400回特別編◇ハヤテメモ◇
今回で『戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ』も400回となります。
いつもこの小説を読んで頂き、ありがとうございます。
――400回と言いつつ、冒頭に【第十二章までのあらすじ】を追加したり、途中に『登場人物紹介』を挟んだりしているので、そういった”お話以外”の回を抜けばまだ400回では無いのですが。
今後は、そういった回も全てひっくるめて更新回数に数える、という事でお願いします。
その夜、僕は明日から始まる護衛任務を控えて、いつものようにテントの中で一人ボンヤリと考え事をしていた。
そういえば、僕がこの世界に四式戦闘機として転生してから、もう一年以上になる。
ここまで色々な事があったし、この国の事も結構分かって来たんじゃないだろうか。
今夜の暇つぶしは、これまで分かった事を振り返って、一度現状を心のメモ帳にザックリ整理してみる事にしよう。
◇◇◇◇ミロスラフ王国が存在する世界◇◇◇◇
まず大前提として、この世界は地球と似て異なる異世界である。
いわゆるパラレルワールドと言ってもいいだろう。
惑星の名前はリサール。こっちの世界の古い言葉で”大地”とかそんな感じの意味らしい。かつては同名の神様も信仰されていたようだ。
パラレルワールドなのに、こちらの世界だけ未だに中世の世界観を引きずっているのにはちゃんとした理由がある。
それは今から大体五百年前。
日本で言えば戦国時代の頃、この惑星上に突如として大量の新元素が発生した。
それは魔法を媒介する未知の元素”マナ”。
大量発生したマナは、発生直後にその場に存在する物質と反応。大爆発を起こした。
その威力は凄まじく、大陸は半ばから消し飛び、ティトゥ達の住む現在の大陸と、ネドマと呼ばれる生物群の跋扈する”魔境”と呼ばれる大陸へと分かれてしまった。
この未曽有の大災害で人類の総数は激減。文化も文明も、宗教すら失ってしまう事となった。
しかし、それでも人類はしぶとく生き残り、そこから五百年かけてジワジワと現在の国体を取り戻したのだった。
◇◇◇◇ミロスラフ王国を取り巻く国々◇◇◇◇
ティトゥ達の住むこの大陸。地域ごとに名前は付いていても、どうやら大陸そのものには特に名前は付けられていないようだ。
ここに住む人達にとって”大陸”と言えば、自分達の住むこの大陸の事を指すらしい。
ティトゥのナカジマ領があるのはミロスラフ王国。
ミロスラフ王国はペニソラ半島と呼ばれる半島の半ばに位置していて、北に小ゾルタ、南に都市国家連合の三国(と言っていいのかな?)に分かれている。
半島の付け根には、昨年この国にも攻め込んで来た迷惑国家、ミュッリュニエミ帝国が存在している。
帝国の皇帝はヴラスチミル。領土的野心の強い愚王だ。
その帝国の東には、大国のチェルヌィフ王朝が。帝国の領土拡大を阻むような形で存在している。
チェルヌィフは商人の国と言われ、大陸の総面積の四割近くを占める超大国である。
ただし、その国土の半分近くは砂漠によって占められている。その広さはなんとタクラマカン砂漠の二倍以上にもなるのだ。
帝国の西には大小複数の国家による小国家群、”西方諸国”が存在している。
僕はまだ行った事が無いが、実際に訪れた事のあるチェルヌィフ商人のシーロによると、「ごちゃごちゃしていて面白いが、どこもしみったれた国」なんだそうだ。なんとも手厳しい評価だね。
その西方諸国の南の海上には、マリエッタ王女の住むクリオーネ島が浮かんでいる。四国程の大きさのこの島は、そのほとんどがランピーニ聖国によって治められているそうだ。
◇◇◇◇ミロスラフ王国◇◇◇◇
ここからはミロスラフ王国について語っていこう。
ミロスラフ王国は半島に存在する小国である。
総面積はクリオーネ島の半分程度。その国土の大半は、山だったり高原だったりでロクに人の住まない不毛地帯によって占められている。
◇◇◇◇人物紹介・ナカジマ領◇◇◇◇
先ずはこの国での僕の居候先、ナカジマ領の人達の紹介から。
◇ティトゥ
まるで二次元から飛び出して来たような美少女。ピンクレッドのゆるふわヘアーに大きな胸――ゲフンゲフン。魅力的なスタイルをしている。
元マチェイのお嬢様で、今はナカジマ領の領主様。
