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その29 リア充爆発しろ

◇◇◇◇◇◇◇◇


 こうして戦いは終わった。

 船上には傭兵達の無残な死体が転がっている。

 その数およそ二十人。

 襲撃者側の死体は一つもない。

 もしも、傭兵達が下着一枚でなければ――いつもの装備でいたならば、これほど極端な結果にはならなかったに違いない。

 この一方的な虐殺は、襲撃側のトレモ船長達の勝利で幕を降ろしたのであった。


 トレモ船長は囚われていた少女――バニャイア商会の娘、アデラに手を差しのべた。


「アデラお嬢様。大丈夫ですか?」

「ト、トレモ。あっ・・・」


 張り詰めていた気持ちが切れたのだろう。アデラは立ち上がろうとして足に力が入らずに倒れ込んだ。

 トレモ船長は咄嗟に少女を抱きとめた。

 船長達襲撃者は、全員傭兵達の返り血で赤く染まっている。

 アデラの服に赤黒い汚れが染み付いた。


「す、すみません。服を汚してしまって。けど、大分船が傾いているんで、おかしな倒れ方をしたら、ケガをするかもしれないと思ったもんで」

「ううん。構わない・・・か・・・ら・・・ぐすっ」

「お嬢様?」


 頼もしい温もりが、恐怖で固く閉ざされていた少女の心をこじ開けたのだろう。

 アデラはトレモ船長に縋り付くと、声を押し殺して泣き始めた。

 安堵の涙がポロポロと流れ落ち、少女の頬を熱く濡らす。

 トレモ船長は彼女が落ち着くまで、黙って胸を貸し続けるのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 僕は再び高度を取ると、船の上空へと戻って来た。


『どうやら、戦いは無事に終わったみたいですわね』


 こちらを見上げて笑顔で手を振る船乗り達の姿に、ティトゥはホッと安堵のため息をついた。

 さっきは危ない所だった。下着一枚の剣を持った男と、貴族っぽい見た目の小太りの男の二人が、少女を人質にトレモ船長達を脅していたのが見えたのだ。

 慌てて高度を落として攻撃を加えようとしたものの、敵は人質に密着していて狙えない。

 そこで僕は急遽、標的を変更する事にした。

 船のマストを選んだ理由は特にない。

 僕の攻撃で敵の注意がこちらに向けば、その隙にトレモ船長達がなんとかしてくれるかもしれない。そう考えたのだ。

 これは賭けだった。

 もし、トレモ船長達が僕の意図に気付かなければ、逆に人質の命が危険に晒されかねなかった。

 そしてどうやら僕達は賭けに勝ったようだ。

 船乗り達の笑顔がその証拠である。 


 メイド少女カーチャは風防に額を押し付けて船を見下ろした。


『あそこでトレモ船長と抱き合っているのがアデラさんでしょうか?』

『きっとそうですわ』

「「ギャウギャウ!(※さっきの砲撃以来、ずっと興奮して騒いでいる)」」


 ティトゥもカーチャも嬉しそうに話しているけど、船の上は傭兵達の血まみれの死体がゴロゴロ転がっているからね。

 甲板の上まで真っ赤だし、女の子が見ていい光景じゃないと思うんだけどなあ。

 この世界の女の子の精神がタフなのか、それとも遠く離れた空の上にいるから現実感が無いだけなのか。


『ハヤテ?』

「何でもない。それより、そろそろ燃料が心細いから陸地に戻るよ」

『りょーかい、ですわ』

「「ギャーウー(りょーかい)」」

『・・・・・・』


 みんなが返事をする中、カーチャだけが無言だった。

 以前、僕にからかわれたからなのか、僕の日本語が分からなかっただけなのか。


『ボソッ(り、りょーかい)』


 あ、コッソリ小声で言ってた。やっぱり仲間外れはイヤだったようだ。


「ギュウ?(カーチャ姉?)」

『な、何でもないですよ、ハヤブサ様』


 そしてハヤブサに不思議そうに見られて慌てている。


『ブザマ』

『なっ! ハヤテ様、どういう意味ですか!』


 カーチャは顔を赤くして声を荒げた。


『もう。あなた達は・・・どうしてそういつもケンカをするんですの?』

『私のせいじゃありません! ハヤテ様が私に意地悪を言うんです!』

『サヨウデゴザイマスカ』

「「ギャウギャウ!(カーチャ姉、頑張って!)」」


 僕は荒ぶるカーチャに文句を言われながら、港町アンブラを目指すのだった。




 夕方。

 僕達は今朝訪れたヒーグルーンの港に、聖国メイドのモニカさんを迎えに来ていた。

 モニカさんは、何と言うか、立場の高そうなオジサン達と一緒に、港で僕の到着を待っていた。


『遅くなりましたわ』

『いえ、そのような事は。――あの、ハヤテ様はどうかされたのですか?』


 モニカさんは僕を見上げて不思議そうな顔をした。


『何か気になる事でもあるようなご様子ですが』

『・・・よく分かりましたわね。さっきからずっとこんな感じなのですわ』


 ティトゥは呆れ顔で僕に振り返った。

 

『ハヤテはトレモ船長に嫉妬しているんですわ』

『トレモ船長に? ですか?』


 ちょ、ティトゥ! 誤解を招くような事を言わないでくれないかな!

