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その20 わずか四半刻(30分)の出来事

 僕は砦の裏にティトゥとモニカさんを降ろした後、一人で空へと上がっていた。


 現在高度一万m。

 ティトゥを乗せている時は絶対に飛ばない高度だ。


 一万mの大気は薄く、排気タービンの付いていない日本軍機は本来であれば決して安定して飛ぶ事は出来ない。

 しかし現在僕は力強く飛行を続けている。

 僕の性能は既に実際の四式戦闘機の限界を大きく超えているのだ。


 僕の翼の翼端から白い飛行機雲が伸びる。

 高速で飛ぶ飛行機の翼端は気圧が下がる。大気中の飽和水蒸気量を超えた水分が凝縮して雲――飛行機雲になるのだ。


 僕は体を捻って一回転。薄い大気の中、それだけで揚力を失った機体はガクンと高度を下げた。

 そんな他愛ない刺激が何だか面白い。僕は童心に返った気持ちで青い空に白いシュプールを描いていった。


 ・・・はあ。そろそろ行かなきゃ。


 遥か下を見下ろせばこの距離でも帝国軍の軍勢が見える。

 彼らの前方にはキラリと光を反射する存在――


 帝国軍の誇る”白銀竜兵団”だ。


 馬鹿なヤツらだ。王国なんかに攻めて来ずに自分の国に戻っていれば良かったものを。


 あんなもので近代兵器である僕の相手になる訳がない。

 どうせならアメリカ軍のP-51・マスタングでも持って来いってんだ。

 もっとも今の僕にはマスタングでも歯が立たないだろう。

 今の僕はレシプロ機の中でも最強なんじゃないだろうか?


 おっといけない。少し考え事が過ぎてしまった。

 あんまりのんびりしてると、帝国軍本隊が動き始めてしまう。


 僕はフラリと機首を下げると一気にダイブ。

 加速する機体。みるみる近付いて来る地面はゾッとする光景だ。


 白銀竜兵団は三部隊。狙いは当然真ん中のヤツだ。

 その方が目立つからね。


 敵はまだ僕の接近に気が付いていない。

 とはいえ真上からの攻撃を警戒する方が珍しいか。


 僕の翼の下には既に250kg爆弾が装備されている。

 さあ、後はこれを切り離すだけだ。

 爆弾は白銀竜兵団の真ん中に落ちてドカン。

 それで終わり。簡単な作業だ。


 限界速度を超えたのか、さっきから機体のあちこちがギシギシと異音をたてている。

 プロベラも風圧を受けて今にも千切れ飛びそうだ。

 早く爆弾を切り離さないと、引き起こしに失敗して地面に激突してしまうかもしれない。


 いっそ、それでもいいかもしれない。


 僕は不意にそんな誘惑に駆られた。


 ひょっとしたら死ねば元の日本に戻れるかもしれない。

 これは異世界人同士の戦争だ。僕が関るべきではなかった事だ。

 僕の体は兵器だが、心は平和を愛する日本人だ。

 戦争はイヤだ。誰も殺したくない。


 僕がそんな気分に流されそうになったその時。

 白銀竜兵団の兵士達がとうとう僕の存在に気付いて空を見上げた。


 白銀竜兵団の鎧はいわゆるプレートアーマーと呼ばれる全身鎧だ。

 その兜は頭部全体を覆っていて装着者の顔も見えない。

 そんな兜にわずかに空いたスリットの奥。

 僕の高性能な目はその奥の男の恐怖に血走った目を捉えた。


 それは化け物を見る目だった。


 その瞬間、僕の機体から250kg爆弾が切り離された。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 ハヤテの機体があげる耳をつんざくプロペラ音。

 驚いて空を見上げる白銀竜兵団の目には、グングンと自分達に迫って来るハヤテの姿が映った。

 彼らが思わず悲鳴を上げたその瞬間、ハヤテが250kg爆弾を投下した。


 ズドォ――ン!


 突然の大音量に戦場が静寂につつまれた。

 帝国兵の声を上回る大きな爆発音と共に、大量の土砂が巻き上げられた。

 その中には人間のパーツが大量に混じっていた。


 直接爆撃を食らってバラバラになった者、地面に投げ出されて首の骨を折る者、飛んで来た破片や味方のパーツに当たって致命傷を負う者。

 密集隊形を取っていた白銀竜兵団は、たった一発の爆弾でほぼ壊滅してしまったのだった。


 大きな爆発音と巨大な土ぼこり、そして爆風。

 火壺の爆発も帝国軍を十分に驚かせたが、この爆発はその全ての規模が上回っていた。

 いや、驚いているのは砦側のミロスラフ軍とて変わらない。

 この戦場に立つ者は皆、自分達の目の前で何が起こったのか全く理解出来ていなかった。


 呆然と立ち尽くす帝国軍が正気に戻る間もなく、別の白銀竜兵団にハヤテが襲い掛かった。

 今度の目標は左翼に位置する白銀竜兵団である。左の部隊を先に選んだ理由は特にはない。たまたまである。

 一発残った250kg爆弾が切り離され、密集する白銀竜兵団のド真ん中に落ちた。


 ズドォ――ン!


