表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
401/803

その15 マチェイ家の姉妹

 そんなこんなで翌日。

 僕はティトゥ達を乗せて、再びヨナターン家のお屋敷に舞い戻っていた。


 えっ? 何あれ。


『すごい人だかりですわ』

『何があったんでしょうか?』


 驚きに目を見張る僕達。

 そう。ヨナターン家の屋敷の周囲はビッシリと人で埋め尽くされていたのだ。

 空を見上げて僕を見付けた人が、こちらに向かって手を振ると、それを見た周囲の人達がこちらに向かって一斉に手を振り始めた。

 この高度まで彼らのあげる歓声が聞こえてくるようだ。


『なんでしょうか? 何だか怖いです』

「ギャウ! ギャウ!(※何故か興奮している)」


 野次馬達の熱狂ぶりにメイド少女カーチャはすっかり腰が引けている。

 ティトゥは興奮するファル子を捕まえると、こういう時のために用意しておいた、適当な大きさの木の棒を咥えさせた。

 木の棒齧りは、最近のファル子のお気に入りの遊びである。

 ティトゥはファル子がむずがった時のために、事前に何本か持ち込んでいた。


 ファル子は鼻息も荒く、ガジガジと木の棒を齧り始める。

 彼女の興奮にあてられたのか、ハヤブサも棒の端を咥えて引っ張り始めた。


「フゥーッ! フゥーッ!」

「ウウウウッ!」

『こら! ケンカをしてはダメですわ!』


 ティトゥは慌ててもう一本棒を取り出すと、そちらをハヤブサに与えた。

 屋敷の周囲も操縦席の中も大騒ぎだ。なんなのこれ?


