その5 ハルデンの気持ち
前当主トマーツさんが出したアイデア。
それは息子の新当主就任の箔付けに、山賊退治を行うというものだった。
そんなのでいいの? と思う僕だったが、意外な事に新当主のハルデンがこのアイデアに乗り気だという。
大人しそうな印象だったけど、意外と中身は、父親似なのかもね。
ラダ叔母さんが小さく苦笑した。
『ハヤテ。お前が何を考えているか、大体、想像が付くが、間違いなくハルデンは武官ではなく文官タイプだぞ』
『私もあの方は、お母様の方に性格が近いんじゃないかと思いますわ』
うん、まあ、僕も最初はそう思ったけどさ。
でも、山賊退治に乗り気なんだろ? だったらいかにも武人然とした父親の方に似てるんじゃないかな?
『いや、ハルデンは自分の祖父に、オスロス老に認めて貰いたいんじゃないかな』
「オスロスさんに?」
『うむ。トマーツ殿とオスロス老の仲が良くないという話はしたな。何が原因かは分からんが、というか、これといった原因など特にないのかもしれんが、とにかく、今では二人は屋敷で会っても会話すらしないらしい。
おそらくハルデンは、自分が騎士団を率いて山賊を討伐する事で――つまりは昔、トマーツ殿とオスロス老が考えた策を自分が行う事で、二人の間に出来たわだかまりを解消するきっかけになればと、そう考えたんじゃないか?』
なる程。確かに、そっちの方が、実はハルデンも父親と同じで脳筋でした、という理由よりは彼のイメージに近い気がする。
いかにオスロスさんが自分にも周りにも厳しい人だとしても、孫が周囲に認められて嬉しくない訳はない。
勿論、それはトマーツさんだって同じ事だ。
しかもそれが、昔自分達が考えた作戦だとしたらどうだろうか?
少しでも当時の気持ちを思い出して貰えれば。
ハルデンがそう考え、作戦に乗り気になったとしても無理はないだろう。
『なる程。そういう理由だったんですわね』
ティトゥは納得顔でウンウンと頷いた。
いや、ティトゥ。何で君まで僕と一緒になって感心してる訳?
君はラダ叔母さんから今の話を聞いていたんじゃないの?
『私も初めて聞きましたわ! というか、ハルデン様にそんなお考えがあったなんて、私に分かる訳がないですわ』
『ハヤテよ、流石にハルデン本人の前でそんな話をする訳がなかろう。それに今のはあくまでも私の推測に過ぎないんだからな』
ああ、そりゃそうか。
「分かった。そういう事なら、僕も出来る限り協力するよ」
『勿論、私も手伝いますわ! 是非、成功させるべきですわ』
『ふむ。二人がそう言ってくれているのに、同じ領主貴族派の私が何もしない訳にはいかんな』
ラダ叔母さんはそう言うと、立哨中の騎士団員達を見回した。
『よし。ならば私は騎士団の稽古を付けてやろうか。これでも昔は海賊狩りの王女と呼ばれた身だ。最近ではすっかりなまってしまったが、なに、昔取った杵柄。騎士団の男共を鍛えるなど手慣れた物さ』
叔母さんは『フフフ、腕が鳴るねえ』とほくそ笑んだ。
騎士団員達は何やら良からぬ気配を感じたのか、落ち着かなげな顔でチラチラとこちらを見ている。
その時、ファル子の賑やかな声が響いた。
「ギャウ! ギャウ!(パパ! ママ!)」
『あら? お話はもう終わっていたのね。お客さんを放り出してあの人達はどこに行ったのかしら』
トマーツさんの奥さんがファル子とハヤブサを連れて庭に出て来た。
『トマーツ殿とハルデン殿なら部屋にいるんじゃないかな? 今は休憩中で、これから戻って続きを始める所だ』
奥さんは『あらそう』と頷いた。
『それはそうと、ファルコちゃん達が急に外に出たがったんだけど、理由が分かるかしら?』
『ああ、それならきっとおトイレですわね。どこかに使っていい場所はあります?』
『庭師に聞いてみましょう。ちょっと、誰か』
奥さんが呼びかけると、作業服のオジサンがやって来た。
彼は奥さんから話を聞くと、ファル子達を庭の隅へと連れて行った。
『ちゃんとトイレが分かるなんて偉いわね』
トマーツさんの奥さんは感心しているが、犬猫ですらトイレの躾けが出来るというのに、言葉が通じるファル子達にそれが出来なかったら、そっちの方が僕にはショックだ。
ティトゥも同じ事を思ったのだろう。何だか微妙な表情になった。
トイレを済ませたファル子達が戻って来た。
「ギャウ! ギャウ!(ママ! ママ!)」
『ママのお仕事はもう少しかかりそうですわ。しばらくいい子にしていて頂戴ね』
「ギャーウー(分かった)」
「ギャウギャウ!(次は庭を探検したい!)」
ファル子はキョロキョロと辺りを見回した。
「う~ん。外は寒いから、トマーツさんの奥さんを付き合わせるのは悪いかな。お屋敷の中に入ってな」
ファル子達も僕程ではないが、かなり寒さに強い。
なにせ冬でも平気で海で泳いでいるくらいだ。
