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その28 船上の死闘

◇◇◇◇◇◇◇◇


 トレモ船長は先陣を切ってハヴリーン商会の船に乗り込むと、手にした剣を大きく振り上げた。


「野郎共、やっちまえ! 相手が傭兵だろうが関係ねえ! 皆殺しだ!」

「「「「おおーっ!!」」」」


 武装した船乗り達が、次々と商会の船に飛び移った。


「ひいいいっ!」

「た、助けてくれ!」

「バカ野郎! 邪魔だ、どけ!」


 ハヴリーン船の船員達は、突然の襲撃に怯えて傭兵達に縋り付いた。

 だが、傭兵達は全員船の中に武器を置いたままにしている。

 その上彼らは防具すら身に付けていない、下着一枚の姿だ。

 攻撃するための武器も無し、身を守るための防具も無しでは、いくら戦い慣れした傭兵達とはいえ戦う(すべ)はなかった。


「ギャアアアアアッ!」

「く、クソがっ!・・・ぐあああっ!」


 傭兵達はあっけなく切り殺されていく。

 船のあちこちで一方的な虐殺が繰り広げられた。


「傭兵だろうが何だろうが関係ねえ! 相手は武器も持たない丸裸だ! 殺せ! 息の根を止めろ!」

「チクショウ! ぐはっ・・・」

「テメエら船乗り風情が――ぎゃあああ!」

「ひっひいいいいっ! お、俺達は傭兵じゃない! た、助けてくれ!」


 ハヴリーン船の船員達は算を乱して逃げ惑う。

 傭兵達は必死の抵抗も虚しく、みるみるうちに血の海に沈んでいった。

 この時になって、ようやく武器を手にした傭兵が船内から現れた。 

 彼らは仲間の死を前に、顔を真っ赤にして怒気を漲らせた。


「なっ! テメエらこんな真似をして、ただで済むと思うなよ!」

「こっちに武器を持った傭兵がいるぞ! 油断するな!」

「思い知らせて――ぎゃあ!」

「よし! 今だ、怯んだぞ! 一斉にかかれ!」


 しかし、この時点で、既に船の上は、ほぼ襲撃者によって制圧されていた。

 彼らの参戦も焼け石に水。

 武器を手にした傭兵だろうと、数の暴力には敵わない。

 四方八方から同時に攻撃され、彼らは全身血だらけになって甲板の上に倒れたのだった。


 こうして戦闘が開始してから僅か数分。

 骸骨団(コステラ)は、トレモ船長ら襲撃者達によって、あっけなく壊滅されてしまったのであった。




 戦いが終わった甲板の上は、まるで赤い絵の具をぶちまけたようになっていた。

 潮の匂いに血の匂いが混じり、錆臭い吐き気を催す悪臭が漂っている。

 こうして全ては終わった。――いや、違う。彼らがここに来た目的がまだ終わっていない。

 トレモ船長は、降伏したハヴリーン船の船員の胸倉を掴み上げた。


「おい! この船にアデラお嬢様――若い娘が連れ込まれているだろう! 案内しろ!」

「は、はひいいいいっ!」


 船員は血の付いた剣を突き付けられ、ガクガクと体を振るわせた。

 トレモ船長は、仲間の船乗り達に振り返った。


「何人かは俺に続け。残りは傭兵共に止めを刺して回れ。死んだふりをして機会をうかがっているヤツがいるかもしれねえ。くれぐれも油断はするなよ」

「「「おう!」」」

「は、はひいいいいっ!」


 気の毒に、ハヴリーン船の船員の顔からは、すっかり血の気が引いて紙のように真っ白になっている。

 彼はトレモ船長に促されて船内に入ろうとして――「ぎゃっ!」蹴り飛ばされて床に転がった。


「おおっと、誰も動くんじゃねえぞ」


 哀れな男を蹴り飛ばして現れたのは、傷だらけの凄みの有る男だった。

 今となっては骸骨団(コステラ)のたった一人の生き残り。団長のガドラスである。

 ガドラスは利き手に剣を、そして左手に少女の細い腕を掴んでいた。


「アデラお嬢様!」

「ト、トレモ!」

「ひ、ひいいい、お、お前達、俺に近付くな!」


 後ろ手に縛られ、ガドラスに引っ張り出されたのは、うら若き少女だった。

 バニャイア商会の娘、攫われた少女アデラである。

 そしてアデラを羽交い絞めにしている、顔中白塗りの異相の青年。

 こちらはこの騒ぎの元凶。評議会議長の孫、ペル・ハヴリーンである。


 アデラは少し疲労している様子だが、どうにか気丈に振る舞っている。

 着衣にも大きな乱れは見られない。

 どうやら傷付けられたり乱暴されたりしてはいないようだ。

 トレモ船長はひとまずその事に安心した。


 ガドラスは周囲の惨状を見回すと、「チッ」と舌打ちをした。


「テメエらよくもやってくれたな。おい! この娘の命が惜しければ、この船の船員を放せ!」


 ガドラスの恫喝に、トレモ船長の部下達は思わず後ずさった。

 船員達がおっかなびっくり立ち上がる。


「おい、向こうの船に乗り移れ! コイツらの船を頂いていくぞ!」


 船員達はガドラスの指示で慌ててトレモ船長達の船に向かった。


