラゴンはああ見えて恐ろしい程の速度で移動している。そのように見えないのは、地上から遠く離れた空の上を飛んでいるからに他ならない。矢も届かない遥か上空を、矢のような速度で飛ぶ怪物。そんな相手に俺達人間が敵うはずもない。あれは正真正銘の化け物なのだ」


 対比物のある地上とは違い、何もない空の上では飛行物体の速度と距離を正確に把握するのは難しい。

 赤弓隊の隊長の目には悠々と空に浮かんでいるいるようにしか見えないハヤテも、実は時速300キロを超える速度で飛行しているのである。

 荒鷹隊の隊長は今までの経験で――対象物の見え方で、相手までのおおよその距離とその速度を推察。その桁外れな速度に驚愕していた。

 その時、前線から大きな声が上がった。

 ハッと振り返ると、青い空にポツリポツリと黒い小さな点が。

 どうやら前線の兵士が飛行型のモンスターを発見。驚きの声を上げたようである。


「手も足も出ないドラゴンよりも、先ずはあれの方をどうにかせんとな。なにせこの部隊はそのために編成されたのだから」

「あちらは人間の手に負える相手であればいいのだが。赤弓隊! 俺に続け!」

「「「おおーっ!」」」


 先ずは赤弓隊が、次いで荒鷹隊の騎士達が雄叫びを上げる。

 こうして特別攻撃隊は飛行型モンスターとの戦闘に突入したのであった。

次回「飛行ネドマvs特別攻撃隊」

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― 新着の感想 ―
また第一軍と第二軍でマウント取り合うのかと思ってハラハラしましたが 出来た人間はどこにでも居るものですね
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