こうと決めたら脇目もふらずに猪突猛進。中二で正義感の強い僕のパートナー。
・・・それだけかって? いや、何だかティトゥの事を語るのって照れくさくて。
ああそうだ、せっかくなのでこれだけは言っておこうかな。君が中二なのはいいけど、僕の活躍を盛るのは止めてくれないかな。いや、ホント。後、貴族のマナーを苦手としているなら、少しは覚える努力をした方がいいんじゃない? 君はもうナカジマ領の領主なんだからさ。それと、僕がどこかに出かけようとすると必ずついて来るのも控えて欲しいんだけど。その度に代官のオットーが恨めしそうに僕を見上げるのがいたたまれなくて。ああそうそう、仕事をサボる口実に僕を使うのも止めて欲しいんだけど。そりゃあ書類仕事が大変なのは同情するけど、代官のオットーの視線がさ。それと――後は――ついでに――そうそう――やっぱり――ああ、そういえばこの間――前から思っていたけど・・・
いかんいかん。このままだとティトゥ(への愚痴)だけで終わってしまいそうだ。この辺で切り上げて次に行こうか。
◇メイド少女カーチャ
ティトゥのお付きのメイド少女。
中学生くらいの年齢なのに、随分しっかりしたティトゥのお目付け役。
二人の関係は、主人と使用人というより、ダメな姉としっかり者の妹、といった感じ。
たまに「頑張り過ぎなんじゃないかな?」と心配してしまう事もある。
この世界ではカーチャの歳の子も働いているそうだけど、日本だとまだ中学生だからなあ・・・。
◇代官のオットー
ナカジマ領の代官。ぶっちゃけ、ティトゥが僕に乗ってあちこちフラフラ出来るのは、彼がきちんと領地を治めてくれているからである。
そういう意味では、ティトゥは彼に感謝してもし足りないはずだが、しょっちゅうわがままを言っては迷惑をかけている気がする。
いつもティトゥが申し訳ない。(僕が、ではない。決して)
ナカジマ家の代官になってから、どうにも背中がすすけて見える。
現在単身赴任中である。早く奥さんを呼んで楽をさせてあげたいものである。
◇ファル子とハヤブサ
赤い石から生まれた謎の多い子ドラゴン達。
先日ファル子から、「ママはいつも仕事をしているのに、パパは仕事をしないの?」と言われてショックを受けてしまった。
違うんだよファル子。パパは仕事をしていないんじゃないんじゃない。仕事が無いんだよ。
そしてパパの――戦闘機の仕事が無いという事は、すなわちそれだけ領地が平和だという証拠なんだよ。これって物凄く良い事なんだよ。
・・・と言い訳をしたかったが、ティトゥが僕達の会話に聞き耳を立てているのが分かっていたので、黙っていた。
◇聖国メイドのモニカさん
ランピーニ聖国からやって来た押しかけメイド。
一見優しげな癒し系メイドなのだが、誰にも本性を悟らせない、底の見えない怖い人でもある。
以前、落ち込んだティトゥを心配して励ましてくれた事もあるし、決して悪い人ではないとは思うんだけど・・・
メイド少女カーチャの心の師匠でもある。僕はカーチャの将来が心配だよ。
◇料理人のベアータ
僕が語る、元の世界の料理は、この世界ではドラゴンの食べる料理、ドラゴンメニューと呼ばれている。
まあ実際は僕の四式戦闘機ボディーは食事いらずなんだけどさ。
ベアータは、ティトゥの実家の料理人テオドルに師事した、ドラゴンメニューのスペシャリストである。
幼い見た目にもかかわらず、実はティトゥと同い年である。
すごいバイタリティーの持ち主で、テオドルに師事するまでは、料理修行のためにたった一人で各地を渡り歩いていたそうだ。
火壺こと火炎瓶の投擲でも他の追随を許さない。実は運動神経も良い子なのだ。
◇ユリウスさん
この国の元宰相。今はナカジマ家のご意見番。
日々、代官のオットーを助け、鍛え上げている。長年この国を切り盛りしていた事務処理能力は伊達ではないのだ。
ティトゥとの関係は、わがまま姫と口やかましい爺や? ティトゥは彼の事を煙たく感じているようだ。
国の宰相だった頃は僕達、というか主に僕を警戒していたらしい。そのためか、昔はティトゥに対してもやや当たりが強かった気がする。彼女の領地に、わざわざ湿地だらけのペツカ地方を選んでみたりね。
僕としてもその辺に思うところが無い訳では無いのだが、過去は過去。今はナカジマ家の頼れる門客である。
