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これから1

レストランは個室が予約されていたようで、奥の部屋に案内された。


シンプルだが上品な部屋だ。


給仕の男性が椅子を引いてくれたので座る。


セイウスも座り、メニュー表を手に取った。


「アイリスさんは何か食べたいものはありますか?なければウィルネス様が勧めてくれたたコースを注文しますが」


「お父様が勧めるのであれば間違いありませんので、そのコースでお願いします」


アイリスの好みを誰よりもわかっているのがウィルネスだ。



「わかりました。飲み物はどうしましょう?お酒はまだ飲めないですよね」


「はい……飲んだことがないのでノンアルコールでお願いします」


特に飲酒の年齢制限はないが、アイリスはまだお酒を飲んだことがなかった。


「ラズベリーのノンアルコールカクテルとかいかがですか?」


「美味しそうです!それでお願いします」


セイウスが慣れた様子で注文してくれる。


給仕の男性はさっとメモを取ると丁寧なお辞儀をして部屋を出ていった。


「どんな料理か楽しみですね」


「セイウスさんはこちらのレストランは初めてなのですか?」


「はい。いつもはもっと大衆的なバーが多いので。こういったレストランは久しぶりです」


久しぶりということは、おしゃれなレストランに行ったことはあるということだ。


昔の彼女とデートかな………。


そう思うと胸の奥がツキンと痛み、モヤッとする。


「どうかしましたか?」


「いえ……あの、先程ユリウス殿下の結婚が早まるかもしれないとおっしゃってましたが、どうしてですか?」


過去は変えられないのに、勝手に嫉妬したことを隠したくてユリウスの話を持ち出した。


「ああ……」


セイウスは気にしていない様子だ。


「ユリウス殿下の父上が第二王子のレオン殿下であることはご存知ですよね」


「はい。レオン様は当初、私の誕生日のパートナーの予定だった方ですから」


スラリと長身の整った容姿をしている。その見た目と優しい物腰のため若い頃はかなりモテたと聞く。


「レオン殿下は愛妻家で有名ですので、今でこそ横恋慕する者はいませんが独身時代はとてもモテたそうです」


「その話はお父様から聞いたことがあります」


「そんな殿下に懸想していた女性の中にリンファ様もいらっしゃったそうです」


「リンファ様が?」


「ええ。しかしリンファ様の国では王族は生まれた時から婚約者が決まっています。現王の婚約者としてリンファ様は生まれてすぐに決まったのだそうです」


リンファは隣国の公爵家に生まれ、占い師により現王の妻と決められたのだそうだ。


「気性の荒いリンファ様でも婚約を覆す事は出来ません。そのため殿下への恋心を諦めたそうです」


「レオン様は優しいですから」


「リンファ様は予定通り王妃となられました。しかし、彼女はレオン殿下への気持ちを諦めきれず、レオン殿下の息子であるユリウス殿下を娘の婚約者にするべく画策したようです」


「それでユリウス殿下はサンシャ様と婚約を?」


「占い師がサンシャ様の婚約者はユリウス殿下と決めたそうですが………裏がありそうですよね」


セイウスが苦笑した。


「ユリウス殿下はレオン様そっくりですからね」


背はユリウスの方が低いが、顔立ちや雰囲気はとても良く似ている。


「ユリウス殿下が騒ぎを起こしたと聞けば、これ以上その令嬢、アイリスさんに近づけるわけには行かないとすぐにでも自国にユリウス殿下を連れて行くと思います」


「そうでしょうか?」


「リンファ様の性格なら間違いなくそうします。今、サンシャ様と共にこちらに滞在していますしね。陛下もこれ以上の問題を起こしてほしくないでしょうし、何よりウィルネス様がリンファ様の味方をしますよ」


セイウスは優しく笑った。


「もう怖い思いはしないと思います」


「でもユリウス殿下が少し気の毒です」


「自業自得ですよ」


このタイミングで前菜とドリンクが運ばれて来たので話を中断した。


料理はどれも美味しくて、あっという間に平らげてしまった。


「美味しかったです」


アイリスが言うと


「本当に美味しかったですね。さすがウィルネス様です」


「こんなに美味しいレストランを知っているなら私を連れてきてくれたらいいのに………お父様は意地悪です」


セイウスのエスコートで馬車に乗る。


「ウィルネス様は誕生会の翌日にアイリスさんをここに連れてくる予定だったそうです。その権利を私に譲ってくれました」


セイウスも乗ったので馬車が動き出す。


「それでも私だけのけ者にされた気分です」


「そのおかげで私はアイリスさんの幸せそうな顔を独占できました」


「セイウスさんは恥ずかしいことをサラッと言い過ぎです」


顔が自然と赤くなる。


「イヤですか?」


「嫌な理由ないじゃないですか!でもなんだか負けた気分になるのです」


「ずっと私が負けてますよ」


セイウスの優しい笑顔にまた顔が赤くなった。













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