その4 コルベジーク一家
メイド少女カーチャ達、ナカジマ家使用人達が合流した翌日。
僕達は再びコルベジーク伯爵家の屋敷を訪れる事にした。
僕からザックリと今までの事情を聞かされて、メイド少女カーチャは、納得したような呆れたような顔をした。
『はあ、そんな事になっていたんですね』
どうやらカーチャはティトゥから何も説明を受けていなかったようだ。
『はい。新年式の式典が終わってティトゥ様が部屋に戻って来たと思ったら、「先にレブロンの港町に行っていますわ」の一言だけを残して、直ぐに出て行ってしまわれたので』
マジで? 流石にそれはないって。
ティトゥ、君ねえ・・・
『せ、説明したら止められるかもしれなかったからですわ』
「ウソだね」
『流石にウソだと思います』
ティトゥは僕とカーチャにジト目に、慌てて視線を逸らした。
「それって絶対、自分が一秒でも早く王城から逃げ出したかっただけだよね」
『間違いなく、私達に説明する時間が惜しかったからですね』
『ちょ! あなた達、実は会話が通じているんじゃないですの?!』
間髪入れずに同じ意見を口にした僕達に、ティトゥは疑いの眼差しを送った。
何を言っているんだいティトゥ。カーチャに僕の喋る日本語が分かる訳はないじゃないか。
分かるのはティトゥや小叡智の姉弟達、翻訳の魔法が使える人間だけ。
それは君だって良く知ってるだろうに。
『そ、それは・・・確かにそうなんですわ。でもさっきのは息がピッタリでしたし、二人の間で会話が通じているとしか・・・』
『ハヤテ様の話している言葉は分かりませんが、喋っている感じでハヤテ様がティトゥ様のついたウソを指摘したくらいは何となく分かりますよ』
カーチャは時々妙に鋭い時があるよね。
『待たせたな。早速出発しようじゃないか』
ラダ叔母さんがファル子達を引き連れて現れた。
ちなみに旦那さんと子供達はまだ王都から戻って来ていない。カーチャ達の方が馬車を飛ばして先にレブロンの港町に到着したのだ。
「ギャウー! ギャウー!(出発! 出発!)」
「ギャーウ?(あれ? カーチャ姉は行かないの?)」
ファル子はいつものように元気良く。ハヤブサはカーチャの方を気にしながら操縦席に乗り込んだ。
う~ん、ファル子も大きくなった事だし、女性とはいえ流石に三人もは乗せられないかな。
という訳で、今日のメンバーはいつものようにティトゥとラダ叔母さん。それにファル子達となった。
僕は全員を乗せて離陸。
何度目かのコルベジーク伯爵家の屋敷を目指したのであった。
てな訳で、コルベジーク伯爵家の屋敷に到着。
早いって? う~ん、特に道中で語るような事があった訳じゃないし。
変わった点と言えば、屋敷の護衛の騎士団員達の数が日に日に増えているくらい?
それも僕を警戒して、というよりも、外の騒ぎに備えてみたいだし。
実際、今も屋敷の周囲にはかなりの人だかりが出来ている。
どうやら僕達の事が町の噂になっているらしい。
そりゃまあ、領主の館に何度も謎生物が飛来していれば噂にもなるか。ましてや、娯楽の乏しい田舎町だし。
町の人達は基本的には好奇心で集まっただけだと思うけど、群集心理、ないしは集団心理というものもある。
人間は数が集まる事で衝動性、興奮性が高まり、理性の歯止めが利き辛くなるのだ。
つまりは、バカをしでかす人間が出てくる、という訳だ。
騎士団員達はそういった突発的な事態を考慮して、警戒態勢を敷いているようである。
庭に着陸した僕を出迎えてくれたのは貴族の一家。
いかつい髭のオジサンとその奥さんと彼らの子供。
その子供――大人しそうな青年が、一家を代表して僕達に声を掛けた。
『ようこそ、レブロン伯爵夫人。ナカジマ殿もご苦労様です』
『何度も屋敷に押しかけて済まない。バタバタとして落ち着きがないとは思うが、こちらとしても領地を留守にする訳にもいかないのでな』
『ごきげんよう』
青年は昨年、父親から当主の座を継いだハルデン。
姉が二人いるそうだが、二人共どこだったかの貴族家に嫁いで、今はいないそうだ。
「・・・やっぱりオスロスさん達は出て来ないんだな」
初日に僕達の前に現れた、老夫婦はここにはいない。
やはり彼らは息子夫婦と折り合いが悪いらしい。
ハルデンが僕を見上げた。
『今、ドラゴンは何と言ったんですか?』
『は、ハヤテは挨拶をしただけですわ。ホラ、ファルコ達もご挨拶をなさい』
「「ギャーウー(ごきげんよう)」」
可愛いリトルドラゴンズに、ハルデンの両親――トマーツさん夫婦は相好を崩した。
『ファルコだったか。そっちの子は元気があって結構だな』
『ハヤブサちゃんは大人しくて、ハルデンが小さかった頃を思い出すわ』
『は、母上!』
ハルデンが慌てて母親に振り返った。
『ご、ゴホン。それではレブロン伯爵夫人。ナカジマ殿。屋敷にどうぞ。そちらの大きなドラゴン――ハヤテは庭で構いませんよね』
『ヨロシクッテヨ』
『のう、ハヤテよ。お前はなぜ、男の声なのに婦人言葉を話すのだ? いや、別にそれが悪いとは言わんが、何と言うか、聞いていて落ち着かずにムズムズするのだが』
ほう。トマーツさんは僕の言葉遣いが気になって仕方がないと。
いいでしょう。ならばお教えしましょう。僕がなぜオネエ言葉になってしまったのか。その秘められた過去を!