 再びあの恐ろしい爆発音が響くと、左翼の白銀竜兵団は中央の部隊と同じ運命をたどった。


 ハヤテは今度は低空飛行。そのまま大きく砦の周りを回った。


 ワアアアアアッ!


 我に返った砦の兵達からハヤテに向かって大きな歓声が送られた。

 ハヤテはその歓声を背に受けながら、最後に残った白銀竜兵団に襲い掛かった。

 恐怖にかられた白銀竜兵団は密集隊形を更に密集させ、盾を重ね合わせて自分達の姿を覆い隠した。

 完全防御態勢に入った白銀竜兵団に、ハヤテの20mm機関砲の攻撃が襲い掛かった。


 ドドドドドドド!


 機体から伸びる四条の光の束が彼らの銀色の盾を引き裂いた。

 ハヤテが飛び去った後、直撃を食らった白銀竜兵団はズタズタにされていた。

 とはいえ爆弾の時と違い、まだまだ多くの兵が生き残っている。


 彼らは銀色の装備が仲間の血と土で薄汚く汚れるのもかまわず、仲間の死体の下に潜り込んで襲い来る化け物から必死に我が身を隠した。

 そこに再びハヤテの20mm機関砲が火を噴いた。

 20mm機関砲の弾丸は容易に死体を貫き、その下に隠れた兵士の柔らかい肉体を破壊した。

 ハヤテはさらにもう一度彼らに攻撃を浴びせ、ようやく満足したのか翼を大きく翻した。

 そこに残っているのは土ぼこりにまみれた誰の物かも判別の付かない肉体の塊だった。


 こうして帝国軍南征部隊の誇る精鋭、白銀竜兵団七百は、戦いが始まってわずか十分そこそこの時間で壊滅してしまったのである。



 ワアアアアアッ!


 砦からは割れんばかりの歓声が、そして帝国軍からは恐怖の悲鳴が上がった。

 ハヤテが帝国軍に機首を向けると、帝国兵達は一斉に逃げ出した。


「逃げるな! 踏みとどまれ!」


 そんな命令を下した騎士団員はハヤテの攻撃を受けて文字通り消し飛んだ。

 

 ドドドドドドド!


 ハヤテは20mm機関砲を撃ちながら帝国軍を縦横無尽に切り裂いた。

 帝国兵は恐怖に悲鳴と涙を流しながら逃げ惑った。

 倒れた仲間を踏みつけ、目の前の仲間を押しのけ、少しでもハヤテから逃れようと、少しでも安全な場所に逃れようと、彼らは戦場を死に物狂いで走り回った。


 しかし高速で空を駆け巡るハヤテから逃れられる場所などどこにもない。


 砦からはまるで、帝国軍という名の巨大な生物が苦しみにのたうち回っているように見えた。


 既にハヤテは20mm機関砲を撃ち尽くしている。

 しかしハヤテは執拗に帝国兵を追い回した。そして彼らはハヤテの目から逃れるために必死に逃げ惑った。



 ウルバン将軍は呆然と目の前の光景を眺めていた。


「どういう事だ・・・ 化け物は白銀竜兵団を恐れていたのではなかったのか?!」


 残念ながらそれは帝国軍の勘違いだ。

 ハヤテは帝国軍全軍の目の前で彼らの切り札を圧倒的に叩きのめす事で、兵達の戦意を根元からへし折るつもりだった。

 そのために今まで白銀竜兵団には手を出さなかった。ただそれだけの事だったのだ。


「ウルバン将軍! ここは危険です! お下がり下さい!」


 副将達の声もウルバン将軍の耳を素通りしていく。

 その時、ハヤテが今度はこちらに目を付けたのか、大きく回り込むと真っ直ぐに向かって来た。


 既にハヤテに彼らを攻撃する手段はない。

 しかし、初めてハヤテから狙われる恐怖に、ウルバン将軍の精神は耐えられなかった。


「撤退! 撤退せよ!」


 ここに帝国軍は総崩れとなったのである。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 この動きを砦の上からじっと見ている男がいた。カミル将軍である。


「ナカジマ殿。約束の四半刻(30分)はもう過ぎたかな?」


 カミル将軍はかたわらに座ったティトゥに問いかけたが、彼女からの返事は無かった。

 先程からティトゥは辛そうな表情でハヤテを見詰めている。

 将軍に声を掛けられた事にも気が付いていない様子だ。


 カミル将軍は前に歩み出ると叫んだ。


「全軍に通達せよ! 砦を出て攻撃を掛ける! 掃討戦だ! 我らのドラゴンに後れを取るな!」

次回「四式戦闘機ドラゴン vs 白銀竜兵団ドラゴン

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