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鼓動1

朝、目が覚めるとなんだか身体が軽い気がした。


顔を洗い、リズに朝食に向かうための身支度をしてもらう。


「なんだか機嫌がいいようですね」


リズが鏡越しにそんなことを言った。


「そうかしら?」


「はい。とても清々しい表情をされています」


「よく眠ったからじゃないかしら」


「寝不足はお肌にも悪いので程々になさってくださいね」


リズに言われて苦笑した。


「宛名書きも終わったしもう徹夜することはないわ。お母様の調子はどう?」


「今朝は熱も下がり食欲も出てきたそうで、朝食に顔を出すとうかがっております。そのため旦那様もご一緒に朝食を摂るそうですよ」


リーシャが体調を崩しウィルネスは多忙を極めていたため、最近は一人で食事を摂っていた。


久しぶりの家族での食事にさらに気分がよくなる。


自然と笑顔になる。


リズはそんなアイリスに優しげに微笑むと、無駄のない手付きで身支度を整えていった。





食堂に行くと、すでにウィルネスとリーシャは席に着いていた。


「お父様、お母様おはようございます」


『おはよう、アイリス』


「お母様、体調はいかがですか?」


聞きながら席に座る。


「もう大丈夫よ。心配かけてごめんなさいね。誕生会の招待状はできたかしら?」


「はい!全て書き終えました」


「アイリス一人で書いたの?大変だったでしょう」


「私の誕生会ですから当然です」


アイリスの言葉にウィルネスが目を細めた。


「大きくなったな、アイリス。ところで、セイウス殿のことなのだが」


「セイウスさんがどうかしましたか?」


「いや、なかなかの好青年だと思ってな。アイリスを送った後に王城で会ったから少し話をしたんだが、誕生日プレゼントにネックレスを贈ってくれるそうだな」


「はい。断ったのですが………」


ウィルネスは小さく笑った。


「彼は今まで、女性にネックレスを贈ったことがないらしい。だから、どんなものを贈ればいいかわからないそうだ。それで、アイリスと一緒に選びたいそうだ」


「私とですか?」


「本人が気に入ったもののほうがいいだろうからと、出掛けてもいいか私に許可を求めてきたよ。実直な青年だと気に入ってしまってね」


ウィルネスの言葉にリーシャが微笑んだ。



「もしかして、アイリスの婚約者にとお考えですか?」


「婚約者ですか?」


アイリスが驚くと


「私はずっとこの家にいてほしいと思っているし、結婚なんて早いと思っている。しかし、アイリスはとても美しい。誕生会の後は交際申込みが殺到するだろう。男性を見る目が養われていないアイリスが変な男に引っかかってしまうのではとそれが気がかりなのだ」


「陛下になにか言われましたの?」


「謁見が終わってから、かなり真面目に婚約者がいたほうがいいと助言を受けたよ。そうしないとアイリスが外に出ることも難しくなると」


外に出ることが難しくなる?


「どうしてですか」


「門の前でアイリスに求婚する男が後をたたないだろうと言われたよ。昔のリーシャのようにね」


リーシャは黒薔薇姫と言われるほどの美貌の持ち主で、そのせいで色んなストーカー被害にあっていた。


未遂ではあるが、誘拐されかけたことも何度もある。


ウィルネスと婚約して結婚したあとでも大変だった時期があったそうだ。


「だからといって、適当な婚約者ではいけない。だからもし、アイリスがセイウス殿に少しでもいい感情があるのなら婚約者として誕生会のパートナーをしてもらうほうがいいのではと思ってね」


「昨日、そう思いながら色々と彼と話をしたのだが、話せば話すほど好青年だった。なんで今まで結婚していないのか不思議はほどだ。」


ウィルネスに言われてアイリスは困ってしまった。


「お父様、私はまだセイウスさんと3回しかお逢いしておりません。いい人だとは思いますが………」


「だから一緒にネックレスを選びに行きなさい。セイウス殿の非番の日である1週間後に約束をしてきた」


「勝手に決めてきたんですか?」


「誕生会まで時間がないからな。それでアイリスがセイウス殿をどうしても好きになれないのなら無理して婚約する必要はない。その時はその時で考えるさ」


「………分かりました」


約束してきたということは決定事項だ。


アイリスを溺愛しているウィルネスが婚約を勧めてくることに驚いたが、それだけリーシャが苦労したのかもしれない。


アイリスは並べられた朝食を口にした。



「アイリス、あまり深く考えないでセイウスさんと向き合ってみなさい。私は貴女とセイウスさんはお似合いだと思うわよ」


リーシャはニッコリと微笑んだ。


「まだ14歳ですもの。私達が守れる年齢よ。だから、貴女は好きなネックレスを選べると喜んでおけばいいの」


「そうだよ。無理にとは言わないから」


両親に言われて、アイリスは頷いた。


「はい!楽しんできます」


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