”実際に会って話してみれば案外いい人だった”といった感じ。
◇チェルヌィフ商人のシーロ
胡散臭い笑みがトレードマークの風来坊商人。偽悪趣味のひねくれものでもある。
元の世界の僕と年齢が近い事もあってか、割と友人感覚で気兼ねなく話せる相手でもある。
今はチェルヌィフ商人のネットワークに在籍して、何やら怪しげな暗躍を繰り返しているそうだ。
彼がもたらす情報は僕達にとって確かに貴重なものだが、正直言って危なかしくて見ていられない。
僕達に救われた恩を返したい、という気持ちは分かるのだが、自分の体も大切にして貰いたい。ティトゥからも彼に言ってくれないかな。
◇土木学者のベンジャミン
言動がとにかくエキセントリックな研究者。
ハッキリ言って面倒くさい人物だが、仕事に関しては本当に優秀だから困ってしまう。ナカジマ領にとっては、今や替えの利かない重要人物となっている。
あんな性格なのに。
彼を紹介してくれたセイコラさんは、人を見る目が確かだったという事だね。
◇◇◇◇ミロスラフ王国・貴族◇◇◇◇
ここからはこの国の貴族について語っていこうと思う。
ミロスラフ王国の成り立ちは、後に王家となるミロスラフ家と、建国の功のあった七家を合わせた八家からスタートしている。
彼ら七家には”列侯”という称号が送られ、それぞれが領地を治め、後に貴族家を興した。
この国は王家を中心にして八つの領地が集まった、ある種の連合国なのだ。
この国の貴族は、七列侯をご先祖様とする七家の”上士位貴族”と、彼らの下に就く”下士位貴族”という二つの階級が存在している。
会社で例えるならば、上士位貴族が本社の社長。下士位貴族が支店の社長といった所だろうか。
上士位貴族には下士位貴族を任命する権利が与えられていて、彼らは自分の部下に貴族位を与えたり取り上げたりしながら部下の忠誠心をコントロールしているのだ。
こうして長年に渡って安定していた貴族階級に、昨年、新たな一石が投じられた。
上士位にも下士位にも属さない新たな階級、小上士位の誕生である。
任命されたのはティトゥ。
ティトゥはこの国初の小上士位となって、問題だらけの土地とはいえ、領地も与えられたのだった。
しかし、上士位ではないナカジマ家には様々な制約が課せられている。
その一つが、”下士位貴族の任命権が無い”というものである。
これによってナカジマ家は部下を貴族に引き上げ、力を強める事が出来なくなっている。
最も、今は寄り子を作っても与える土地がないので、特に何の問題も無いみたいだけど。
勿論、将来的には困る事になるだろう。
順調に湿地帯の開拓が進んで領地が広くなれば、当然、部下に任せなければ成り立たなくなって来るはずだ。
そうなった時に自前の寄り子(支店長)が任命出来ないのでは、人手が足りなくなってしまうだろう。
しかし、昨年末の帝国軍との戦いで、ティトゥは王家から八人目の”列侯”の称号を贈られている。
つまりナカジマ家は、その気さえあればいつでも上士位へとステップアップが可能なのだ。
とはいえ、領地の開発はまだ始まったばかり。みんなは、「今はまだその時ではない」と考えているみたいだ。
◇◇◇◇上士位貴族◇◇◇◇
ここでは王家を含む上士位貴族について語っていこうと思う。あくまでも僕が知っている範囲なのでご了承を。
◇ミロスラフ王家
言わずと知れたこの国の王家。
現在は空位だが、近々将ちゃんことカミルバルトが即位する予定になっている。
領地はこの国のど真ん中からやや北寄り。平地にも水利にも恵まれた裕福な領地となっている。
◇ネライ家
領地はミロスラフ王家の領地から西。一部海にも面している。
昨年の春、そこから隣国ゾルタの船が上陸し、領内を荒らし回った。
農地にも恵まれ、王家に次いで裕福な領地である。
代々王家との繋がりも強く、それもあってか、チェルヌィフ王朝帆装派サルート家との繋がりも強い。
前王妃ペラゲーヤの輿入れを手配したのもネライ家だという話だ。
ナカジマ家の領地であるペツカ地方を、過去に管理していたのも、このネライ家である。
とはいえ、王家からも支援金が出ていたので、実際は「王家との共同管理」といった所だろうか。
◇メルトルナ家
領地はミロスラフ王家の領地から東。半島を南北に貫く東の山脈までを領地に含む。
