記憶が阻害する7
ど………どうしてこんなことに……?
セイウスは自分の肩に身体を預けて眠るアイリスのせいで、身体が硬直して動けずにいた。
すぅ………すぅ………
と気持ちよさそうな寝息が聞こえ、時折吐息が肩に触れる。
その度に身体の硬直が強まっていた。
想い人の無防備な姿に動揺するのは許してほしい。
やましい感情を必死に排除しながらも、チラチラと寝顔を盗み見る。
可愛い…………。
触れたくなる衝動を必死に抑えるように首を振った。
マリアンヌに会ったのは偶然だった。
護衛の交代時間となり、休憩中に食事を済ませようと食堂に向かっていた。
ちょうどその時にマリアンヌが転倒した場面に出くわしたのだ。
猫の鳴き声が聞こえて、すぐに猫に驚いたのだとわかった。
マリアンヌはアリアの侍女だったため、セイウスとの付き合いは長い。
「大丈夫か?」
尻もちをついたマリアンヌに駆け寄ると、彼女は恥ずかしそうに笑った。
「セイウス様、お久しぶりです。こんな格好での挨拶になってしまい申し訳ありません」
「そんなこと、気にするな。それより立てるか?」
「はい、大丈夫で………いっ」
マリアンヌは立ち上がろうとして顔を歪ませた。
「どうした?」
「申し訳ありません………足を挫いたようです」
そう言いながらも立ち上がろうとするので、セイウスは慌てて手を貸して手伝った。
「痛そうだな………このまま医務室に連れて行こう」
「一人でも大丈夫です。セイウス様はお仕事中ではありませんか」
「今は休憩中だから問題ない。捻挫なら早く冷やしたほうがいいだろう。その足で一人で医務室に行くのは大変だ。俺に掴まるといい」
「申し訳ございません」
そんな会話をしながらマリアンヌを医務室に連れて行った。
その時に
「セイウス様……医務室に向かったあとに1つお願いしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
とマリアンヌから言われた。
「俺のできることなら聞こう」
そこで今、アイリスが王城に来ていることを知った。
いくら王城とはいえ彼女を一人にするわけにはいかないので、護衛を兼ねて謁見まで側にいて上げてほしいと頼まれたのだ。
仕事が忙しく、あの日以降全く会えなかったので、二つ返事で了解した。
そして、医務室にマリアンヌを届けてから三日月の間にやってきたのだ。
久しぶりに出会ったアイリスは相変わらず美しかった。
その間の町娘風も良かったが、きちんと正装したアイリスは後光が差しているように眩しかった。
思わず目を細めたほどだ。
マリアンヌの事を説明すると、横に座るように促されたので言われたと通りに座った。
横に座っただけなのに、甘い香りがしてくらくらした。
それだけでも内心、すごく緊張していたのに………。
なんで彼女は寝たんだ!?
肩から伝わする体温に香りに吐息に気がおかしくなりそうだ!
密室だぞ!?
なんでこんなに無防備に可愛い寝顔を見せてくるんだ!?
それでも………。
気持ちよさそうに眠るアイリスを起こすことなど出来なかった。
早く公爵来ないかな………。
心を無にして、自分の理性を抱きしめながらセイウスは天井を見つめ続けていた。




