デート5
しばらく歩くと、噴水の音が聞こえだした。
程なくして姿を現した噴水はそれはそれは大きなもので、アイリスは
「なんて大きい噴水なの!」
と思わず感嘆の声を出した。
「立派な噴水ですよね。この国のシンボルに相応しい。100年前の聖女に敬意を払うために作られたと言われています」
その時の聖女は水を操ることができる女性だったため、噴水を作ったと言われている。
「100年前に作られたとは思えないくらい、きれいですね」
「メンテナンスを徹底しているそうですよ。アイリスさん、何か食べたいものはありますか?」
噴水の周りにはたくさんのテイクアウト専門のお店が並んでいる。
「ひと口カステラのお店に、サンドウィッチの店、焼いた肉を串に刺して販売している店もあります。アイスクリームもありますよ」
「すごい!これ全部、外で食べる食事なんですよね!?私、お肉食べてみたいです」
噴水の奥の方にあるお肉の店ではダイス状の肉を串に刺して販売していた。
「あの店は私の行きつけなので、味は保証しますが……アイリスさんに食べることができるでしょうか?」
男性向けのため、お肉ひとつひとつが大きいのだ。
「でもとても美味しそうな香りがします!食べてみたいです」
キラキラとした瞳を見て、セイウスに断れるわけがなかった。
「大将、串肉2つ」
セイウスが注文すると
「これは騎士様!今日はえらく可愛らしいお嬢さんと一緒ですね。デートですか?」
大柄の男が聞いた。
「まぁ、そんなところだ」
「とても美味しいそうな香りがしましたので、食べてみたくなりました。初めまして。アイリスと申します」
アイリスは綺麗なお辞儀をした。
「これはこれは………何処かの貴族様ですか。その……アイリス様にはうちの肉は食べにくいんじゃないですか?」
町娘はあんなきれいなお辞儀はしない。仕草で店主もすぐに貴族の娘だとわかったようだ。
「そんなに食べるのが難しい料理なのですか?」
「難しいというか………フォークもナイフもなくかぶりつく料理なんでね……」
店主は少し考えるように視線を上に向けると
「アイリス様のお肉は特別仕様にさせていただきます!」
とダイス状の肉を鉄板の上で四分の一の大きさにカットして皿に乗せてくれた。フォークも付いている。
「これならアイリス様にも食べやすいでしょう」
「まぁ!ありがとうございます。お値段はおいくらですか?」
「アイリス様の分は無料です。通常のサイズより小さいですし。その代わり騎士様の分はいただきますので」
「なかなか良いサービスだ。感謝する」
セイウスは自分の分のお金を払うと串肉を1つ受け取った。
「そんな………申し訳ありませんわ」
「いいんですよ。その代わり、この店の肉が美味しかったことを宣伝してくださいね」
ウインク付きで言われたので、アイリスはサービスを受けることにした。
近くのベンチに腰掛けて、フォークで一口サイズになった肉を口に運ぶ。
「思ったよりもずっと柔らかいお肉ですね!」
表面がかなりしっかり焼かれているため、硬いと思っていたが、中は柔らかく食べやすい。
「味は保証すると言ったでしょ?あそこの大将のお兄さんが酪農をしていて、良い肉が格安で手に入るそうですよ」
「本当に美味しいです!お肉がいいのもあるでしょうが、こうやって外で食べるとより美味しく感じます」
噴水の音がして、花の香りがして、食べ物が目を楽しませてくれる………。
なんて素敵な空間だろう。
アイリスはあっという間にお肉を平らげてしまった。
「とっても美味しかったです!お皿とフォークを返してきますね」
一人で行こうとするのをセイウスは慌てて追った。
仮令少しの間でも一人にするわけには行かない。
「とっても美味しかったです!」
「それはよかった。また食べにいらして下さいね」
店主と別れて、次は雑貨屋に向かうことにした。
もちろん、手を繋いで。




