告白4
この洋服ダンスはルームウエアや寝間着などが入っている。
この奥にはさらに扉があって、アイリス1人なら余裕で座れるスペースがあった。
アイリスは洋服をかき分け奥の扉を開けて中に入った。
洋服ダンスの扉と奥の扉をしっかりと閉める。
部屋の中は月明かりがあり、周りが見渡せるくらいの明るさはあったが、この中は真っ暗だ。
この扉はアイリスが幼少期に強盗に拐われそうになった事件の後に作られた。
未遂に終わったものの、これからも起きるかもしれないとウィルネスが作ったものだ。
あの事件以降、両親がいないときはルーイが部屋の前を守るようになった。
あのときはどうして怖くなかったのかしら?
あの頃よりずっと大きくなったアイリスは恐怖で震えながらそう思った。
ウルフに囲まれたときも怖かった記憶がない。
初めて魔物を見たのに………いくらセイウスがいるからといっても怖がらないなんて。
過去の自分を思い出して不思議に思う。
しかしそんな思考は
「ここか!」
という男の声とドアが開く音にかき消された。
アイリスは身を震わせて息を殺した。
洋服ダンスの裏に隠し部屋があるなんて気づくわけがない。大丈夫。
この部屋は外からは柱の一部に見えるようになっている。
まさかその柱部分が部屋だとは誰も思わないはずだ。
それでも恐怖で震える身体を必死に押さえつけた。
もし見つかって拐われたら………どうなるのか。
想像しただけでも恐ろしい。
「娘はどこだ、ベッドで寝ているんじゃないのか」
男が言う。
布団を剥ぐ音がした。
「いないぞ!」
もう1人の男の声。
「まさか俺たちに気がついて窓から逃げたか?」
「いや、鍵がかかっているからそれはない。おい、本当にこの部屋であっているのか?」
「ま、まちがいありません」
女の声。
この女の声はどこかで聞いたことがある。
「でもいない………ということは部屋のどこかに隠れているのか?」
「おい、ランタンをよこせ」
「は、はい」
この声は………サラ?
どうやらサラが男達を招き入れたらしい。
ルーイに睡眠薬を飲ませたのもサラに違いない。
「いたか?」
「いや、いねぇ」
あちこち探している音がする。
「この洋服ダンス、怪しいな」
男の足音が近づいて洋服ダンスを開ける音がした。
アイリスに緊張が走る。
口を手で押さえ、息を止める。
お願い………気がつかないで…………。
扉が乱暴に開けられる。
「いねぇな………でも、洋服がきちんとしてねぇな」
男の声がすぐ側で聞こえる。
服をきれいにする時間はなかったし、そこまで気は回っていなかった。
み、見つかるかもしれない。
額から汗が流れ落ちる。
お願い………誰か………。
そう思い、目を強く瞑ったとき
「な、なんだ」
「キャッ」
洋服ダンスから離れた位置にいた男の声がした。
サラの声もする。
「うっ」
そして小さな悲鳴。
「てめぇ何者だ!」
洋服ダンスの側にいた男が叫ぶ。
金属がぶつかる音がしたが、すぐに
「ぐっ………」
という呻き声が聞こえてドサッという地面に何かが落ちた音が聞こえた。
「危機一髪でしたね」
別の男の声。
「取り敢えずあっちの食堂に運びます」
男はそういうとズルズルという音が聞こえて遠ざかって行った。
しばらくするともう一度、ズルズルという音が聞こえて遠ざかった。
静寂。
何が起きたのわからないが、助かった?
おそらく男達を倒してくれた男が1人部屋にいるはずだ。
この人物は味方だろうか?
それとも別の誘拐犯だろうか?
相手が誰かわからない以上、出るわけには行かない。
アイリスは震える身体を抱き締めた。
両親が帰ってくるまではここにいないと。
そう思ったアイリスの耳に
「アイリスさん、いますか?」
と聞きなれた男の声が聞こえた。
この声は…………。
「セイウスさん!!」
アイリスは安堵と共に洋服ダンスから飛び出した。
そのままの勢いでセイウスに抱きつく。
「あ、アイリスさん………洋服ダンスに隠れていたんですね」
アイリスはセイウスを見上げた。
月明かりでもはっきりとわかる金色の髪と碧眼。
間違いなくセイウスだ。
「セイ……ウスさん………こ、こわ……かっ」
アイリスの身体はまだ震えている。
セイウスは優しく抱き締めて
「もう大丈夫ですよ」
と背中を撫でてくれた。




