観劇5
その時、バンッと荒々しく部屋のドアが開かれた。
セイウスが戻ってきた!
そう思ってドアの方を見ると、どうやらセイウスではないらしい。
その人物はドカドカと部屋に入り、乱暴にユリウスがアイリスを握っている手首を捻り上げた。
「イテテテ」
ユリウスの手がアイリスから離れる。
すかさずマヤがアイリスとユリウスの間に入った。
「カイザー様……」
ユリウスの手首を捻り上げているのはカイザーだった。
あまりのことに挨拶を忘れていたアイリスが姿勢を正そうとすると
「そのままでいい」
と止められた。
「おい、ユリウス!どういうつもりだ!」
カイザーの大きな声が響く。
「ど、どうしてカイザーが?というか痛いから離してよ」
「あっ?離すわけないだろうが!お前、自分が何をしでかしたのかわかっているのか!!」
「だって………」
「だってじゃねぇ!アイリスを誘拐なんてしてみろ、いくらお前でも王族離脱の上、よくて幽閉だぞ!お前のしたことはそれだけ重罪なんだよ!」
ユリウスは手首が痛いようで顔をしかめている。
「も、もうしないから手を離してよ」
「信じられるか!お前のその根性、叩き直す必要がありそうだな」
「ご、ごめんよ」
アイリスは呆然と二人のやり取りを見ているしかなかった。
「アイリス、隣の控室にセイウスがいるから行っていいぞ」
「えっ?」
「こいつの護衛が部屋の前から動かないから揉めてたんだよ。セイウスが厳罰覚悟で突破しようとしている時に俺が通りかかったんだ。アイリスのこと心配してるから早く行ってやれ」
「カイザー様、ありがとうございます」
「ここは俺が処理しておくから。それと……」
カイザーは白い歯を見せて笑うと
「婚約おめでとう。セイウスはいい奴だ。幸せになれよ!結婚したら俺の邸に遊びに来い」
と言った。
「はい!ありがとうございます」
アイリスは頭を下げると部屋から出ていった。
後ろでカイザーの
「お前のせいでリーネを馬車で待たせる羽目になったんだ!とっとと終わらせるぞ」
という声が響いていた。
控室にはソワソワした様子のセイウスが立っていた。
セイウスの顔を見るとホッとする。
「セイウスさん!」
「アイリスさん!!」
セイウスはすぐに駆け寄ってきて、アイリスの身体をあちこち点検し始めた。
「どこか怪我はされていませんか?」
「大丈夫です!」
アイリスが言うとマヤがユリウスに掴まれた腕をセイウスに見せた。
強く握られたので赤くなっている。
「私がついていながら申し訳ありません」
「マヤのせいじゃないわ」
「……私のせいです。やっぱり側を離れなければよかったです」
「行くように言ったのは私ですから、二人とも責めないでください」
アイリスにそう言われても二人とも赤くなった腕を見て苦しそうな表情をしている。
「とりあえず馬車に行きましょう」
セイウスに言われて馬車に向うことにした。
馬車の中でセイウスが何故カイザーが来たのかを説明してくれた。
「私を呼び出した騎士は大した用事もありませんでした。それでおかしいと思い、すぐに戻ったのですが………ユリウス殿下の護衛が入口をかためていて、中に入らせてくれずに揉めていたのです」
それでなかなか戻ってこなかったのかと合点がいった。
「アイリスさんのことが心配でしたので、強行突破しようとしている時に、通りかかったカイザー殿下に声をかけられました。それで簡単に事情を話したのです。すると、忘れ物を取りに席に戻っていたリーネ様が駆け足でこちらにやってきて、席からアイリスさんとユリウス殿下が揉めているのが見えたと教えてくれました」
「それでカイザー様が?」
「俺に逆らうつもりか!と護衛を威嚇して下さいまして………強引に中に入って下さったのです」
もしセイウスが部屋に入ってきても相手がユリウスだと簡単には手は出せない。
しかしカイザーなら話は別だ。
「俺がなんとかしてやるからそこで待ってろとアイリスさんを救出しに行ってくださいました」
「カイザー様には後でお礼をしないといけませんね」
「文句一つ言わずに馬車で待機して下さったリーネ様にもお礼が必要ですね」
「流石にこれでユリウス殿下も落ち着くとは思うのですが………」
セイウスがそう言ったのでアイリスはあることが不安になった。
「ユリウス殿下はサンシャ様と婚約破棄するつもりだと仰ってました。このことが外交問題に発展したりしないか心配です」
アイリスは悪くないが、アイリスのせいで隣国と揉めるのは避けたい。
「それは大丈夫だと思いますよ。むしろ結婚が早まるかもしれません」
セイウスがそういった時、馬車は目的地に到着した。
「続きは料理を食べながらしましょう」
「はい」
アイリスはセイウスのエスコートで馬車を降りた。
「ここは?」
「ウィルネス様が初めてリーシャ様と食事をした思い出のレストランだそうですよ」
街の中心にある、とても有名な高級レストランだ。
「味は保証すると言っていました。行きましょう」
「はい!」
2人は手を繋いで仲良く歩き出した。




