デート6
アイリスが行きたかった雑貨屋はガラス細工の店だった。
学友が可愛らしいガラスのペンを持っていて、行ってみたいと思っていた。
中央広場から10分ほど歩くとその雑貨屋はあった。
店の外からも窓からガラス細工を見ることが出来る。
アイリスは目を輝かせた。
「なんて素敵なお店でしょう!セイウスさん、入りましょう」
「アイリスさんが楽しみにしていたのでちゃんと予約をしておきましたよ」
テンションの高いアイリスに目を細めながら、予約という言葉を口にしたことに違和感を覚えた。
「予約制のお店なんですか?」
宝石店ならわかるが、雑貨屋なのに予約制?と不思議に思って聞くと、セイウスは首を傾げた。
「占いに興味があったわけではないのですか?」
「占い………ですか?」
アイリスの言葉に彼女が占いができるのを知らなかったのだと、セイウスはわかったようだ。
「申し訳ありません。この雑貨屋で完全予約制で行われている前世占いが今、とても流行っているそうなのです。てっきりそちらを目的にしていると思い……今日予約していた者から、権利を譲ってもらって予約したのですが………」
「権利を譲ってもらった?」
「とても人気で私が予約しようと思ったときにはすでに予約が不可の状態でして………私が取ることが出来た予約の日と今日を交換してもらったのです。明日の夕方しか取れなかったので。あ、ですので貴族の力を使って無理やり予約したわけではありませんから」
慌てて弁明するセイウスを心のなかで可愛いと思いながらも、どうしようかと考えていた。
アイリスには前世の記憶があるので、正直占いには興味がない。
しかし誤解とはいえ、アイリスのために予約を取ってくれたセイウスの苦労を考えれば興味がないとは言いにくかった。
「譲ってくださった方にも悪いですし、占ってもらいます」
そう答えると、セイウスはホッとしたように微笑んだ。
「では入りましょう」
セイウスと一緒にお店に入ると、たくさんのガラス商品が並びキラキラしていた。
ガラスの置物にペン、オルゴールにグラスと様々な商品が売られている。
「前世占いを予約していたのですが」
セイウスが言うと
「お待ちしておりました。占いは奥の部屋で行っております」
名前を確認して、ハキハキと明るい店員はレジ奥の部屋を指さした。
「こちらで占いを行っております」
促されて中に入ると、薄暗い部屋にテーブルと椅子が置かれている部屋があった。
向かいには細身の女性が座っていて、手元には水晶がある。
「どうぞそちらの椅子へ」
小さな声で言われてアイリスが腰掛ける。
「では貴女様の前世を占わせていただきますので、この水晶に手を乗せてください」
雰囲気のある女性でドキドキする。
アイリスは言われたように、水晶に手を乗せた。
すると………ファアアアアと水晶がまばゆい光を出して輝き出した。
「貴女様は………」
占い師はそう言うと、ジッとアイリスを見つめた。
そして………涙を流し始めた。
「生まれ変わって………おられたのですね………」
水晶の光はゆっくりと消えていく。
アイリスは水晶から手を離した。
「嗚呼………生きている間にまた貴女様にお逢いできるとは………」
「なんだ?占い師とアイリスさんの前世になにか繫がりでもあるのか?」
セイウスに言われて占い師は涙を流しながらセイウスを見て、それからアイリスを見つめた。
「きっと私のことなど覚えてもいないでしょう。それでも私は貴女様に生命を救われました。それなのにお礼を言うことも叶わぬまま、貴女様は……」
「アイリスさんの前世はなんなんだ?」
そこまで聞いて、この占い師がアイリスの前世をアリアだと見抜いたことに気がついた。
もし、セイウスの前で前世の話をされたら………困る!
「アイリス様は………」
アイリスは慌てて
「私、前世に興味はありませんの!」
と言葉を遮った。
「今がとても楽しくて幸せなので…………その………」
アリアの名を出さないで!と心の中で叫んだ。
アイリスの慌てぶりに占い師は驚いた様子だったが、セイウスを見て大きく頷いた。
「前世の名前を御本人にお伝えすることはしておりませんのでご安心ください。ただ、貴女様の前世は徳の高い素晴らしい人であったとお伝えさせていただきます」
「あ……ありがとうございます」
「前世の貴女様に助けられた者は私を含め多くいるでしょう。あのときはありがとうございました」
占い師は深々と頭を下げた。
「貴女様が生まれ変わり幸せであられるのであれば、私も幸せです」
「私も、貴女が幸せなら嬉しいですよ」
そう言って笑うと、占い師はまたしても涙した。
「なにがどうなっているんだ………二人だけで解られるとなんだかモヤッとするのだが」
セイウスの言葉に占い師が
「前世というのはとても繊細なものなのです。本来なら一人でこの部屋に入ってもらいます。護衛のためということで特別に許可していますが、彼女の内面に関わる大事なことを第三者がいるのにベラベラと話せるわけがありません」
「貴方が出て行ってくださるのなら詳細を彼女に伝えます」
占い師に言われてセイウスは眉間にしわを寄せた。
「彼女から離れることはできない」
「それではこれ以上、私が伝えられることはありません。貴女様もそれでよろしいでしょうか?」
なかなか頭のキレる占い師だ。
「はい」
「では占いはこれで終わりです」
セイウスが不審がっているが、なんとかごまかせたようだ。
まさか、本当に前世が視える人だとは思わず安易に占いをしたことを後悔した。




