その26 黄金都市リリエラの真実
どうしても大岩の下の穴が気になる僕は、水運商ギルドのマイラスにお願いして岩の下に250kg爆弾を埋めてもらった、
後は僕の爆撃で爆弾に引火。
二発の250kg爆弾の爆発の衝撃は大岩の一部を吹き飛ばす――予定だった。
それがまさかこんな事になるなんて。
100mを超える大岩は、中央部分でキレイに真っ二つに割れていた。
どうやら想像していたよりも岩の風化が進んでいたようだ。
爆発の衝撃で僅かに入った亀裂に、大質量による巨大な自重が集中した。
脆くなった大岩はその負荷に耐える事が出来なかったのだ。
多分。
『こ・・・こんな事って・・・』
マイラスは目の前の光景が信じられないみたいだ。
いやまあ僕も同じ気持ちなんだけどね。
メイド少女カーチャが心配そうに言った。
『割ってしまって大丈夫だったんでしょうか?』
うぐっ。――大丈夫。なんじゃないかな?
いや、大丈夫なはず。
別に古代文明の遺跡とかそういうんじゃなくて、ちょっと変わった形をした自然の岩だから。
だからセーフ。きっと問題無し。
『割れてしまったものは仕方がありませんわ』
ティトゥの言う通り。
今更終わった事を言っても意味が無いから。
振り返っても過去は決して戻ってこない。だから前を向いて未来へ向かって歩いて行こうよ。
『それよりも、ここからでは穴の奥は見えませんわね』
そうだね。
岩は割れたものの、岩が塞いでいた穴は真っ暗で全然見えない。
岩が大きすぎて穴の中まで光が届かないのだ。
地上に降りて調べてもらうしかないか。
『オリル』
『りょーかい、ですわ』
僕は翼を翻すと、大岩の近くに降り立つのだった。
マイラスはこちらに向かって大きく手を振った。
『特に異常は無いようです!』
砂煙が収まったのを確認した上で、僕は水運商ギルドのマイラスに大岩の調査をお願いしていた。
心配していた有毒ガスは発生していないようだ。
マイラスの言葉を待ちかねたように、ティトゥが大岩へと走って行った。
慌てて主人の後を追うカーチャ。
ちょっと! 危ないから止めていたのに!
・・・まあ、言って聞くようなティトゥじゃないか。
一体、あの穴から何が見つかるのだろうか?
僕はそわそわしながら、みんなの帰りを待つのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
今や大岩は真ん中から真っ直ぐキレイに割れている。
近寄ってみると、切り立った崖に挟まれた細い道のように見えなくもない。
その壮大な光景に、ティトゥとカーチャは思わずポカンと口を開けて仰ぎ見てしまった。
「こちらです」
マイラスの声に振り返ると、彼は既に大岩が塞いでいた穴の中に入ろうとしていた。
大岩が塞いでいた穴。
それは穴と言ってもいいのだろうか?