『ハヤテ、その話は後にして頂戴。トマーツ様、先ずはラディスラヴァ様の話を聞いて頂けないでしょうか』
『うむ、そうだったな』
勢い込んで話し始めようとした僕は、ティトゥにバッサリと切り捨てられた。
うぐう。・・・まあ仕方がないか。語り出すと結構長い話だし。
(※ハヤテの話がどうしても気になる方は、第十四章 ティトゥの招宴会編【その22 「No」と言える勇気】をお読み下さい)
『じゃあファルコちゃん達は私と一緒にお部屋で待っていましょうね』
「ギャウギャウ(探検! お家を探検したい!)」
「ギャーウ(他所の家だよ。迷惑じゃない?)」
ラダ叔母さんとティトゥは、トマーツさん親子と。ファル子達は、トマーツさんの奥さんと一緒に屋敷に入って行った。
ティトゥ達の話が上手くいけばいいんだけど。
僕は一人、庭からみんなの背中を見送ったのであった。
話し合いの中休み。一度庭に戻って来たティトゥ達から、僕は予想外の話を聞かされた。
「ええと、ゴメン。悪いけどもう一回説明してくれるかな? 山賊退治だっけ? 何でそんな話になった訳?」
『それが、私も何でそうなったのか――』
首をかしげるティトゥに、ラダ叔母さんが苦笑した。
『スマンなハヤテ。外国人のお前達をこんな話に付き合わせる事になってしまって』
「いや、それは別に構わないんだけど、ちゃんと事情を説明してくれないかな? 突然、山賊退治とか言われても意味が分からないんだけど」
『――と言ってますわ』
『うむ』
ラダ叔母さんの説明によると、ハルデン達の反応は悪くなかったようだ。
しかし協力は約束できないという。なんでも――
『エルヴィン王子をお支えしたい気持ちは山々だ。自分達も三侯の専横はどうにかしたいとは思っていた。しかし、当主が代替わりしたばかりなので協力するのは難しい。と、そう言われてな』
「それって当主になったばかりだから、今は領地の仕事が忙しいって事?」
『――と言ってますわ』
『それもあるだろうが、本音は違うな。今は戦える状況にない、それを分かってくれ、そういう意味だ』
「?」
叔母さんの話を僕なりに整理したのが次の話となる。
ハルデンは言ってみれば、父親から社長の座を受け継いだばかりのグループ会社の若社長だ。
今はまだ、傘下の会社の社長達から、「コイツは使えるヤツなのか?」「自分達のトップとして従える相手なのか?」と、品定めをされている最中――いわばお試し期間中、といった所だろうか。
そんな時、彼がいきなり「三侯と戦います」などと言い出せばどうなるだろうか?
傘下の社長達からは、「冗談じゃない」「コイツはダメだ」と、呆れ返られてしまうだろう。
呆れるだけならまだしも、「こんなヤツに従っていれば、こっちまで潰されてしまう」と、新社長を見限り、グループを離脱する者も出るかもしれない。
いや、多分、出るだろうな。なる程。僕らは当主交代という最悪のタイミングに訪ねて来たという訳か。
「ふぅん、それで? 向こうが協力出来ない理由は分かったけど、何でそれが山賊退治の話に繋がる訳?」
『――と言ってますわ』
『トマーツ殿がな。急に言い出したのだ』
先代当主のトマーツさんが?
少し前にも説明したと思うが、トマーツさんのお父さん、先々代の当主オスロスさんは、傘下の貴族達の信頼が非常に厚かった。
オスロスさんの息子、トマーツさんも当主に就任した直後は、何かというと偉大な父親と比較され、それはそれは冷ややかな目で見られていたという。
仕方がないとはいえ、いつまでもこのままではいられない、どうにかしないと。そう考えたオスロスさんとトマーツさんは、一計を案じる事にした。ていうか、この頃は普通に親子仲が良かったんだね。
その策とは当時、領内を騒がせていた山賊を、トマーツさんが直々に兵を率いて退治する、というものであった。
『それでいいのか? と言いたそうだな、ハヤテよ。まあ、こういった見た目にも分かりやすい形の功績は、他だと中々難しいからな』
まあ確かに。農作物の生産量を上げる、とか、犯罪検挙率を上げて治安を良くするとか、そういった善行は領民達には実感として伝わり辛いだろうし、経費も時間もかかってしまう。
その点、山賊退治は手っ取り早く、誰の目にも結果が分かりやすい。それに領内の治安が良くなった、と領民達にもハッキリと伝わるという訳か。
オスロスさんはそれだけではなく、聖国王城にも手回しして、国王から賞賛の言葉を貰えるようにしたそうだ。
これによって新当主の箔付けもバッチリ。
トマーツさんはようやく傘下の貴族達に一目置かれるようになったのだという。
ただ唯一の誤算は、彼がこの成功に気を良くして、領地の運営そっちのけで騎士団を率いて悪党退治に精を出すようになってしまった・・・って、トマーツさん、やっぱり見た目通りの脳筋キャラだったんだな。
「けど、それってトマーツさんだから上手く行ったんじゃないの? 彼のキャラに凄く良く合ってたと言うか」
『私も同じ事を思いましたわ。けど、この話を聞いてハルデン様が乗り気になったんですわ』
ハルデンが?
大人しそうな印象だったけど、中身は意外と父親似なのかな?
次回「ハルデンの気持ち」




