その15 帝国軍の戦い;ハヤテ視点
明けて翌日。
僕達は再びミュッリュニエミ帝国の空を飛んでいた。
「・・・変だな。そろそろ帝国軍に追いついてもいい頃なのに」
帝都から北に延びる街道。そこには本来いるはずの帝国軍どころか人っ子一人見当たらない。
不気味な姿の原始ネドマがうろついているだけである。
ティトゥが僕に振り返った。
『それに、ここまで戦闘の跡が全くなかったのもおかしな話ですわ』
そうなんだよね。
ひょっとして帝都に引き返したのかも・・・というのは流石にないか。あれ程の大軍を動かしたのだ。その日のうちに撤退させたとあっては、皇帝の権威にキズが付くというものである。
「う~ん、前提が間違っていたのかもしれない。僕は帝国軍は異変の中心地を目指しているものだとばかり思っていたけど、違ったのかも」
『じゃあどうするんですの?』
どうするもこうするも、捜すしかないんじゃない?
「一度引き返して、捜索範囲を広げよう。幸い、あれからまだ一日しか経っていないし、相手は機械化もされていない――ええと、人間の足で移動する徒歩の集団だ。移動距離もたかが知れてるし、空から捜せば直ぐに見付かるんじゃないかな」
実際は馬に乗った騎兵もいたが、大半が歩きの歩兵である以上、移動力はそちらに合わせなければいけないはずだ。
そもそも相手は何万もの大軍勢である。空から見れば一目瞭然だろう。
『・・・仕方がありませんわね』
ティトゥは未練がましく北の空を――原始ネドマの発生場所の方角を見つめた。だが、流石に僕達だけでは、あの飛行ネドマの群れに立ち向かえない事くらいは分かっているようだ。
もどかしそうな表情で、僕の言葉に頷いたのだった。
てな訳で、翼を翻して飛ぶ事少々。
僕達はアッサリと帝国軍の姿を見つけたのだった。
『もうネドマとの戦闘が始まっていますわ』
この辺りのハブ都市だろうか? そこそこ大きな町のすぐ外で、兵士達がネドマの群れと戦っているのが見えた。
「あー、これはちょっとマズい状況かもしれないね」
どうやら帝国軍は、大型の虫型ネドマの群れに手を焼いているようだ。
それだけならまだいいが、その場には大型ネドマを一回り大きくした――ぶっちゃけ某ジ〇リアニメで見た事があるような――芋虫型のネドマの姿もあった。
「あの王む――ゲフンゲフン、芋虫みたいなネドマは、帝国軍の武器で倒すのは手こずりそうだね」
『あっ! 芋虫型が走り出しましたわ!』
戦いに興奮したのだろう。巨大芋虫型ネドマは、突然、走り出すとそのまま戦場へと突っ込んで行った。
なにせあれ程の巨体だ。まるで超大型ダンプカーが暴走しているようなものである。
ネドマも人間もお構いなし。巨大芋虫型ネドマは、当たるを幸いにその進路上にいる全ての物を跳ね飛ばしながら暴走を続けた。
『ハヤテ! このままだと帝国軍が――』
「分かってる! 安全バンドを締めて!」
このまま手をこまねいていたら、最悪、あの巨大ネドマ一匹だけで帝国軍が壊滅させられかねない。
僕は翼を翻すと攻撃進路に入った。
「周りは帝国兵だらけだから、250キロ爆弾は使えない! 機関砲による地上掃射で行くよ!」
『りょーかい! ですわ!』
芋虫型ネドマは未だに暴走を続けている。とは言えあの巨体だ、命中させるのはそう難しくはないだろう。
問題は的が大きすぎて、対象との距離が掴みにくいという点だが――
ホコッ。
その時、軽い電子音と共に、照準器の位置に固定されたままのスマホのディスプレイが点灯した。
一体なぜ? と思ったら、画面に芋虫型ネドマの姿が大写しになると共に、三桁の数字が表示された。
「三桁の数字? 単位にmって付いているって事は、これって標的までの距離って事!? いや、助かる!」
流石は叡智の苔、バラクの子機。気が利くなんてもんじゃない。
どうやらスマホのアウトカメラを使って標的までの距離を計測してくれたようだ。
数字はみるみるうちに減っていき、遂には二桁に。残り千メートルを切った。
『ハヤテ!』
「いや、まだだ!」
正確な距離が分かるなら、ギリギリまで引きつけるべきだ。
四式戦闘機の武装は、胴体に二丁、翼内に二丁の合計四丁の機関砲である。
機関砲はパッと見、真っ直ぐ伸びているように見えるが、実は全ての銃身には微妙に内向きの角度が付けられていて、弾道が前方で交差するように調整されている。
これを機銃調和、ないしはハーモナイズと呼び、二十ミリ機関砲の場合(つまりは僕の場合)、この交差距離は200mとなっている。
つまり四丁の機関砲から放たれた弾丸は、200m先で一点に集中して最大の火力を出すよう、調整されているという訳である。
スマホの画面上の数字は、遂に300を切った。
今だ!