そうでなければ冬場は空を飛べなくなってしまうからね。当然と言えば当然なのかもしれない。
「ギャーウー!(分かったー!)」
『コラ、ファルコ! そっちは窓ですわよ! 家に入る時はちゃんと入り口から入りなさい!』
バサバサと翼をはためかせてテラスに飛び込もうとしたファル子を、ティトゥが慌ててキャッチした。
「ギャーウー!(イヤー!)」
『全くこの子は。ハヤブサ、行きますわよ』
『ではな、ハヤテ。もうしばらく待っていてくれ』
ティトゥ達はトマーツさんの奥さんと一緒に屋敷に戻って行った。
そしてその後の話し合いで、山賊退治に出る事が、そして僕達がそれに協力する事が正式に決まったのであった。
新当主ハルデンが討伐に向かう相手はトゥラグ山賊団。
勿論、自分達でそう名乗っている訳ではない。
そりゃそうだ。いくら彼らがアウトローでも、自分で自分のチーム名に”山賊”を入れる程、自虐的でもロックでもないだろう。
トゥラグ山賊団はトゥラグという男が率いている事からそう呼ばれているそうだ。
山賊団、と言っても、本当に山に住んでいる訳ではないらしい。実際は強盗団に近いようだ。
人数は百~二百人程。
そう聞くとそれ程でもないようだが、末端の構成員はその数倍はいると考えられているという。
「末端の構成員?」
『町でたむろしているチンピラ共の事だな。正式な団員ではないが、山賊と金の繋がりがある――というよりも、山賊の幹部に顎で使われている関係者、といった所か』
ああ、ストリートギャングの事ね。
日本で言えば半グレ。あるいは準暴力団員か。
「流石にそっちまでは手が回らないんじゃない? 勿論、捕まえられるならそうした方がいいと思うけど」
『――と言ってますわ』
『まあそうだな。ああいったヤツらを町から完全に消し去るのは不可能だしな。それでも親元である山賊団を潰せば、しばらくは大人しくなるだろうよ』
なる程ね。
「・・・それはそうと、いつになったら出発する訳?」
僕は庭の片隅を眺めた。
そこでは前当主のトマーツさんが、ファル子とロープの引っ張り合いをしていた。
『ガッハッハ! どうしたどうした、それで全力か?!』
「フウッ! フウッ! ・・・グルウウウウ(・・・ハヤブサ、アンタも手を貸しなさい)」
「ギャーウー(ええ~。まあいいけど)」
押され気味のファル子は弟に協力を求めた。ハヤブサはロープの半ばを咥えると、バサバサと翼をはためかせた。
『おっ?! 二匹がかりか! いいぞいいぞ! スゴい力だ!』
「フウウウ! フウウウ!」
「ウウウウウ・・・」
新当主のハルデンが申し訳なさそうな顔をしながらやって来た。
『ウチの父がご迷惑をおかけしてすみません』
『迷惑なんてとんでもないですわ。こちらこそ、ファルコ達と遊んで頂いてありがとうございますわ』
ティトゥはお礼を言ったが、ハルデンの微妙な表情は変わらない。
まあ、今もトマーツさんはテンション高めのノリノリで楽しんでいるからね。ハルデンとしては、いい歳をしてはしゃいでいる父親の姿が恥ずかしいんだろう。
ハルデンは僕を見上げた。
『ドラゴンですか・・・王城での新年式でも見ましたが、本当に木像の通りの不思議な姿をしているんですね』
『木像?』
ハルデンによると、聖国の王城に、僕の姿を形どった木像が飾られていたらしい。
何でも本人完全監修 1/24 ドラゴン・ハヤテ木製模型だそうだ、って――
「オレクの作ったあの模型か!」
『けど、なんでオレクとハヤテが作った木製模型が、聖国の王城に飾られていたんですの?』
『オレク? あの木像を作った彫刻家の名前でしょうか?』
いや、オレクは彫刻家じゃなくて、ナカジマ領の家具職人なんだけど。
ああ、思い出した。そういえば、王都でティトゥがパーティーを開いた時(※第十四章 ティトゥの招宴会編)、来客用のお土産の中に、あの模型も入れてくれるように、モニカさんに頼んだんだった。
それが何で聖国の王城なんかに、って、そういえばあの時、将ちゃんこと国王カミルバルトと一緒にパロマ王女も来ていたんだっけ。
なる程。パロマ王女がミロスラフ王国土産として実家に持ち帰ったのか。
まさかオレクも、自分の作った四式戦闘機の模型が、他所の国の王城に飾られる事になるとは、思ってもいなかったに違いない。
よもやこんな事になろうとは。
お前のせいだろうって?
いやまあ、そうなんだけどさ。
「これってオレクが知ったらどう思うかな?」
『きっと青ざめてひっくり返るに決まってますわ』
だよねー。あのオレクだし。
オレクは腕はいいけど、気が小さい所があるから。
――うん。これは彼には黙っておいた方がいいかな。
「この話は聞かなかった事にしようか、ティトゥ」
『・・・そうですわね』
『? ドラゴンは何と言ったんですか?』
二人で納得する僕達に、ハルデンは不思議そうに尋ねるのだった。
次回「決行の朝」