『お屋敷の方で何かあったんでしょうか?』

『そうかしら? 馬車の支度は済んでいるみたいだし、見送りじゃありませんの?』


 言われてみれば、屋敷の入り口には二頭立ての馬車が停まっている。その数六台。

 馬車の護衛だろう。馬を引いた騎士団員達が、その前後にズラリと並んでいる。

 流石に六台は多すぎなんじゃない? と、思うけど、次期国王の奥さんが移動するとなると、そのくらいの準備は必要なのかもしれない。

 そして庭には大きな荷馬車も用意されている。多分、ティトゥが頼んだ僕用の荷馬車だろう。


『見送りにして様子がおかしい気もしますが・・・』

『でも出発準備はとっくに整っているみたいですわ。だったら私達も急ぎましょう。ハヤテ!』

「了解。了解」


 僕は翼を翻すと、屋敷の中庭へと着陸コースを取った。




 僕は野次馬達の視線を浴びながら降下。いつものように海軍式三点着陸をピタリと決めた。


 ババババババ。


 プロペラ風に巻き上げられた新緑の木の葉が周囲に散る。


『『『『『うわあああああああっ!!』』』』』


『なっ! 何なんですの?!』

「「ギャウー!」」


 突然湧き上がった大きな歓声に、ティトゥ達が驚いて周囲を見回した。

 しかし、残念ながらここからでは屋敷が視界を遮って、野次馬達の姿は見えない。


姫 竜 騎 士プリンセス・ドラゴンライダー!』『姫 竜 騎 士プリンセス・ドラゴンライダー!』


『やっぱり見送りの人達じゃなかったんですよ! あの人達はきっとハヤテ様とティトゥ様を見に来たんです!』


 カーチャは姫 竜 騎 士プリンセス・ドラゴンライダーの大合唱に負けじと、大声で叫んだ。


『そう・・・なのかしら?』

「ウギャウ・・・」


 思いもよらない展開に、ティトゥは唖然としている。

 そしてファル子達は大声にすっかり怯えているようだ。今はカーチャに抱かれて丸くなっている。


『ハヤテ、どうしたらいいのかしら?』


 いや、僕に聞かれても困るんだけど。

 屋敷の外では相変わらず姫 竜 騎 士プリンセス・ドラゴンライダーコールが続いている。

 戸惑う僕達の下に、屋敷の騎士団員達が駆け付けた。


『ナカジマ様! 今は一先ず屋敷の中に!』

『説明は中で致します! とにかく今は急いで!』


 ティトゥとカーチャはおっかなびっくり。それぞれファル子達を抱えて降りると、騎士団員達は『失礼します!』と言って、手分けして僕の上に布をかけ始めた。

 どうやらここの騎士団が使っている天幕のようだ。

 僕はみるみるうちに天幕ですっぽりと覆われてしまった。

 視界を奪われた中、ティトゥの慌てる声が聞こえる。


『あなた達ハヤテをどうするつもりなんですの?!』

『申し訳ありません。しかし、こうでもしないと領民の興奮が収まりませんので』


 どうしよう? 別に紐で縛られたわけじゃないし、このくらいの布なら、動力走行(タキシング)で振り落とせると思うけど。


 ・・・とにかく、今の状況が分からない事にはどうしようもないな。


 ティトゥ達の身に危険がある様子もないし、ここは騎士団員達の申し訳なさそうな顔に免じて、少し様子を見るか。


 ティトゥはしばらくの間騎士団員達と何やら言葉を交わしていたが、やがて足音が遠ざかって行った。

 どうやら屋敷の中に入ったようだ。

 僕は姫 竜 騎 士プリンセス・ドラゴンライダーの大合唱の中、落ち着かない気分でティトゥ達の帰りを待つのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 ティトゥ達が屋敷に入ると、使用人達の好奇の目が集中した。

