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その16 奥の手

 僕達と原始ネドマの長い戦いが始まった。

 とはいえ、戦闘の基本は帝国軍にお任せで、彼らだけでは厳しそうな時――例えば大型のネドマが纏まって押し寄せてた時――には、僕が援護するようにしている。

 なにせ四式戦闘機の二十ミリ機関砲の弾数は一丁当たり250発。

 トリガーを引きっぱなしだと、ほんの数十秒で撃ち尽くしてしまう計算になる。

 使い所、撃ち所は慎重に見極める必要があった。


「見渡せる範囲では厄介そうなネドマの群れは見当たらないし、後方に下がって休憩しようか」

『またですの?』


 戦場の上空を一回りしてそう結論付けた僕に、ティトゥが思わず不満をこぼした。

 そう。リソースが限られているのは、何も機関砲の弾丸だけではない。

 燃料の残量もそうなのだ。

 むしろ厄介なのはこっちの方かもしれない。なにせ燃料は戦わなくても――ただ飛んでいるだけでも、消費してしまう物だからである。


「だから帝国軍だけでどうにか出来るようなら、彼らに任せて、僕らはマメに休憩を取らないとね」

『それは分かっているのだけど・・・』


 ティトゥも理屈では理解しているものの、ついさっきまで休憩していた所を、さあ戦いだと飛び立った途端にすぐまた休憩と言われて、すっかり出鼻をくじかれた気分になってしまったようだ。


「君の気持ちは分かるけど、まだ戦いは始まったばかりだし、また直ぐに僕達の出番も来るさ」

『・・・そうですわね』


 ティトゥが頷いた所で、僕は翼を翻すと、進路を南に。

 まだネドマが到達していない、無人の街道を目指してエンジンを吹かしたのだった。




 また直ぐに僕達の出番も来るさ。という言葉は、次の飛行(フライト)で直ちに現実の物となった。


「コレはちょっとマズそうだ。高度を落として何度か地上掃射をする必要があるな。ティトゥ、安全バンドを締めて」


 三十分程休憩して、再び戦場にやって来た僕達が見たのは、大型ネドマの群れと戦っている帝国軍の姿だった。

 一口に大型種と言っても、形も大きさも様々である。

 今、帝国軍を襲っているのは、カブトムシとクワガタムシを足して二で割ったような、攻撃的な角と硬い外骨格を持つ手強そうな種類だった


『それならもう締めてますわ。行って頂戴、ハヤテ』

「了解」


 僕はティトゥに促されると急降下。攻撃進路に入った。

 帝国軍と原始ネドマの戦いに真横から割って入って、そのまま突っ切るような形となる。


 ワアアアアア・・・


 十分に高度を下げた事で、前方から戦いの音が――帝国兵の上げる声が聞こえて来る。

 兵士達も最初は僕の姿を見つける度に、怯えて逃げ回っていたが、今ではすっかり慣れてしまったようだ。あるいは僕が攻撃するのはネドマだけだと理解したからなのか、こちらを無視して自分達の戦いを続けるようになっていた。


 ホコッ。


 軽い電子音と共に、計器盤の上のスマホの画面が点灯。戦場の光景と一番近いネドマまでの距離が表示された。

 よし、今だ!


 ドドドドッ!


 トリガーを引いたのはほんの一秒程。二十ミリ機関砲の弾丸が大型ネドマに集中すると、周りにいた数匹の小型ネドマを巻き込んで、その体をズタズタに引き裂いた。

 命中。


 グオ――ッ!


 僕は機首を上げると戦場の上空を通過。大きく反転すると今度は帝国軍の背後から前に抜けるような形で、別の集団の大型ネドマを狙い撃った。


 ドドドドッ!


