護衛1
数日後、誘拐未遂事件の全貌が明らかとなった。
公爵夫妻が帰宅するまで約束通り側にいてくれたセイウスが、ウィルネスに屋敷で起きたことを説明してくれた。
アイリスは犯人の顔を見たくなかったので、リーシャと共に食堂には入らずにリーシャの部屋に向かった。
ウィルネスは顔面蒼白になりながら、セイウスに何度も頭を下げたそうだ。
侵入者とサラは公爵邸の地下にある牢屋で夜を明かし、その後騎士団に引き渡された。
侵入者たちを尋問して、彼らに指示をしたのがルーマン子爵の長男だとわかったそうだ。
ルーマン子爵の息子は街でアイリスを見かけ、一目惚れしたそうだ。
どうしても彼女と結婚したいとアイリスのことを嗅ぎ回り、彼女がローズネス公爵の一人娘だと突き止めた。
子爵では格が違いすぎるため、結婚などできない。
しかし、諦めることはできない………それなら誘拐して監禁してしまえばいい、と今回の事件を起こしたそうだ。
ルーマン子爵には彼しか子供がおらず、かなりわがままに育てたらしい。
「ルーマン子爵はどうなるのかしら?」
リズに聞くと
「王弟の一人娘を拐おうとしたのですから、重罪です。爵位剥奪だけでは済まないでしょうね」
はっきりとは言わなかったが、おそらく一家もろとも処刑されるのだろう。
ウィルネスは王弟なので、彼に楯突くということは王族に楯突くのと同意となる。
見せしめとして、罰せられるだろうことはアイリスにもわかった。
自分が情状酌量を求めても却下されるだろうし、本当に処刑されたかどうかは誰も教えてくれないだろう。
「そう………」
「お嬢様が気になさることはありませんよ。どんな罰が処せられるのかはわかりませんが、二度とお嬢様の前には現れないと思いますよ」
「サラはどうなったのかしら?」
サラはルーマン子爵からの推薦でリーシャの侍女となった。
彼女はルーマン子爵に借金があり、逆らえなかったと白状したそうだ。
「誘拐犯を誘導するような侍女、誰も雇ってくれません。お嬢様が気にすることではありません」
サラを侍女にしたことをリーシャはかなり悔やんでいるそうだ。
そのため、新しい侍女は雇わないと決めたらしい。
「そういえば、旦那様がお呼びでしたよね」
アイリスの身だしなみを整えながらリズが聞く。
「ええ、誘拐未遂の件でお父様はずっとお忙しかったのよねぇ。やっと落ち着いたそうで話があると言っていたわ」
「でも、お嬢様に何もなくて本当に良かったです」
「その言葉、何度も聞いたわよ」
「私がいない間にそんなことが起きていたなんて……聞いたときは震えましたよ。休みを頂いたことを本当に後悔しました」
「怖い思いはしたけれど、実際に犯人も見ていないし未遂に終わったからもう大丈夫よ。ルーイも自分を責めて可哀想だったわ」
ルーイは事件が起こる数日前からサラの手作りクッキーをもらっていたらしい。
ルーイだけではなく、他の騎士にも差し入れで渡していて何度かもらっていたため、事件当日も警戒することなくクッキーをもらい、口にしたらしい。
まさか睡眠薬が入っているとは思いもしなかったと、かなり落ち込んでいたそうだ。
公爵家で働くことはできないと、自ら辞める意思をウィルネスに伝えたらしい。
アイリスが辞めてほしくないと伝えたこともあり、減給処分で留めたそうだ。
「今日もお綺麗です」
アイリスの身支度が終わったらしく、リズが満足そうにそう言った。
「ありがとう。お父様に会ってくるわ」
アイリスは椅子から立ち上がり、ウィルネスのいる書斎に向かった。