「テメエらは動くなよ。この娘がどうなるか分かっているよな?」


 トレモ船長達はガドラスを睨み付けるだけで一歩も動けない。

 もし、誰かが迂闊に動けば、この男はためらいもなく人質の少女を切り殺すだろう。そう思わせるだけの凄みがこの男にはあった。


「・・・船長」

「・・・ダメだ、動くな」


 トレモ船長達は僅かなチャンスも見逃すまいと、武器を持つ手に力を入れた。

 しかし、その動きが怯えたペル・ハヴリーンを刺激してしまった。


「お、お前ら全員武器を捨てろ! こ、この女がどうなってもいいのか!」

「! ・・・ちっ!」


 トレモ船長達は渋々、武器を足元に転がした。

 ペル・ハヴリーンは相手が武器を失った事、そして相手が自分の命令に従った事で、すっかり調子付いてしまった。


「は、ははっ! 情けないな! お前達この女を助けに来たんじゃないのか? なのになんだその姿。完全に俺の言いなりじゃないか。俺達がコイツを人質にするとは思わなかったのか? ははははは! バカ共め。剣を降り回すだけで頭は足りていないようだな」


 ペル・ハヴリーンは悔しがるトレモ船長達をあざ笑うと、アデラの髪の毛を掴んだ。


「バニャイア商会はバカばかりだ。良かったなアデラ、あんなヤツらと縁が切れて。俺が連れ出してやった事に感謝しろよ」


 だが、ペル・ハヴリーンがいい気になっていたのはここまで。

 彼の笑いは即座に凍り付いた。

 ペル・ハヴリーンの視線の先。夏の陽光を反射して、大きな翼がこちらに向かって一直線に向かって来たのだ。


「ひっ・・・ば、化け物!」


 グオオオオオオオオッ!


 大きなうなり声が響き渡ると共に、ハヤテの四門の機関砲が唸りを上げた。


 ドドドドドドドドド!

 バリバリバリバリ!


 20mm機関砲の弾丸は、ハヴリーン船の帆に集中した。

 厚手の帆布はズタズタに引き裂かれ、焼夷弾で焼けて火の粉を撒き散らした。


「ひいいいっ! ガ、ガドラス、お、俺を助けろ!」

「なっ! このバカ! 何しやがる!」


 ペル・ハヴリーンは恐怖に我を忘れて、この場に残った最後の味方――ガドラスに縋り付いた。

 ガドラスは突然、護衛対象にしがみつかれて身動きが取れなくなった。

 トレモ船長はこの隙を見逃さなかった。彼は足元の剣を拾うと大きく前に突き出した。


「バカ、離れ――ぐっ・・・」


 ガドラスの胸にトレモ船長の剣が深々と突き立てられた。

 彼はそれでも剣を振り上げたが、その時にはもう何人もの船乗り達が彼に切りつけていた。


「――ぐふっ!! くそっ・・・こんな仕事・・・受けるんじゃ・・・なかった・・・ぜ」

「ガ、ガドラス!」


 ガドラスは全身をなますに切り刻まれ、血だまりの中に倒れた。

 倒れた彼に追い打ちの攻撃が襲い掛かり、彼は無数の剣に刺されて死んだ。

 傭兵達の間にその名を轟かせる、骸骨団(コステラ)のガドラスのあっけない最後だった。


「ガ、ガドラス! ち、違う、俺は、俺のせいじゃ・・・。そ、そうだ、アデラ!」


 ペル・ハヴリーンは人質の存在を思い出し、慌てて手を伸ばした。

 ――が、その手は横から伸びたトレモ船長の手に掴まれていた。


「これ以上、好きにやらせるものかよ」

「ひいっ! い、イヤだ! た、助けて――ゲッ、ゲフッ」


 トレモ船長は無言でペル・ハヴリーンを引き寄せると、その胸に剣を突き刺した。

 剣は肺を突き破り、ペル・ハヴリーンは血の塊を吐き出した。

 彼は泣きじゃくりながら床に崩れ落ちた。

 白塗りの顔は、血と涙の跡でぐしゃぐしゃに汚れていた。


「ヒッ、ヒッ、い、痛い・・・ゴフッ。痛いいたいいたいゲホゲホ・・・こんなのウソだ・・・死にたく・・・な・・・い・・・死・・・な・・・」


 ペル・ハヴリーンは血だまりの中で弱弱しくもがいた。

 胸を焼く激痛の中、やがて彼は意識を失い、そのまま二度と目覚める事はなかったのである。

次回「リア充爆発しろ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 某海賊漫画の斧手の大佐の様に血縁者だけど無能は知らんって、ペルが死んだ事をハヴリーン老が切り捨て無いでトレモ船長に殺された事を知って激高するなら選挙戦(物理)に移行しそうだ
[一言] 意外とすっきり、あっさり戦闘が終わったなあ 捕まえて交渉材料にすると思ってました そして「バカ息子いらん」と言われて扱いに困るところまで予想してたのに
[良い点] パンチラの後継者ペル・ハヴリーン死す…。彼の死はハヴリーン老にどんな影響を及ぼすのだろうか…。 それはそうと戦闘ヘリみたいに小回り効かないのによくいいタイミングで援護射撃できたもんだ…さ…
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