 確かに僕は今、ちょっとだけモヤモヤしてるけど、これは決して嫉妬なんかじゃないから。僕はそんな小さな男じゃないから。


『一体何があったんですか?』

『それが――』


 ティトゥはモニカさんに港町アンブラで起きた誘拐事件のあらましを説明した。

 トレモ船長達は誘拐犯を全滅させ、攫われたお嬢様を救い出し、無事に親御さんの元に送り届けた。


『そんな事があったんですね』

『その後の話ですわ』


 トレモ船長は雇い主のバニャイア商会の商会主に、バーバラ島で起こった一連の出来事を報告したようだ。

 誘拐事件なんかがあったのですっかり忘れてたけど、僕らは本来、そのためにトレモ船長を港町アンブラまで連れて行ったんだっけ。

 商会主のフランコさんは、一も二もなく賛成してくれたそうだ。

 なんなら商会をあげて全力でバックアップすると約束してくれたらしい。

 なにせ聖国王家との直接取引だからね。フランコさんの気合の入り様も分かるというものだ。

 以下、その時の話。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 フランコさんは満面の笑みでトレモ船長の肩を叩いた。


『これでアデラも安心してトレモの所に嫁に出せるというものだ』

『いえ、あの、こんな時に突然すみませんでした』

『何を謝る事があるの? おめでたい話じゃない。娘をよろしくねトレモ』


 トレモ船長は、終始上機嫌なフランコさん夫妻に挟まれて、恐縮至極といった感じで体を小さくした。

 ん? みんな何の話をしているのかな?


『じ、実は、帰りの船の中でアデラお譲さん――ゴホン。アデラにプロポーズをしまして』

『まあ!』


 はあ?! 君、一体何を言ってる訳?!


 実は人質になっていたアデラお譲さんは、前々からトレモ船長の事が好きだったらしい。

 トレモ船長も薄々彼女の気持ちに気付いていたものの、相手が雇い主の娘さんという事もあって、一歩踏み出す勇気が持てなかったそうだ。

 それがこんな事になって、お互いに秘めていた想いが爆発してしまった。

 帰りの船の中、二人は自然に気持ちを打ち明け合い、結婚の約束をしたんだそうだ。

 つまりあれか? 吊り橋効果というヤツか? ピンチのドキドキが恋愛のドキドキになるっていう、映画や漫画でお馴染みのアレか?

 ていうか、フランコさん達はそれでいい訳? 自分のトコロの社員が大事な一人娘を下さいって言い出したんだよ?


『一人娘? アデラの上には兄と姉が二人づつおりますが?』

『上の娘二人は付き合いのある商家に嫁に出しましたが、一番下のアデラくらいは、好きな人の所に嫁いで欲しいと思っていたんですよ』


 兄二人はとっくに独り立ちして、今は立派にバニャイア商会を切り盛りしているという。姉共々、既に孫が何人も生まれているそうだ。

 そういやこの世界の二人の年齢なら、そのくらいの年齢の子供がいたっておかしくないのか。

 実は両親としては、歳を取って最後に授かった子宝、一番下の娘くらいは、商会のしがらみに縛られずに自分の好きな人と結婚して欲しかったんだそうだ。

 で、その娘さんが選んだのがトレモ船長だったと。


 あれ? なんだろう。微妙に釈然としないこの気持ち。

 つまり今回の僕達って、トレモ船長の引き立て役だったって事?

 彼が故郷で一旗揚げるためのお膳立てを整えて、悪者からお姫様を助け出すナイトの役目を演出して、二人は結ばれてハッピーエンド。

 仕事に成功して、アクションシーンがあって、最後にラブストーリーって。これってまるでトレモ船長が主人公の物語じゃん。僕ら完全に脇役じゃん。

 僕だって今回は結構頑張ったと思うのに、何なのコレ。本気でモニカさんから君や島の人達を心配した、僕の気持ちを返して欲しいんだけど。ついでにリア充爆発しろ。


 僕が憮然としているのを察したのだろう。トレモ船長は気遣わしげな表情で僕を見上げた。


『あの、どうかしたんですかハヤテ様』

『リアジュウ バクハツ シロ』

『は? りあじゅ? ですか?』

『こんな時のハヤテの言葉は真に受けなくてもいいですわ』


 ティトゥは呆れ顔でトレモ船長に答えたのだった。

次回「元老院議長選挙」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 確かにこの章は完全にトレモ船長が主役でしたねw これは現地版のドラゴン劇(窮地におちいった青年がドラゴンの助けを借りて愛を成就するというハッピーエンドラブストーリー)上映待ったなしやね.
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