「窪み? かしら?」
そう。それは一言で言えば巨大な窪みだった。
陽光は巨大な大岩に阻まれて、窪みの中は薄暗い。
「明らかに過去に人の手が入っていますね」
マイラスは窪みの傾斜を慎重に進んだ。
周囲の岩は石灰岩だろうか? この暗さでも分かる程、鮮やかに白い。
窪みの底にはすぐに到着した。
「切り出した跡がある。ここは採石場だったのか? 採石場を蓋するように大岩が乗ったと。それにしてもこの石どこかおかしい・・・んなっ?!」
ブツブツと呟きながら目の前の岩を興味深く眺めていたマイラスだったが、何かに気付いてギョッと目を剥いた。
彼は慌てて周囲を見回したが、辺り一面白い岩しか見えない。
マイラスの膝がガクガクと震え出した。
「馬鹿な! これが全部だと?! し、信じられん!」
愕然とするマイラス。ただならぬ彼の様子に怯えるカーチャ。
ティトゥが慌てて彼に声を掛けた。
「急にどうしたんですの」
「塩です」
「「しお?」」
何かの聞き間違いかと自分の耳を疑う少女達。
マイラスはその場に膝を付くと、足元の小さな石を摘まみ上げた。
「これが何に見えますか? 白い石? いえ、違います」
最初は訝しげな表情をしていたティトゥ達だったが、彼の言いたい事が分かったのだろう。
驚きに目を見開いた。
「! まさか?!」
「それってお塩なんですか?!」
頷くマイラス。
しかし、二人は彼の言葉が信じられなかった。
なぜなら周囲に見えるのは見渡す限りの白一色、白い岩だらけだったからである。
もしその白い石が塩なら、この白い岩は・・・
「周囲に見える白い岩。これは全て塩です。私達は今、巨大な塩の塊の中に立っているんです」
陸に閉ざされた湖(内陸湖)の塩分が通常の淡水湖よりも高くなったものを”塩湖”という。
おそらくこの場所には太古の昔、周囲の山々から塩分やミネラルを含んだ水が流れ込んで巨大な湖を作っていたのだろう。
その後、何らかの理由で湖の出口が閉ざされてしまった。
やがて長い時間をかけて水分だけが蒸発して塩湖となり、更には周囲が砂漠化して水の流入自体も無くなった。
こうしてこの巨大な塩の塊が誕生したのだ。
「この町にやって来た時から疑問ではあったのです。どうしてこんな不便な場所に町が栄えていたのか・・・」
「それはそうですわね・・・ あっ! ひょっとしてこの塩が?!」
ティトゥの言葉にマイラスは頷いた。
「この土地に埋蔵された莫大な量の塩。この町はこの塩によって栄華を極めたのでしょう」
今でこそ国内に他に岩塩の産地が見つかっている。しかし、太古にはこのリリエラのみが塩の産地だったのではないだろうか?
人間の生活に塩は欠かせない。
塩は体に必須のミネラルでありながら、食事に欠かせない調味料でもあり、食糧の保存にも使われる。
そんな人間に必須の塩が――それも極上の品が、少し地面を掘り返すだけでいくらでも手に入るのだ。
また、当時はまだ今ほど砂漠が広がっていなかったのも良かったのかもしれない。
今でこそリリエラは完全に砂漠に飲み込まれているが、昔は砂漠の入り口辺りに位置していた。
その頃はカルーラの実家のあるオアシスの町ステージの周囲も緑に覆われていたのだ。
この塩の力でリリエラは巨万の財を稼ぎ上げ、この町には大陸中のありとあらゆる富が集中した。
やがて誰言うことなく、リリエラは”黄金都市”と呼ばれるようになった。
黄金都市リリエラの伝説の誕生である。
「リリエラにそんな秘密があったなんて・・・」
「今のはあくまでも私の予想に過ぎません。しかし商人の目でみてもこの塩の塊にはそれだけの価値があると断言出来ます。この発見は――」
興奮して熱弁を振るっていたマイラスだったが、そこでハタと言葉を止めた。
冷水を浴びせられたように興奮が引いて行くマイラス。
マイラスの顔色の変化に、不思議そうにするティトゥとカーチャ。
(まさかハヤテ様は、最初からリリエラが太古の塩湖の跡地に作られた町だと気が付いていたのか?! だから俺が東方陶器の発見に浮かれている時も、どこかそっけない態度だったのでは?!)
今思えば、あの時ハヤテはマイラスの説明をどこか上の空で聞いていた気がする。
それはマイラスの想像通り、ハヤテが岩の下の穴に興味を引かれていたからである。
ただし、ハヤテは塩ではなく原油だと思っていた。
ハヤテの中身は極平凡な人間に過ぎない。
マイラスが思っている程、ハヤテは人間を超越した存在ではないのだ。
しかしその事を知らないマイラスはハヤテの考えを深読みし、今や恐怖に近い畏怖の念すら抱いていた。
「そうですわ。この事をハヤテにも教えてあげないと」
「きっとハヤテ様も首を長くして待っていますよ」
嬉しそうに会話を交わす少女達を見ながら、マイラスは竜 騎 士の恐ろしさを改めて思い知らされていた。
次回「問題点」