 メイド少女カーチャが、居心地が悪そうに体を小さくする。

 ティトゥが事情を尋ねるより先に、屋敷の二階から当主のヨゼフスが降りて来た。


「ナカジマ様、少し困った事になってしまったね」

「外の騒ぎの事ですわね? 一体何があったんですの?」


 ヨゼフスにとってティトゥの返事は意外だったようだ。


「何を言っているんだ? あの声が聞こえているだろう? みんな君をひと目見ようと集まったんだよ」


姫 竜 騎 士プリンセス・ドラゴンライダー!」「姫 竜 騎 士プリンセス・ドラゴンライダー!」


 群衆の声は、未だに止むことなく続いている。


「私、あの人達の前で何かしたかしら?」

「本気で言ってるのかね? 君はこの国の英雄じゃないか」


 昨年末、帝国は五万の南征軍をもって、この半島を蹂躙しようと試みた。

 隣国の王都は攻め落とされ、王家の者はことごとくその首を刎ねられた。

 こうして隣国ゾルタはあえなく滅んだ。


 そして帝国軍の侵略の魔の手は、遂にこの国にまで及んだ。

 この未曾有の国難からこの国を救ったのがカミルバルト将軍である。

 そして彼と共に帝国軍と戦い、敵の主力である”白銀竜兵団”を壊滅させたのが、姫 竜 騎 士プリンセス・ドラゴンライダーであった。


「それは違いますわ。あの時帝国軍と戦ったのはハヤテで、私は砦にいたのですわ」

「? しかし、あのドラゴンはナカジマ殿の物だろう? それに女だてらに戦場に立つなど、なかなか出来る事ではない」

「ハヤテは誰の物でもありませんわ! 私達は契約を交わしたパートナーなのです!」


 ティトゥはヨゼフスの言葉を否定しながらも、ようやく屋敷の外に群衆が集まっている理由を察した。

 彼女にとって帝国軍との戦いは、もう半年以上も前の事となる。

 その上、つい最近まで大陸最大の国家、チェルヌィフ王朝を訪れ、そこで様々な事件に巻き込まれたり、時には自ら首を突っ込んだりしていた。

 早い話が、ティトゥは”国を守った事などすっかり忘れていた”のである。


 ここでやや補足説明をしよう。

 群衆の熱狂ぶりは、ヨナターン領の土地柄も関係している。

 ヨナターン領は王都から最も遠い、この国の最南端に位置する領地である。

 端的に言えばド田舎なのだ。


 昨年、王都ではティトゥとハヤテ”姫 竜 騎 士プリンセス・ドラゴンライダーブーム”が巻き起こった。

 二人をテーマにした芝居が何本も掛けられ、連日満員御礼の大ヒットとなった。

 以前の話に出た、ティトゥ完全監修シェダシェスタ一座の演目”ドラゴンは姫を乗せ王国の空を飛ぶ”もその一つである。


 とはいえ、いつまでもブームが続く訳ではない。

 客足の減った劇団は王都から離れ、近隣の町を回りながら演目を続けた。

 ちなみにこれは何も今回に限った話ではない。劇団にとっては最大の興行主(プロモーター)は確かに王都の劇場だ。

 しかし、多くの劇団はいつもこうやって各地の町を回っては日々の稼ぎを得ているのである。

 この巡業でも、姫 竜 騎 士プリンセス・ドラゴンライダーの芝居は連日大喝采を浴びた。

 大手の劇団は王都周辺や領主のお膝元の大きな町で。中規模の劇団はその近隣の小さな町で。小規模の劇団は大手劇団の芝居を無断で丸パクリして各村々で。彼らはこの国のあちこちで姫 竜 騎 士プリンセス・ドラゴンライダーの芝居を繰り返し公演した。

 TVも動画配信もないこの時代。娯楽情報(コンテンツ)の寿命は、現代の我々の感覚よりもずっと長く続くものなのである。


 こうしてこの春。王都から遠く離れたこのヨナターン領にも、ようやく姫 竜 騎 士プリンセス・ドラゴンライダーブームが到来した。

 折しもこの冬、(くだん)の”新年戦争”でドラゴンが帝国の軍隊を相手に圧倒的な活躍をみせたばかりである。

 新しい物を敬遠しがちな田舎の人間も、話題のドラゴンが登場する芝居とあって、連日こぞって多くの者が見に行った。

 また、利に(さと)い劇団は、ここぞとばかりにシナリオに新年戦争の要素も盛り込んだ。

 その結果、一本のお話として見た場合、かなり支離滅裂な内容になってしまったのだが、少しでも姫 竜 騎 士プリンセス・ドラゴンライダーの活躍が見たい観客達にはむしろ喝采を以って受け入れられた。


 こうして現在、ヨナターン領は空前の姫 竜 騎 士プリンセス・ドラゴンライダーブームに沸き返っていた。

 そんな状況で昨日、領主の屋敷に謎の巨大生物が飛来した。

 勿論、屋敷の使用人達もその多くは姫 竜 騎 士プリンセス・ドラゴンライダーのファンである。

 彼らはミーハーなファンむき出しで、屋敷の外で昼間の出来事を自慢した。

 そして町でも何人もが空を飛ぶハヤテの姿を目撃しており、噂話はあっという間に町中に広がっていった。

 田舎のネットワークを甘く見てはいけない。田舎あるあるである。


 こうして今日。彼らはひと目姫 竜 騎 士プリンセス・ドラゴンライダーを見ようと、領主の屋敷に集まり、黒山の人だかりとなってしまったのだった。

 



 ティトゥがヨゼフスにこれからの予定を聞こうとしたその時。

 彼女は部屋から出て来た一人の少女にハッと目を奪われた。

 年齢は日本で言えば高校生くらい。地味な余所行きのドレスの貴族の少女だ。

 彼女の姿を見た途端、ティトゥは驚きのあまり言葉を失くしてしまった。


 まさか彼女とこんな場所で再会する(・・・・)とは思わなかったからである。


 そして主人の様子に気付いたカーチャも、ティトゥの視線の先に少女を見付け、同じく驚きに目を見張った。


「クリミラ様・・・」


 カーチャにクリミラと呼ばれた少女は嬉しそうにほほ笑んだ。


「久しぶりね。ティトゥ姉さん(・・・・・・・)。カーチャ」

次回「末妹クリミラ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 流石に生まれる前だけど、ビートルズの初来日時みたいな感じなんだろか?  (いやその頃でもTVはあるか)  歌うドラゴンとして一曲期待されてんだろなあ 『いかにも。我こそは誇り高きドラゴ…
[良い点] そういや一応救国の英雄だったね… [気になる点] 妹…だと… ハヤテ:(お兄様って呼んでくれないかな…いや、兄さんも捨て難い…う~ん…) カーチャ:ハヤテ様が何かまた考え事をしてるみた…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