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記憶が阻害する4

王城に着くとすぐに見慣れた女性が側にやってきた。


「マリアンヌ!久しぶりね」


アイリスは思わず破顔した。ウィルネスにエスコートされて馬車を降りる。


「お久しぶりです。アイリス様はますます美しくなられましたね」


柔和に笑うマリアンヌは今年で45歳になったはずだ。


アリアが7歳のときに専属侍女になった女性だ。


とても気が利く女性でアリアはマリアンヌに懐いていた。


マリアンヌが25歳になったときに結婚し妊娠したため、その時だけはアリアから離れることに。


まさかそのまま会えずに死を迎えるとは思っていなかったが、子育てが一段落してからまた、王城で働いているそうだ。


マリアンスの働きを王城が高く評価して、高待遇で仕事をしていると聞く。


そんなマリアンヌの仕事は来客への給仕などである。


「ありがとう」


「謁見までは三日月の間でお待ちいただく形になります。ご案内しますね」


「マリアンヌ、娘を頼む。私は仕事場に行ってから三日月の間に向かう」


「畏まりました」


マリアンヌは綺麗な礼をしてウィルネスを見送った。


ウィルネスの姿が見えなくなるのを確認してから


「では、アイリス様ご案内します」


「よろしくね」


二人はゆっくりと三日月の間に向かって歩き出した。


三日月の間は王城、2階の奥にある。


そのさらに奥に王への謁見の間があるため、近い場所が充てがわれたのだろう。


しばらく近況などを話しながら歩いていると


「もしかして………アイリスか?」


前方にいた男性に声をかけられた。


アイリスよりもっと深い紫、藍色に近い髪と瞳。


背は180センチを超えセイウスくらいある。


鍛え抜かれたガッチリした体型に日焼けした肌。


「カイザー様、お久しぶりです」


王太子の息子、カイザーだ。


アイリスはマリアンヌと共に淑女の礼をした。


カイザーはアイリスを見ると一瞬驚いたような顔をした。


「そ、そんなにかしこまるな。しかし、久しぶりだな。その………あまりの………美しさに一瞬誰かわからなかったよ」


ニカッと笑うと白い歯が見える。頬が少し赤い。


「お褒めに預かり光栄です」


「今からでも遅くない。俺の妻にならないか?」


カイザーに言われて


「冗談でもそのようなことは言ってはなりません!」


と慌てて否定した。


カイザーはアイリスとは別の公爵家の娘と婚約している。


来年には結婚式を挙げて籍を入れるはずだ。


「冗談ではない。俺はいつでも本音しか口にせん」


「カイザー様、私はローズネス公爵家の跡取りです。カイザー様は王太子が王に即位すれば王位継承権が2位になります。そのような方と私が結婚できるはずがありません」


ローズネス公爵家にはアイリス以外の子供はいない。そのため、婿養子をもらうことが最低条件なのだ。


次期王候補となるカイザーと結婚などできるはずがない。


「そんなの、ユリウスに譲るさ。アイリスと結婚できるならな。まぁ、叔父上が赦してくれないので泣く泣く諦めているがな」


叔父上とはウィルネスのことだ。


「婚約者のリーネ様は王妃教育も完璧で素晴らしい女性だと聞いております。カイザー様とお似合いだと専らの噂ですよ」


「リーネは確かに王妃に向いている。それは否定しないが………アイリスが俺にとっての初恋だからな。これくらいの戯言は許せ」


カイザーは豪快に笑った。そして吹っ切れたように息をはく。


「誕生会にはリーネと共に参加するよ。アイリスのパートナーはセイウスらしいな」


「はい。セイウスさんに頼んでいます」


「アイツは信用できる男だ。いいパートナーを選んだな。ただ……ユリウスは納得していないみたいだから会うとなにか言われるぞ」


第二王子の子であるユリウスは婿養子という条件はクリアしているため、アイリスを婚約者に!とかなりしつこかったらしい。


「ユリウス様は隣国の姫と婚約されています。婚約破棄となると国際問題に発展しますので大丈夫だと思いますが………」


「今のアイリスを見ると気持ちが変わるかもな。まぁ会わないことを祈っておけ」


そう言うとカイザーが去っていった。


「カイザー様は相変わらず豪快ね」


「アイリス様があまりに美しい女性になられているので、つい本音が出てしまったんですよ」


「………冗談だと思って流しておくわ」


ため息をつくと、三日月の間に向かって歩き出した。


謁見の間に近いためかなり歩く。


10分ほど歩いただろうか。


やっと三日月の間が見えてきた。


ユリウスに会わずに済みそうだ。


そう安堵した時、


「アイリス?」


後ろから声をかけられた。

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― 新着の感想 ―
ついでちゃった本音を戯言って形で仕舞えるんだから、まだ偉かったと思う
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