ドドドドドド!
トリガーを引いていた時間はほんの一~二秒。
僅か一~二秒とはいえ、二十ミリ機関砲の発射速度は毎秒八発程。それが四丁あれば弾丸の合計は三十発を超える。
二十ミリ機関砲の威力は、コンクリートの壁に直径20cmの穴を穿つ程だという。
巨大ネドマとはいえ、所詮は生き物。戦車のように装甲板に覆われているという訳ではない。
その体は一発123グラムの金属の弾丸によって、ズタズタに引き裂かれた。
「ギャオオオオオ!」
ネドマは突然、自分の体を襲った激痛に、訳も分からずに絶叫した。
僕は昇降舵を操作。ネドマの上を通り過ぎた。
ゴオオオオオオ!
危なっ! 標的までの距離が分かった事で、つい、欲が出て粘り過ぎてしまったようだ。
後コンマ数秒、機首上げのタイミングが遅れていたら、ネドマに正面衝突していたかもしれない。
内心でヒヤヒヤしながら背後を振り返ると、芋虫型ネドマは仰向けにひっくり返り、脚を弱々しくうごめかせている。
体も千切れかけているし、致命傷を与えたのは間違いないだろう。
僕と同じく、後ろを振り返っていたティトゥが、ホッと安堵の息を吐いた。
『どうやら、やっつけられたみたいですわね』
「多分、そうみたい」
戦場を見回したが、芋虫型ネドマは今の一匹しかいないようだ。
当面の危機は去ったと考えて問題はないだろう。
「とはいえ、他に大きな群れがいくつもあるし。帝国軍の状態によってはまだ予断は許さないかな」
巨大芋虫型ネドマこそ見当たらないものの、大型のネドマを中心とした群れはいくつもある。
それらにまとめて押し寄せたられたら、支えきれなくなる可能性は十分にありそうだ。
僕はネドマの様子を見渡して、ザックリ今後の方針を決めた。
「帝国軍の戦闘を見ながら、ポイントを決めて攻撃する事にしようか。弾丸に余裕はないから、各群れに撃ち込むのは一~二秒づつ。その分何度も往復する事になるだろうけど大丈夫?」
僕が心配そうに尋ねると、ティトゥは笑って答えた。
『私の事なら心配いりませんわ。ハヤテの思うようにやって頂戴』
そうは言っても、君ねえ・・・いや、いざとなったら地上で待っててもらえばいいか。
少し南に戻れば、ネドマは全くいなかった訳だし。
問題は、その時になってティトゥが僕の言う通りにしてくれるかどうかだけど・・・。まあ、今考えても仕方が無いか。
「分かった。戦闘は始まったばかりだ。様子を見ながら気長にやろう」
帝国軍にはここを凌ぎ切り、異変の中心部に向けて行軍を再開して貰わなければならない。
いつまでも僕が張り付いている訳にはいかない以上、さっきの巨大芋虫型ネドマも、自力で対処出来るようになって貰いたい所である。
次回「奥の手」