 残念、今度は照準が十分ではなかったようだ。弾丸は大型ネドマをかすめるように外れると、たまたま射線上にいた小型ネドマ数匹を木端微塵に消し飛ばした。


「・・・確かに外れたけど、トリガーを一瞬しか引かずに当てるのって本当に難しいからね。弾丸を垂れ流すように撃ってもいいなら、今のも絶対命中させられていたから」

『ハヤテ、あなた一体誰に向かって言い訳しているんですの?』


 謎に誤魔化した僕の言葉に、ティトゥがいぶかしげな顔でツッコミを入れた。


「何でもない。この調子でもう四~五匹倒そうか」

『りょーかい、ですわ』


 僕は翼を翻すと、再びネドマの群れに突撃したのだった。




 そうやって戦闘を続ける事しばらく。

 やがて四丁の二十ミリ機関砲が同時にカシンカシンと空撃ちを始めた。弾丸が尽きたのである。

 こうなってしまえば、これ以上戦場に留まっていてもやれる事は何もない。

 僕はティトゥに振り返った。


「弾丸が底をついた。ティトゥ、一旦後方に下がるよ」

『分かりましたわ』


 戦う手段がなくなったというのに、二人共随分落ち着いているって? まあ見てなって。

 僕はネドマの姿が途切れるまで飛んでから、無人となった街道に着陸した。

 エンジンを止めると、ティトゥが待ちかねたように風防を開いて外に降り立った。


『ハヤテ、扉を開いて頂戴』


 はいはい。僕は胴体横の扉を開けた。

 ティトゥは扉の中に上半身を突っ込むと、中から小さな木の箱を取り出した。


『よいしょっと』

「見た目よりも重たいよ。足の上に落とさないようにね」


 これが今回の戦いに備えて用意した僕の奥の手となる。

 ティトゥは奥の手の箱を小脇に抱えると翼の上に登った。

 そのまま無造作に二十ミリ機関砲の根元へと近付く。


「あっ、銃身はまだ熱いから、うっかり素手で触れないようにね。火傷するよ」

『そう言われていたから、ちゃんとオレクから手袋を借りて来てますわ』


 ティトゥはそう言うと手袋と小さな鉄の棒を取り出した。ちなみにオレクはナカジマ領の家具職人(見習い)である。

 ティトゥは鉄の棒――マイナスドライバーで、翼のネジを回し始めた。

 オレクとは違うたどたどしい手つきに、僕はハラハラしながら彼女の作業を見守った。


「ティトゥ、時間はたっぷりあるからね。作業は落ち着いて丁寧に。焦って塗装にキズを付けたりしないようにね」

『ハヤテの方こそ、少しは落ち着いたらどうなんですの? ――はい、これで全部外れましたわ』

「オッケー。外したネジは落とさないように、ポケットにでも入れといて。最悪、再生されるとは思うけど、なくさないのに越したことはないからね。じゃあ次は外板を外して」

『ん。よっと。ふぅん、これが龍咆哮閃光枝垂れ(しだれ)の本体ですのね』


 その龍何とか枝垂れ(しだれ)じゃなくて、二十ミリ機関砲ね。

 ていうか、体の中をそんなにマジマジ見られると、ちょっと恥ずかしいんだけど。


『ハヤテ?』

「あーゴホンゴホン。ええと次は・・・あれ? フィードカバーってどう伝えればいいんだろう? ねえティトゥ、機関砲の本体に上に開くと言うか、可動する箇所があるのが分かるかな?」


 ティトゥはしばらく機関砲をいじっていたが、直ぐにフィードカバーを見つけてガシャリと跳ね上げた。


『これでいいんですの?』

「そうそう。そこに見えている本体の溝の中に弾丸の一発目を入れて欲しいんだ」


 僕が用意した奥の手。

 それは二十ミリ機関砲の替えの弾倉である。

 二十ミリ機関砲はこの世界においては未来兵器。最強の兵器と言ってもいい。

 唯一の問題は、一日に使える弾数が一丁当たり250発と決まっている点。数を相手にした時には、これだけでは足りなくなる事は分かっていた。

 そこで僕は帝国に戦争を仕掛けるという話が出た時から、密かに家具職人のオレクに頼んで、その日、使わなかった分の弾倉を機関砲から抜き取って保管して貰うようにしていたのである。

 つまりは弾丸の貯蓄だね。

 ティトゥがかたわらに置いてある木箱の中には、オレクが保管していた二十ミリ機関砲の弾倉が入っているのだ。

 ティトゥはふくれっ面で僕に振り返った。


『こんな大事な話なら、オレクにだけでなく、私にも一言言っておいて欲しかったですわ』

「だからそれはゴメンって。危険な兵器だし、秘密を知っている人は少しでも少ない方がいいと思ったんだよ」


 それでもティトゥは納得いかなかったのか、私はハヤテのパートナーなのに、などとブツブツ文句を言っている。けど君に話したら、どうせ話を膨らませて誰かに自慢していたよね?

 そうでなくても、最近の僕はあちこちの貴族から目を付けられているのだ。そういった中の誰かが屋敷から弾丸を盗み出そうとよこしまな考えを抱いたってちっとも不思議じゃない。

 そうなれば、単純に僕達が困るというだけではなく、盗まれた弾丸が知らない所で大きな事故を引き起こしていた可能性だってあるのだ。

 危険な秘密というのは関わっている人間が少ない方が安全なのである。


「とはいえ、本来ならこの予備弾倉は、帝国軍に使う予定だったんだけどなあ。それがどうして、その帝国軍と協力して原始ネドマ相手に使う事になるんだか」


 世の中、何がどうなるかは、その時になってみなければ分からないものである。

 僕がこの世の不思議に心を飛ばしている間に、ティトゥは機関砲の弾倉を交換して外板のネジを絞め終えていた。


『意外と簡単でしたわね。他の箇所もチャッチャと済ましてしまいましょうか』

「よろしくね」


 何とも頼もしいパートナー様である。

次回「予想外の来客」

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