やや南北に縦長い領地で、この国ではぶっちぎりで最大の面積を誇る。とはいえ、領地の半分近くは山で、耕作には適していない。
北の平原は隣国ゾルタとの国境に面している。
長年に渡って国を守る防人として戦って来たせいか、この国の貴族にしては珍しく武人としての色合いが強い。らしい。
そのため、貴族家の間でも一目置かれている。らしい。
らしい、らしい、と続いて申し訳ないけど、聞いた話でしかないのだから仕方がない。
◇マコフスキー家
領地はこの国の南。一部平地、ほとんど山。
普通に考えれば貧乏貴族のはずだが、かつてマコフスキー家はネライ家、メルトルナ家に次いで三番目の力を誇っていた。
それはランピーニ聖国が、ずっとマコフスキー家をこの国での窓口にしていたからである。
しかしそれも昨年までの話。僕達も巻き込まれたマリエッタ王女の襲撃未遂事件。マコフスキー家は陰謀の中心にいたとして、厳しくその罪を追及された。
聖国からも三くだり半を突き付けられ、現在はお取り潰し待ったなし、といった状況にあるという。
◇オルドラーチェク家
領地はネライ領の南西。面積では一番小さな領地となる。
しかし、マコフスキー家に次ぐ(※現在は追い抜いている)力を持っているのには理由がある。
それはこの国最大の港町ボハーチェク。
オルドラーチェク家はボハーチェクの港町から上がる収益だけで、ネライ家に次ぐ収入を得ているのである。
ジトニークの商会といい、セイコラさんの商会といい、僕達ナカジマ家はここには随分とお世話になりっぱなしだ。
領主はヴィクトルさん。海賊船の船長さながらの風貌でいて実はかなりのやり手と聞いている。
◇モノグル家
領地はこの国の最南西。マコフスキー領と並んでほとんど山。というかむしろマコフスキー領よりも山。
でも、後に続くヴラーベル領、ヨナターン領よりも経済力が上なのは、モノグル領には鉱山があるためだ。
とはいえ、そのくらいしか特徴もないらしい。という訳で僕もこれ以上の知識はなかったりする。
モノグル領出身の人には申し訳ない。
◇ヴラーベル家
領地は王都の南。ティトゥの実家、マチェイもここに含まれている。
この国の穀倉地帯――という名ののどかな田舎領地。領地面積はオルドラーチェクに次いで小さい。
う~ん。ヴラーベルもこの程度の知識しか無いんだよなあ。
なんかゴメン。
◇ヨナターン家
領地はヴラーベルの南。ティトゥの実家、マチェイのすぐ南でもある。
標高が高く、水利が悪いため、農業はまるでダメ。牛や馬の放牧で収益を得ている牧歌的な貧乏田舎領地である。
王都から最も遠い領地で、当然、中央における政治力も低い。
そんな何の取り柄も無いド田舎領地だが、近年では貴族間での発言力を増している。
その理由は言うまでもなく、将ちゃんことカミルバルトがこの地に臣籍降下して来たからである。
ヨナターン家の当主はカミルバルトにひと目でほれ込み、娘を嫁に出して当主の座を譲った。
今は将ちゃんが王都に戻っているので、代理で彼が再び当主の座に就いているそうである。
他に人材がいなかったのかって? 国王になろうという人物の外戚だよ? 彼以外の誰が当主に相応しいって言うんだい。
◇ナカジマ家
言わずと知れたティトゥを当主とする、この国初の小上士家。
領地は国の北。中央から西に東西に横長の形となっている。
領地面積はネライ領より少し上、メルトルナ領より大分下。この国では二番目の面積を誇るが、そのほとんどは不毛な湿地帯で占められている。
また、僅かに残った平地も、ぺんぺん草しか生えない痩せた土地で、現在、農地の開発が急がれている。
幸い水には恵まれているため、厄介な泥炭さえなんとか出来れば、第一次開拓地の開発も急ピッチで進む――と思う。多分。
◇◇◇◇◇◇◇◇
おっと、考え事をしている間に、いつの間にか空が薄っすらと明るくなっていた。
村の家々からポツポツと食事の支度の煙が上がっている。
抜けるような初夏の空に、小鳥達が飛び立っていく。
ナカジマ家の使用人達が起き出すと共に、アノ村から手伝いの人達もやって来て、僕の周囲も次第に賑やかになっていった。
今日からの護衛任務も平穏無事に終わればいいな。
僕は可憐なパートナーがテントに姿を現すのを、楽しみに待ちわびるのだった。
次回「マチェイ家の姉妹」




